レンジでパスタソースをあたためながら、傘を椅子に座らせる。傘を座らせるなんて初めてでどぎまぎした。
玄関に投げておくものとばかり思っていたのに。
傘は男性で、やや大きく、持ち手はごつごつした形をしているが裏腹にさらっとしたすべすべの質感だった。
「部屋に、誰か呼んだの久々だな、ははっ……」
なんだか照れながら、椅子に座らせた傘と目が合わせられない。
「足一本だから不安定ですよね……寝かせた方が椅子に座りやすいかな。でも顔が見えないのは寂しい」
細い布の重なるところから、ぽたりと滴が滴り、絶妙な色香を放っていると思った。
(かっ、傘の癖に……)
太田、である部分が反応し、つい乙女な気持ちになってしまう。
傘と恋仲になって心中するのもいいかもしれない。
生きてるやつしかだめだなんて、偏見、なのか……?
傘なら確かに、人間よりも……ごくりと唾を飲む。
俺と傘、二人を阻むものはない。傘と死ぬなんて、ただ傘をさして死んだだけみたいだが、ロマンチックだった。
「俺が、傘を抱えて、傘を恋人にして……あぁ。生きていないだとか小言はなしで。無機物、対物が恋愛をする、どうだろう、いや、まずは友達から……」
傘と、心友。
不思議な感覚だった。
僕は生き物じゃないから、偏見にさらされるかもしれない、それでも傘と、人間は心の友になれるかな――
「なれるさ! 生きているかなんて……そんなの!」
傘。俺の心の友だ。
でも、本当は――友以上になりたいなんて、ママの手前言えない。
手に取りそっとひらくと、ばさりと大きく羽を広げるように傘が開く。きゅん、としてしまう。
恋をするのに、人間かどうかにこだわっているなんて、案外どうかしていたかも。
やがてパスタを食べながら、傘と話をした。