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- ナノ -

桃井ナマエ。家族は父と母と五歳年の離れた妹がひとり。あとは…特筆すべきことではないかもしれないが、妹と同い年の幼馴染がひとり。昔は可愛かったが今では結構な問題児である。

「おねえちゃん!今日大ちゃんがね、」と、妹は昔から毎日のように大輝の後ろをついて回りとても楽しそうにしていた。大輝がバスケットボールを始めたときには一緒にバスケの勉強をしたり、彼と共に日々新しいことにチャレンジしているようだった。徐々に知識を増やし才覚をあらわした妹は、常に大輝のとなりでバスケをサポートしていた。そんな妹が羨ましいと思ったことは沢山あるが姉としてのプライドもあった為、たまに試合を観に行く程度で私は極力バスケには関わらずにいた。知っているのは簡単なルール程度。

「お姉ちゃん聞いてよ、青峰くんがね…」と、さつきが大輝を青峰くんと呼び出したのはいつの頃だったか。思春期特有の気恥ずかしさから名字で呼んでくれと言われたらしいが、私が大輝のことを青峰くんと呼ぶと、大輝はものすごいしかめっ面をして「お前はいい」と言っていた。五歳も年が離れているため同じ学校に通うことがないから私からはなんと呼ばれても良いのだろう。嬉しいようで少しばかり複雑な心境だ。

妹のさつきと幼馴染の青峰大輝が進学したのは帝光中学校というバスケの名門校だ。大輝はすぐに才能を発揮し、レギュラー入りしたという。さつきもマネージャーとしてバスケ部のサポートに徹しているらしい。

「毎日遅くまで大変ね」
「すごく上手い人たちばっかりでね、めちゃくちゃ強いの!本当にすごいんだよ!」

嬉しそうに語るさつきは眩しい。

「で、大輝は何してるの」
「いや、飯食いにきた」
「自分の家で食べなさいよ」
「今日地区の集まりで誰もいないんだよ。こっちもそうだからナマエの飯食えると思って」

さつきと共に帰ってきた大輝は当たり前のように私の隣に腰掛けご飯をねだる。今日はうちの両親も大輝の両親も集まりに出ているから元々そのつもりだったが…この子は私に対して遠慮というものがない。

「あのね、いつまでもこんなこと続かないからね」
「どういう意味だ?」
「私、高校卒業したらこの家出るから」
「は?」
「え、お姉ちゃん本当に?」
「うん。まだ進学するか就職するか決めてないけど…卒業したらひとり暮らしするつもり」
「さみしい…」
「そんなこと言って、きっとさつきと大輝の方が忙しくて私に構う余裕なくなっちゃうんじゃない?」
「そんなことないもん!」

ムキになるさつきと、黙ってご飯を食べ続ける大輝。私の将来のためなのだからこればかりは致し方ない。

「はー食った食った」
「どうだった?」
「美味かった」
「そう、良かった」

キラキラと効果音がつきそうなくらい眩しい笑顔でそう言ってもらえると、こっちも作り甲斐がある。そしてまた作ってあげたくなってしまう。

「じゃ、俺帰るわ」
「あ、私ちょっとコンビニ行きたいから一緒に出るよ。さつき何かいる?」
「んー、甘いもの!」
「はいはい」

帰り支度を整えた大輝に少しだけ待ってもらって一緒に外に出た。とはいえ大輝の家とコンビニは反対方向にあるから直ぐにお別れなのだが。

「大輝、明日も練習頑張りなよ」
「あったりめーだ」
「じゃ、また」
「は?コンビニ行くんだろ」
「行くけど大輝も用事あるの?」
「ねーけど、お前ひとりで行かせられねーだろ」
「案外紳士なんだね」
「うるせ。黙って歩け」

中学生なのに、年下なのに。
同じ年頃の子たちよりも背の高い大輝はそれだけで大人っぽく見える。あんなに小さかったのに、いつの間にこんなに大きくなったのか。

「なぁ、」
「なに?」
「今度試合あるんだ。観にこねぇ?」
「最近ずっと行ってなかったもんね…うん、行く」

目を輝かせて語る大輝は本当にバスケが大好きで大好きで、一緒に部活をやっている仲間が大好きで、彼にとってバスケとは唯一無二のもので。それだけ夢中になれるものがあるのは、正直羨ましかった。

「ナマエさ、なんか悩んでる?」
「え?」
「最近ずっと暗いぜ?」
「…さつきも気付かないのに、大輝は鋭いね」
「なんかあったのか?」
「進路、迷ってるの」
「進路ねー」
「大輝やさつきみたいに、夢中になれるものとか、続けたいものとか見つからないの」
「…じゃあ、俺がプロの選手になってお前のこと迎えに行くから…それまで待ってれば」
「大輝…気持ちは有難いけど、大輝の夢に私は必要ないでしょ?邪魔になるだけ」
「んなことねぇよ。俺はずっとお前に見ててほしいと思ってる。俺のバスケを」

俯きながら照れ臭そうに私の小指を握ってそう言ってくれた大輝。五つも年下だけど、この時は立派な男に見えて感動したのを覚えている。そして私はこの子を支えたい、そう思った。

「大輝、私決めた」
「なにを?」
「進路。大輝の役に立ちたい」

険しい道のりになるかもしれないが、夢を追いかける大輝を見て私もそんな大輝を追いかけてみたくなった。

「ありがとう、大輝」
「俺は何もしてねーよ」

ぶっきらぼうだけど優しいこの子が私は大好きだ。


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