この間はごめんなさい。よかったらご飯食べに来ない?とメールを打ったのは昨日の夕方。メールを見れば部活帰りにでも来てくれるだろうと思っていたのだが現実は甘くなく、大輝からのメールの返信すらないまま一日経ってしまった。私が悪いとはいえ避けられるのは癪だった。実家を出るまで十年以上一緒にいたのに、こんな些細なことで疎遠になりたくないというのに。
会いに来てくれないのであれば会いに行こうと、バイトが休みの日に帝光中に行ってみることにした。しかし流石強豪校。かなり遅くまで練習してしているらしく、いくら待ってもバスケ部らしき人が出てくる気配はなくて、あっという間に空は真っ暗になってしまった。
(もう帰ろうかな…)
と思っていた矢先、賑やかな声が聞こえて来て校門から中を覗くと数日前に見たばかりの黄色い頭が見えた。
「あ、涼ちゃん!」
「ナマエさん?どうしたんスか?」
「大輝は一緒じゃない?」
「青峰っちならもうすぐ来ると思いますよ」
「そっか、ありがとう」
涼ちゃんと話をしていると、以前試合会場で見かけた赤い髪の男の子がやってきた。
「涼太、この人は?」
「赤司っち、桃っちのお姉ちゃんのナマエさんッス」
「どうも、赤司です」
「初めまして、ナマエです」
「この人は副主将の赤司っちで、こっちが黒子っちです」
「テツくんだよね」
「はい、黒子テツヤです」
「妹からよく聞いてます。いつも妹がお世話になってます」
「桃井さんにはとてもよくしてもらっていて、お礼を言うのはこちらの方です」
涼ちゃんに比べると幾分大人っぽく見える赤司くんと、大人しそうなテツくん。顔を合わせるのは初めてだけど、さつきから随分とバスケ部の話を聞かされるから初めましてな感じがしなくて不思議だ。
「あ!青峰っち来たッスよ、青峰っち〜〜!!ナマエさんが待ってるッスよ!!!」
「は?」
気怠げにエナメルバッグを肩からかけた大輝は私の姿を見つけると目を丸くしていた。「じゃ、俺らはこれで」と言った涼ちゃんにお礼を言って大輝を待つ。
「なにしてんだよ」
「私の性格わかってるでしょ。あんな気まずいまま疎遠なんて嫌だから押しかけたの」
「いるかどうかもわかんねぇのにずっと待ってたのか?バカだろ」
「メール返してくれないからでしょ」
「あれは…その、」
「いや、元はと言えば私のせい。心配してくれてたのにごめんなさい」
「…俺もメール無視して悪かった」
「今日さつきは?」
「監督と話あるから先帰れって。帰りは監督が送るからってよ」
「そっか」
「今日お前んち行っていい?」
「うん、ご飯食べていって」
たった数日ぶりだというのに、元に戻った自分たちの関係が嬉しくて、つい笑みがこぼれる。
「いつから待ってたんだ」
「二時間くらい?」
「バカだろ。俺がこないだ何で怒ったか忘れてねぇだろうな」
「覚えてるよ」
「…ったく」
「心配してくれてありがとう」
隣を歩く大輝が、そうだ…とひとり呟きながらバッグの中をごそごそと漁る。突然どうしたんだろうと思いながら様子を伺っていると、一枚の封筒を手渡された。
「なに?」
「うちの母ちゃんから」
「え?おばさんから?何だろ」
封筒を開けてみると何とそこには一万円札が入っていた。
「え?なんで?」
「俺がいつもお前のところで飯食って帰るから、そんなんじゃナマエちゃん食費大変でしょ!って叱られてよ」
「でも、悪いよこんなの」
「俺が言うのもなんだけど、貰ってくれねぇと気兼ねなく飯食えねぇじゃん」
「わかった…あとでお礼の電話しとく」
そうしろそうしろ、とどこか他人事のように話している大輝の背中に一発拳をお見舞いする。全く…お子様は気楽で良いですね。
「さっきね、涼ちゃんとテツくんと赤司くんに会ったよ」
「涼ちゃん、だと?」
「黄瀬くん」
「んなことわかってる。いつの間にそんなに仲良くなってんだよ。孕むぞっつったろ」
「この間バイト帰りにたまたま会ったの。その時にそう呼んでって言われたから」
「あいつマジでシメる」
「最近大輝が1on1の相手してくれないって嘆いてたよ」
「明日やってやら。そんで泣かす」
「こわいこわい」
家に着くまでの間に会っていなかった数日分の話をした。バイトのことは未だによく思っていないようだが、そこはやはり生活するために仕方ない事だと割り切ってもらうしかない。心配してくれる気持ちはありがたいが、私は大輝より五つも年上で、もうすぐ大人の仲間入りなのだ。甘えてばかりいられない。
「あ〜腹減った」
「すぐ用意するからシャワー浴びておいで」
「サンキュー」
脱ぎ散らかされた制服をまとめて畳んで新しい着替えを用意する。まるで母親のようだと、せっせと世話をする自分に苦笑いが漏れた。
大輝がお風呂から上がってすぐに食卓にご飯を並べると、大輝のお腹がグゥと鳴った。今日もハードな練習だったようだ。
「うまそう」
「いっぱい食べてね。残されても私ひとりじゃ食べきれないから」
「しっかし…何でナマエはこんだけ料理できるのに、さつきはからっきしなんだろうな」
「あの子が料理まで完璧だったらお姉ちゃんの立場なくなるよ」
「胸もでけぇしな」
「そうだよね〜。同じもの食べて育ったはずなのに」
「お前も小さくはないじゃん」
「でも成長期は終わってるからね」
「ああ…」
「そんな残念そうな目で見ないで」
他愛ない話。私と大輝のいつもの距離感で過ごす時間は心地よく、いつまでもこんな関係が続けば良いなと思う。
「大輝」
「なんだよ」
「またご飯食べに来て」
「言われなくても」
「バイトがある日はちゃんとメールするから、その時は自分の家に帰ってね」
「考えとく」
これから先も変わらず、私の部屋に我が物顔で居座る大輝がいるんだろう。私に彼氏などできたらどうするんだろうか。逆もしかり、大輝に彼女ができたら勿論こんなこと続けられないだろう。きっとお互いの隣に、私達ではない誰かが立つ日は遠くないのだろうが…もうしばらくは甘えられたいし、甘えたい。
「大輝」
「なに」
「呼んだだけ」
「ガキかよ」
「大人よ」
「はいはい」
「あとでマッサージするね」
「おう、頼むわ」
使い終わった食器を片してお風呂に入り、上がったところでベッドを見やると気持ちよさそうに眠る大輝がいた。
「そこ、私のベッドなんだけど」
頬をつつくと眉間に皺が寄るが、寝顔はまだまだあどけない。
大きな体を一生懸命転がして、うつ伏せに寝かせて背中に跨がる。凝りをほぐすように揉むと眉間の皺が一層濃くなった。凝ってるなぁと思いながら、毎日練習に熱をあげる大輝が少しでも楽になるようにと力を込める。
「いてぇっ!」
「わ、ごめん起きた?」
「寝ちまってたのか…悪りぃ」
「寝てて良いよ、揉んどくから」
「お前もう寝るだけ?」
「うん、マッサージ終わったら」
「いや、もういい。寝るぞ」
「え?」
仰向けになった大輝に突然腕を引かれ、そのまま広い胸にぶつかるように倒れこんだ。
「昔は逆だったよね」
「は?なにが」
「泊まりに来た時にホラー映画見て眠れなかった大輝をさ、私が抱きしめて寝てたじゃん」
「ガキの頃な」
「大きくなったよね」
「当たり前だっつーの。お前は抱き枕代わりだけどな」
「はいはい」
今日は大人しく抱き枕にされたまま眠るとしよう。
会いに来てくれないのであれば会いに行こうと、バイトが休みの日に帝光中に行ってみることにした。しかし流石強豪校。かなり遅くまで練習してしているらしく、いくら待ってもバスケ部らしき人が出てくる気配はなくて、あっという間に空は真っ暗になってしまった。
(もう帰ろうかな…)
と思っていた矢先、賑やかな声が聞こえて来て校門から中を覗くと数日前に見たばかりの黄色い頭が見えた。
「あ、涼ちゃん!」
「ナマエさん?どうしたんスか?」
「大輝は一緒じゃない?」
「青峰っちならもうすぐ来ると思いますよ」
「そっか、ありがとう」
涼ちゃんと話をしていると、以前試合会場で見かけた赤い髪の男の子がやってきた。
「涼太、この人は?」
「赤司っち、桃っちのお姉ちゃんのナマエさんッス」
「どうも、赤司です」
「初めまして、ナマエです」
「この人は副主将の赤司っちで、こっちが黒子っちです」
「テツくんだよね」
「はい、黒子テツヤです」
「妹からよく聞いてます。いつも妹がお世話になってます」
「桃井さんにはとてもよくしてもらっていて、お礼を言うのはこちらの方です」
涼ちゃんに比べると幾分大人っぽく見える赤司くんと、大人しそうなテツくん。顔を合わせるのは初めてだけど、さつきから随分とバスケ部の話を聞かされるから初めましてな感じがしなくて不思議だ。
「あ!青峰っち来たッスよ、青峰っち〜〜!!ナマエさんが待ってるッスよ!!!」
「は?」
気怠げにエナメルバッグを肩からかけた大輝は私の姿を見つけると目を丸くしていた。「じゃ、俺らはこれで」と言った涼ちゃんにお礼を言って大輝を待つ。
「なにしてんだよ」
「私の性格わかってるでしょ。あんな気まずいまま疎遠なんて嫌だから押しかけたの」
「いるかどうかもわかんねぇのにずっと待ってたのか?バカだろ」
「メール返してくれないからでしょ」
「あれは…その、」
「いや、元はと言えば私のせい。心配してくれてたのにごめんなさい」
「…俺もメール無視して悪かった」
「今日さつきは?」
「監督と話あるから先帰れって。帰りは監督が送るからってよ」
「そっか」
「今日お前んち行っていい?」
「うん、ご飯食べていって」
たった数日ぶりだというのに、元に戻った自分たちの関係が嬉しくて、つい笑みがこぼれる。
「いつから待ってたんだ」
「二時間くらい?」
「バカだろ。俺がこないだ何で怒ったか忘れてねぇだろうな」
「覚えてるよ」
「…ったく」
「心配してくれてありがとう」
隣を歩く大輝が、そうだ…とひとり呟きながらバッグの中をごそごそと漁る。突然どうしたんだろうと思いながら様子を伺っていると、一枚の封筒を手渡された。
「なに?」
「うちの母ちゃんから」
「え?おばさんから?何だろ」
封筒を開けてみると何とそこには一万円札が入っていた。
「え?なんで?」
「俺がいつもお前のところで飯食って帰るから、そんなんじゃナマエちゃん食費大変でしょ!って叱られてよ」
「でも、悪いよこんなの」
「俺が言うのもなんだけど、貰ってくれねぇと気兼ねなく飯食えねぇじゃん」
「わかった…あとでお礼の電話しとく」
そうしろそうしろ、とどこか他人事のように話している大輝の背中に一発拳をお見舞いする。全く…お子様は気楽で良いですね。
「さっきね、涼ちゃんとテツくんと赤司くんに会ったよ」
「涼ちゃん、だと?」
「黄瀬くん」
「んなことわかってる。いつの間にそんなに仲良くなってんだよ。孕むぞっつったろ」
「この間バイト帰りにたまたま会ったの。その時にそう呼んでって言われたから」
「あいつマジでシメる」
「最近大輝が1on1の相手してくれないって嘆いてたよ」
「明日やってやら。そんで泣かす」
「こわいこわい」
家に着くまでの間に会っていなかった数日分の話をした。バイトのことは未だによく思っていないようだが、そこはやはり生活するために仕方ない事だと割り切ってもらうしかない。心配してくれる気持ちはありがたいが、私は大輝より五つも年上で、もうすぐ大人の仲間入りなのだ。甘えてばかりいられない。
「あ〜腹減った」
「すぐ用意するからシャワー浴びておいで」
「サンキュー」
脱ぎ散らかされた制服をまとめて畳んで新しい着替えを用意する。まるで母親のようだと、せっせと世話をする自分に苦笑いが漏れた。
大輝がお風呂から上がってすぐに食卓にご飯を並べると、大輝のお腹がグゥと鳴った。今日もハードな練習だったようだ。
「うまそう」
「いっぱい食べてね。残されても私ひとりじゃ食べきれないから」
「しっかし…何でナマエはこんだけ料理できるのに、さつきはからっきしなんだろうな」
「あの子が料理まで完璧だったらお姉ちゃんの立場なくなるよ」
「胸もでけぇしな」
「そうだよね〜。同じもの食べて育ったはずなのに」
「お前も小さくはないじゃん」
「でも成長期は終わってるからね」
「ああ…」
「そんな残念そうな目で見ないで」
他愛ない話。私と大輝のいつもの距離感で過ごす時間は心地よく、いつまでもこんな関係が続けば良いなと思う。
「大輝」
「なんだよ」
「またご飯食べに来て」
「言われなくても」
「バイトがある日はちゃんとメールするから、その時は自分の家に帰ってね」
「考えとく」
これから先も変わらず、私の部屋に我が物顔で居座る大輝がいるんだろう。私に彼氏などできたらどうするんだろうか。逆もしかり、大輝に彼女ができたら勿論こんなこと続けられないだろう。きっとお互いの隣に、私達ではない誰かが立つ日は遠くないのだろうが…もうしばらくは甘えられたいし、甘えたい。
「大輝」
「なに」
「呼んだだけ」
「ガキかよ」
「大人よ」
「はいはい」
「あとでマッサージするね」
「おう、頼むわ」
使い終わった食器を片してお風呂に入り、上がったところでベッドを見やると気持ちよさそうに眠る大輝がいた。
「そこ、私のベッドなんだけど」
頬をつつくと眉間に皺が寄るが、寝顔はまだまだあどけない。
大きな体を一生懸命転がして、うつ伏せに寝かせて背中に跨がる。凝りをほぐすように揉むと眉間の皺が一層濃くなった。凝ってるなぁと思いながら、毎日練習に熱をあげる大輝が少しでも楽になるようにと力を込める。
「いてぇっ!」
「わ、ごめん起きた?」
「寝ちまってたのか…悪りぃ」
「寝てて良いよ、揉んどくから」
「お前もう寝るだけ?」
「うん、マッサージ終わったら」
「いや、もういい。寝るぞ」
「え?」
仰向けになった大輝に突然腕を引かれ、そのまま広い胸にぶつかるように倒れこんだ。
「昔は逆だったよね」
「は?なにが」
「泊まりに来た時にホラー映画見て眠れなかった大輝をさ、私が抱きしめて寝てたじゃん」
「ガキの頃な」
「大きくなったよね」
「当たり前だっつーの。お前は抱き枕代わりだけどな」
「はいはい」
今日は大人しく抱き枕にされたまま眠るとしよう。
