×
nanoへのご支援
- ナノ -

「ナマエちゃん、今日これから飲み行かない?」
「いいね!久々だし」

放課後、クラスメイトに誘われ飲みに行くことにした。先日の試験のお疲れ様会ということだがそんなものは単なる名目にすぎない。成人を迎えてからというものこうやってことあるごとに飲みに行くようになった。誕生日は人それぞれ違うためクラスメイト全員で行くことは叶わないが、仲の良いグループの子たちはみんな成人を迎えているので堂々とお店に入ることができた。顔立ちが幼い子と行くと年齢を疑われることもあるが、生年月日の記載された学生証さえもっていれば別に咎められることもない。

大輝に今日は友達と飲んで帰るから家にはいない旨をメールで伝え随分と軽い足取りで居酒屋に向かった。

「試験お疲れ様〜!!」
「かんぱーい!!」

今日集まったのは私含めて女子が三人と男子が二人。試験の内容や出来具合をある程度話すとあとはどうでもいい雑談の時間となった。話題は最近注目を集めているあの子達。

「ねえ、帝光中知ってる?」
「うん」
「最近キセキの世代って呼ばれてる子達のこと
は?」
「知ってるよ〜」
「この間月バスに載ってたから買っちゃったんだけど、もうみんな超カッコいいの!」
「え、見たい見たい!」
「特にこの黄瀬くんとか!」
「うわ、本当に載ってる」

クラスメイトが持参していた月バス。
開かれたページを覗くと、カメラ目線で微笑む涼ちゃんが写っていた。

「ちょっと俺にも見せて。うわすげー」
「高橋くんバスケ詳しいの?」
「俺も中高でやってたんだよ。昔から強かったな〜、ここ」
「そうなんだ」
「なになに?桃井も詳しいの?」
「バスケには詳しくないけど…なんていうか」
「この青峰ってのが超ヤバイらしくて」
「ヤバイ?」
「超天才スコアラー」
「天才ねぇ」

全中三連覇へ!と大きく書かれた見出し。そしてキセキの世代と呼ばれるメンバーの特集が組まれている。虹村くんから主将の座を引き継いだ赤司くんを筆頭に、いつの間にかキセキの世代なんて呼ばれるようになって注目された子たち。この子たちにはこの子たちなりの苦労があるのを知っているだけに、見た目だけでキャーキャー騒ぐ気にはなれない。特に最近の大輝は、大好きなバスケにときめくこともなく、ただ勝つのが当たり前のチームで試合だけこなしているといった感じだった。天才などと呼ばれてはいるが、大輝だってそれなりに努力して来たのである。

「うわこのマネ可愛いな」
「桃井…?え、桃井ってもしかして」
「え、それ?妹」
「マジかよ!」
「じゃあキセキの世代と知り合い!?」
「その色黒の青峰くんとは幼馴染」
「えー!!」

試験の話題なんてどこへやら、前半はキセキの世代の話題が常に中心にあった。

「黄瀬くん紹介して!」
「中学生だよ?犯罪でしょ」
「う〜やっぱり?」

あの子たちは全員大人っぽいから全然中学生には見えないんだけどなあ…。

「まあまあ、とりあえず飲もうよ」
「そうだね」

せっかくの二時間飲み放題を堪能しなければと飲み始め、後半はとにかくただひたすらに酒をあおった。所謂若気の至りで、自分が何杯飲めるか、どんな種類の酒を飲めるかなどと自慢したい年頃なのだ。

「おい桃井大丈夫かよ」
「へーきへーき」
「ダメだな…」

ほろ酔い気分のまま店を出て、帰る方向により二手に分かれた。私は高橋くんと同じ方向だったので、二人で帰ることに。

「普段真面目なのに、ああいう時酒飲むよな」
「元取らなきゃって気になるよね」
「わかる気がする」

いつもなら大輝と歩く道を、今日は高橋くんと二人。隣にいる人が違うだけで日常のそれは唐突に見慣れない光景になっていた。

「おいおい、真っ直ぐ歩けって」
「そんなに酔ってないんだけどな…」
「酔ってるやつは大体そう言うんだよ」

歩きながらポケットから携帯を取り出してメールをチェックすると大輝から「じゃあ今日は帰る」と書かれた簡素なメールが届いていた。明日は土曜日だから学校は休みなのに大輝は相手してくれないのか。と、飲みに出かけた自分のせいだということは棚に上げて遊びに来てくれない大輝を恨んだ。

「な、バスケ部の話聞かせてよ」
「キセキの世代?」
「どんなやつらなの?」
「私もそんなに親しくないよ、大輝と涼ちゃんくらい」
「ダイキ…?」
「青峰くんと黄瀬くん」
「へぇ」
「よくマッサージしてあげてる」
「そうなんだ」
「すごいんだよ、中学生なのに背が高くて体もガッチリしてて。揉みがいのある筋肉ついてる」
「桃井はいつも実践練習してたわけだ」
「そうそう、」
「だから実習の点数いいのか」
「大輝に感謝しないとね〜」

居酒屋で散々喋ったというのに、まだ帝中バスケ部のことや学校のことを話している自分に呆れながら必死に足を動かしていると、見慣れた制服が。

「りょ〜〜ちゃ〜〜ん!」
「桃井声でかい」
「わ、ナマエさん」
「涼ちゃんいま帰り?」
「はい」
「うわ、黄瀬涼太」
「あんた誰ッスか」
「あ、この人私の同級生」
「ども」
「送ってもらってたんだ〜」

ヘラ、と笑うとすごく蔑んだような目で見られた。何かおかしなことでも言っただろうか。

「俺家近いんでナマエさん送って行きますよ」
「本当?涼ちゃん優しい」
「というわけで、連れて帰ります」
「あ、おお」
「高橋くんまたね〜」
「気をつけて帰れよ」

高橋くんと別れ、涼ちゃんに腕を掴まれたまま引きずられるように歩く。暫くすると涼ちゃんがピタリと足を止めたので、私も彼に倣って止まった。

「なに?」
「あんた自覚持った方が良いッスよ」
「なんの?」
「男!」
「へ?」
「こんな酔っ払って男と二人きりで家まで送らせるとか正気の沙汰じゃないッスよ」
「どうして?」
「襲われても文句言えないッスよ」
「そんなん処女じゃあるまいし〜」
「違うんスか…ってそうじゃなくて」
「だったら今涼ちゃんとも二人きりだよ」
「ああもう!無自覚か!」
「涼ちゃんは何もしないでしょ」
「したらどうするんスか」
「え、そんなの女冥利に尽きる」
「自分大事にして欲しいッス…」

呆れ顔の涼ちゃんに家まで連れて帰ってもらい、そのまま玄関先で別れた。

週末の夜、ひとりきりの部屋、そして酒に酔っている現状。寂しくなる要素満載のこの部屋で思い浮かべるの顔はただひとつ。

「あ〜大輝に会いたい」

いつものように背中に跨って体を揉んであげたい。
と言うのは嘘で抱きしめられたい。人肌が恋しい。

ーーープルルルルルル

「…んだよ」
「大輝?」
「何時だと思ってんだ。お前またバカみたいに飲んだろ」
「んー酔ってるかな」
「今ひとりなんだな。どうやって帰ってきた」
「送ってもらった」
「男か」
「途中までクラスの高橋くんで途中から涼ちゃん」
「は?また黄瀬?」
「寄って行きなよって言ったけどダメって言われた」
「あったりめーだバカ」
「だってさ、何か寂しくて」
「お前が飲んでくるっつーからだろ」
「大輝…会いたい」
「…っ…明日な」
「優しい〜」
「もう寝ろ、酔っ払い」
「はーい」

電話を切ったあと暫く余韻に浸って、化粧だけ落としてそのままソファで眠ってしまった。
起きた時に鬼みたいな顔をした大輝がいるかもしれないことを想像するとよく眠れた。


←前項戻る次項→