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- ナノ -

大輝と約束したお祭り当日。私は実家に帰り、お母さんに浴衣の着付けをしてもらっていた。

「大ちゃんも浴衣で来るの?」
「うん」
「浴衣デートなんて羨ましいわねぇ」
「私…浮かれすぎてない?大丈夫?」
「若いんだから浮かれてなんぼよ」

数年前おばあちゃんが作ってくれた浴衣をまとい、髪は浴衣に合うように高い位置で結ってもらって簪をさす。普段では中々できない格好に密かにテンションが上がっていた。

「変じゃないよね?」
「大丈夫大丈夫!心配性ね」

大輝は可愛いと言ってくれるだろうか、なんて心配しているとチャイムが鳴った。恐らく大輝だ。

「お母さん出るからナマエも準備しなさい」
「はーい」

身支度を整えて、今日のために新調した巾着に財布と携帯を入れて、お母さんのはしゃぐ声がする玄関に向かう。

「大ちゃん似合ってるわね」
「あざす」
「ちゃんとナマエのこと可愛く仕上げたから安心してね」
「あいつは元々可愛いっすけど…」
「ふふ、若いっていいわ。今呼んでくる」

なんだかニヤニヤしているお母さんからすれ違いざまに行ってらっしゃいと見送られ、行ってきますと返して浴衣姿の大輝に駆け寄る。

「大輝、お迎えありがとう。…似合ってるよ」
「ああ…ナマエも…似合ってる」

お互いの見慣れない格好に、恥ずかしさと小さなこそばゆさを携え家を出た。家を出てすぐに握られた手が汗ばんでいるのは気温のせいだけではない。いつもより足早で口数の少ない大輝。照れているのなんてわかりきったことだが…せっかくだから楽しくデートがしたい、そう思ってちょっとだけ足を止めた。

「ん?どうした」
「浴衣…見慣れないから新鮮だね。でもすごく素敵」
「だな。いつもより可愛く見える」
「せっかくこんな格好してるんだから、デート楽しもう」
「ああ」
「もっとゆっくり話しながら歩きたい」
「悪い、早かったな」

なんか恥ずかしくてよ…とあさっての方向へと視線を飛ばした大輝は、私の思いを汲んでくれたらしく、しっかりと手を繋ぎなおして祭り会場までゆっくりと並んで歩いてくれた。屋台が並ぶ通りにたどり着くと、とにかく人が多い。小さな子どもから老人まで本当にたくさんの人で溢れていた。これだけ人がいれば知人に会うかもしれないな…と思いながら歩みを進めた。

「相変わらずすげぇな、この人出は」
「すぐはぐれちゃいそう」
「んなことさせるかよ。しっかり握ってろ」

人ごみをかき分けるようにグイグイと目当ての屋台に向かって進む大輝に手を引かれ、私も必死についていく。焼き鳥やたこ焼き、焼きそばなど色気もへったくれもないようなメニューばかりを購入しては口いっぱいに頬張り嬉しそうに笑う彼は最近見た中で一番年相応に見えた。

「ん、たこ焼き一個やる」
「ありがと」

ジャンボたこ焼きと銘打ってるだけあって一口で食べるには少々難しいサイズではあったが、あーんと言いながら一緒に口を開けている大輝にいつまでもそうさせているのは申し訳なくて一生懸命口を開いた。

「んー!あつい!」
「はは、ソースついちまったな」
「あ…」

私の口元についたソースを指ですくってそのまま自分の口に入れてしまった大輝のスムーズな一連の動作に胸が騒ぐ。私と大輝って付き合ってるからこんなの普通…なんだよね。しかしそれじゃなくても心を許した人であれば他人との距離が異常に近い子だ。こういうこと、ほかの人でもするんだろうか。

「なに拗ねてんだよ」
「なんか…慣れてるよね、大輝って」
「は?なんに」
「女の扱いっていうか…」
「女なんてお前以外付き合ったことねぇよ」
「知ってるけど…」
「俺が好きなのはお前だけなんだからつまんねぇこと考えてんじゃねぇよ、楽しむんだろ?」

大輝はそこまで言うと先ほどソースがついていた私の口元に視線を送りペロリと舐めた。

「本当はこっちが良かったけど我慢してやってたんだぜ、お前恥ずかしがるだろうから」
「結局するんじゃん…!」

いくらなんでも人目がありすぎるこんな場所で…!とひとりあたふたしていると、大輝はそんな私を見て声を上げて笑った。

「そんなに笑わなくていいでしょ!」
「いやなんつーか、可愛いなお前」
「可愛くなんかない!」
「いや可愛いよ。俺がこんなこと思うのも言うのもナマエだけだからちゃんと安心しろって。な?」
「……」
「信じらんねぇの?」
「信じるけど…」

数年ぶりにできた彼氏は年下で、そんな年下に翻弄され、恥ずかしいやら悔しいやらで頭の中はぐちゃぐちゃだ。

「んー…あ、ちょっと待ってろ」

顔を赤くして俯いたままの私にそう言って大輝はどこかへ行ってしまった。面倒臭いことを言ってしまった自覚はある。今までは私の方が年上だからと気を張ってそれらしく振る舞うのが当たり前だったのに、いざ付き合い始めると今までできていたことが何ひとつ上手くいかないのだ。みっともなく嫉妬だってするしそれを本人にぶつけて自分が嫌になって落ち込んで。本当はもっと…さっきの大輝みたいにもっとスマートに振る舞いたいのに。

「ナマエ、ちょっと目つぶれ」
「え?」

私を置いてどこかへ行ってしまった大輝は何かを握りしめて帰ってきた。言われたまま目をつぶると手のひらに冷たい感触。

「開けていいぞ」
「…指輪?」
「サイズ合うか?」
「どこにつけたらいいの?」
「左手?は早いか。右にしとく?」
「う、うん」

右手の薬指に、少し大きいシルバーの安っぽい指輪がキラリと光った。大輝の指にもサイズ違いの指輪がついている。

「こんなこっぱずかしいこと中々似合わねぇんだって、俺」
「うん、でも」
「恥ずかしくてもやんのは、相手がお前だからだよ」
「大輝…」
「まだ不安か」
「ううん、もう平気。ごめんね、変なこと言った」
「この前も言ったけど、年下とかそんなん関係ねぇからな。俺はお前が好きだから一緒にいるし、お前が好きだから慣れないこういうことしてでも不安を取り除きたいと思った」
「うん。ありがとう。伝わった」
「ならよし。花火見えるとこ行くか」
「花火…見たい?」
「え?見ないのか?」

花火こそ夏祭りの醍醐味だということは重々承知の上なのだけれど…今から口にするのは私のわがまま。それでも許してくれるだろうか。

「二人になれるところに行きたい…」

もう、好きが爆発してどうしようもない。

「…ナマエの家、行くか?」
「うん」

大好きなこの人とぐちゃぐちゃに混ざり合って溶けてしまいたいなんて思うのは、祭りの熱気に当てられたからだろう。きっと、そう。


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