「ん…………はよ」
目が覚めたのは思いの外早く、まだ六時にもなっていなかった。カーテンの隙間から少しだけ日が差し込むベッドの上、目の前に好きな人がいておはようと言ってくれるなんて、私は今世界中の誰よりも幸せだなと目を閉じてその幸せを噛みしめる。そんなことを思っていると急に鼻を摘まれ、摘んだ張本人を見ると「なに一人でにやけてんだよ」とつまらなさそうに言われた。
「私、幸せだなと思って」
「そんなことか」
興味なさげに返事をしながらも、布団の中で私を抱き寄せる腕は優しくて温かい。
「腰痛くねぇ?」
「ちょっと痛い。でも平気」
「無理させて悪かった」
「無理なんてしてないよ」
大輝が与えてくれる幸福感を少しでも返せたらと、目の前の分厚い胸に唇を寄せる。ハートマークに見えるようにつけたキスマークは、私の胸にあるそれとお揃いだ。何度も唇と体を重ねて迎えた朝なのにまだまだ彼が足りない。体の中で好きが積もって口から溢れてきてしまう。
「ふはっ、くすぐってぇよ」
「ん…ふふ、大輝…好き」
「昨日からそればっかだな」
「好きなの、本当に」
自分でもおかしいと思う。こんなに誰か一人のことを思って恋い焦がれたことなんてなかったのにどうしてなのだろう。
昨日もらった指輪は薬指に嵌めるには少し大きかったので今は中指に嵌められている。大輝の右の薬指にもお揃いの指輪。天井に向かって手を伸ばし、朝日に照らされ反射でキラキラ光る指輪を眺めていると、大輝も私に倣って天井に向かって手を伸ばした。
「お揃いのものって初めてかもね」
「だな」
「でもバスケするときは指輪できないよね」
「チェーンに通して首からかけとくか」
「それがいいかもね。っていうか学校行くときは外しておいてもいいんじゃない?」
「そんなことしてたらなくしそうだし」
「大輝らしい」
どこにつけるかなんてものは今の私たちにとってはそれほど重要なことではない。二人のために大輝がこれを私に贈ってくれたことが何よりも嬉しかったのだから。
「さつきにバレたらすぐ聞かれそうだな」
「鋭いからね、あの子」
繰り返される他愛ない話は、他人が聞けばあくびが出そうなほどつまらないものかもしれないが、今この空間にいる私たちにしてみれば、どんな些細な内容の話でもかき氷のシロップのように甘く魅力的なものだ。
「部活何時から?」
「今日は昼からつってたな。お前は?」
「海常も昼から。夜はカフェの方行ってくる」
「無理すんなよ。もうしばらく寝るか?」
「うん…」
穏やかな空気の中、温かな泥の中に埋もれていくようにゆるゆると再び目を閉じた。
数時間後、セットしていたアラームで目を覚ました私は、大輝の寝顔にひとつキスをしてキッチンへ向かった。かなり遅めの朝食だが、部活に行く前に少しくらい胃に物を入れたほうが良いだろう。
食パンを焼いて、ベーコンエッグを作る。
それから生野菜と果物をミキサーにかけて簡単なスムージーを一種類作ったところで大輝が起きてきた。
「飯?」
「うん、座って」
「洒落た飯だな」
「そう?栄養バランスは考えてるつもり」
「さつきに見せてやりてえ」
「練習すればできるようになると思うよ」
「そうか?」
あれは無理だろと用意したパンを頬張る大輝。
さつきと違ってそばにいられないぶん、こうして少しでも大輝の役に立ちたくて私なりに頑張ってるんだよ、なんて…本人には言えないんだけど。
一緒に家を出てそれぞれの目的地へと向かう。
海常についてすぐ、涼ちゃんが眼ざとく指輪を発見しあれやこれやと騒いでいたが、そうやって大輝のことでからかわれることすら楽しく感じてしまうのだからもう末期だ。
「ナマエさん、青峰っちのこと大好きなんスね。どっちかといったら青峰っちの一方通行っていうか、そんな感じだと思ってたッス」
「自分でもビックリしてる、私こんな感じなのかって」
「いいことだと思うッスよ。釣り合いが取れてて。長続きの秘訣じゃないッスか?」
「そうだったら良いんだけど」
手に入ったら失うときのことを考えてしまう。
好きすぎるから、もしもの時のことが頭をよぎってしまうのは仕方ないことなのだろうか。
目が覚めたのは思いの外早く、まだ六時にもなっていなかった。カーテンの隙間から少しだけ日が差し込むベッドの上、目の前に好きな人がいておはようと言ってくれるなんて、私は今世界中の誰よりも幸せだなと目を閉じてその幸せを噛みしめる。そんなことを思っていると急に鼻を摘まれ、摘んだ張本人を見ると「なに一人でにやけてんだよ」とつまらなさそうに言われた。
「私、幸せだなと思って」
「そんなことか」
興味なさげに返事をしながらも、布団の中で私を抱き寄せる腕は優しくて温かい。
「腰痛くねぇ?」
「ちょっと痛い。でも平気」
「無理させて悪かった」
「無理なんてしてないよ」
大輝が与えてくれる幸福感を少しでも返せたらと、目の前の分厚い胸に唇を寄せる。ハートマークに見えるようにつけたキスマークは、私の胸にあるそれとお揃いだ。何度も唇と体を重ねて迎えた朝なのにまだまだ彼が足りない。体の中で好きが積もって口から溢れてきてしまう。
「ふはっ、くすぐってぇよ」
「ん…ふふ、大輝…好き」
「昨日からそればっかだな」
「好きなの、本当に」
自分でもおかしいと思う。こんなに誰か一人のことを思って恋い焦がれたことなんてなかったのにどうしてなのだろう。
昨日もらった指輪は薬指に嵌めるには少し大きかったので今は中指に嵌められている。大輝の右の薬指にもお揃いの指輪。天井に向かって手を伸ばし、朝日に照らされ反射でキラキラ光る指輪を眺めていると、大輝も私に倣って天井に向かって手を伸ばした。
「お揃いのものって初めてかもね」
「だな」
「でもバスケするときは指輪できないよね」
「チェーンに通して首からかけとくか」
「それがいいかもね。っていうか学校行くときは外しておいてもいいんじゃない?」
「そんなことしてたらなくしそうだし」
「大輝らしい」
どこにつけるかなんてものは今の私たちにとってはそれほど重要なことではない。二人のために大輝がこれを私に贈ってくれたことが何よりも嬉しかったのだから。
「さつきにバレたらすぐ聞かれそうだな」
「鋭いからね、あの子」
繰り返される他愛ない話は、他人が聞けばあくびが出そうなほどつまらないものかもしれないが、今この空間にいる私たちにしてみれば、どんな些細な内容の話でもかき氷のシロップのように甘く魅力的なものだ。
「部活何時から?」
「今日は昼からつってたな。お前は?」
「海常も昼から。夜はカフェの方行ってくる」
「無理すんなよ。もうしばらく寝るか?」
「うん…」
穏やかな空気の中、温かな泥の中に埋もれていくようにゆるゆると再び目を閉じた。
数時間後、セットしていたアラームで目を覚ました私は、大輝の寝顔にひとつキスをしてキッチンへ向かった。かなり遅めの朝食だが、部活に行く前に少しくらい胃に物を入れたほうが良いだろう。
食パンを焼いて、ベーコンエッグを作る。
それから生野菜と果物をミキサーにかけて簡単なスムージーを一種類作ったところで大輝が起きてきた。
「飯?」
「うん、座って」
「洒落た飯だな」
「そう?栄養バランスは考えてるつもり」
「さつきに見せてやりてえ」
「練習すればできるようになると思うよ」
「そうか?」
あれは無理だろと用意したパンを頬張る大輝。
さつきと違ってそばにいられないぶん、こうして少しでも大輝の役に立ちたくて私なりに頑張ってるんだよ、なんて…本人には言えないんだけど。
一緒に家を出てそれぞれの目的地へと向かう。
海常についてすぐ、涼ちゃんが眼ざとく指輪を発見しあれやこれやと騒いでいたが、そうやって大輝のことでからかわれることすら楽しく感じてしまうのだからもう末期だ。
「ナマエさん、青峰っちのこと大好きなんスね。どっちかといったら青峰っちの一方通行っていうか、そんな感じだと思ってたッス」
「自分でもビックリしてる、私こんな感じなのかって」
「いいことだと思うッスよ。釣り合いが取れてて。長続きの秘訣じゃないッスか?」
「そうだったら良いんだけど」
手に入ったら失うときのことを考えてしまう。
好きすぎるから、もしもの時のことが頭をよぎってしまうのは仕方ないことなのだろうか。
