海常が決勝に残ることを見越して休みを取っていた為、みんなと一緒に大阪に残って決勝まで観て行こうと決めた。しかし桐皇戦で足を痛めた涼ちゃんのことを思うとなんとなく試合会場に足を運ぶことは憚られ、私は宿泊しているホテルで涼ちゃんと共に留守番していた。
「行かなくていいんスか?ナマエさん」
「涼ちゃんの足の方が心配」
「あれからつきっきりでケアしてもらってるから、かなり痛みも薄れてきたッスよ?」
「それでも…甘く見ない方がいい」
「はーい」
自分に言い聞かせるように涼ちゃんの足を念入りに揉んだ。涼ちゃんは準々決勝の桐皇戦で大輝のコピーによってひどく足を痛めていた。しかし体を酷使したのは大輝と戦った涼ちゃんだけではない。レベルの高いプレーの応酬によって大輝だって肘を痛めていたに違いない。
「青峰っちの試合観に行かなくていいの?」
「大輝は出ないと思うよ」
「え?なんでッスか?」
「昨日の試合で無理してたのは涼ちゃんだけじゃないと思うの。たぶん大輝は肘を痛めてる」
「え?マジ?大丈夫なんスかね?」
「直接触れてないからなんとも言えないけど…さつきには注意するように伝えた。監督まで伝わってるならこの先を見越して休ませるんじゃないかな」
「よく見てるッスね、ナマエさん」
「昔から手のかかる子だったから」
「俺も手かかる?」
「うん。もう大変」
「はは、でもまだまだ甘えるッスよ」
「もう手一杯なんだけど涼ちゃんは可愛いから許す」
「じゃあ一つわがまま言っていいッスか?」
「ん?なに?」
「絶対聞いてくださいよ」
「うん」
「試合観に行こう」
「え?」
「俺なら心配いらないッスよ、だから…青峰っちのこと気になるんでしょ?」
八の字に眉を下げて足を揉んでいた私の手を取って懇願するように言われてしまえば頷く以外に選択肢がなかった。
「俺は先輩たちと一緒に見るから、ナマエさんは青峰っちのところに行って下さい。本当に試合出てないなら…いじけてるはずッスから」
確かに…と不貞腐れた顔の大輝を思い浮かべた。試合に出られないなら会場にすら行っていないかもしれない。
私に気を遣ってか、先に行くと言った涼ちゃんを見送り大輝に連絡をする。これから桐皇と赤司くんがいる洛山の決勝戦が行われるはずだ。
「…ナマエ?なんだよ」
「今どこ?」
「会場」
「試合出るの?」
「…いや」
「そっか、じゃあ私と一緒に観てくれない?」
「は?」
「解説して欲しいな」
「やだよ、なんで俺が」
「っていうのは口実で、大輝と一緒にいたいって言ったら?」
「…それなら別にいいけど」
「ありがと、着いたらまた連絡するね」
想像していた通り、大輝はスタメンから外されていたらしい。スタメンどころか、今後も試合に出る予定はなくベンチ入りすらしていないようだった。しかし、大輝に頼らずとも元々のポテンシャルの高さがあるメンバーが揃っている桐皇なら…優勝もありえるかもしれない。というか、海常が負けた今…少しでもあの子たちの心の救いになるように海常を負かした桐皇に勝ってほしかった。
「大輝!」
「よお」
すでに決勝戦は始まっているらしく、会場ロビーに人の姿はほとんどない。試合観戦にきている人のほとんどがキセキの世代の直接対決を望んでいたのだろうが残念ながらそれは叶わない。大輝の話によれば理由はわからないけれど赤司くんも試合には出ていないらしい。
「ちょっとこっちこい」
「ん?」
手を引かれ、連れてこられたのはより人気のない場所。思いっきり抱きしめられ、貪るように口付けられた。
「んっ…ちょっと…!」
「はぁはぁ…っ…ん」
「だ、…いき…っ」
「ちょっと黙れ」
抵抗しようとすればそれ以上の力で抱きすくめられ、荒々しいキスはしばらく続いた。キスが済んだかと思えば頭上から大きなため息。思わず首をかしげると、補給だと一言。えらそうにそう言いながらも顔は赤くて、照れているんだと気付くと途端に可愛く見えて思わずたくましい腰に抱きついた。
「うおっ」
「大輝…好きだよ」
「なんだよ急に」
「ううん、言いたかっただけ。それはそうと…あの、肘見せてくれない?」
「は?」
「痛めたんでしょ?」
「お前…なんで、それ」
「ごめん、私がさつきに伝えたの」
「なんでそんな勝手なことしたんだよ」
「心配だったの、今後に影響するかもしれないと思って」
「お前はバスケ素人だろうが、何がわかるんだよ」
「バスケ素人でも大輝の体のことは誰よりも知ってる。心配だったんだよ」
「お前はいつ俺の保護者になったんだ」
「そんなつもりじゃ…」
「…ったく、お前じゃなかったら殴ってたぞ」
「ごめん」
「いや、俺の方こそ…悪りぃ」
大輝は新幹線でしたように私の額に小さく口付けたあと、ポンと頭をひと撫でして観客席に向かった。私も慌ててあとを追いかけ、右隣に腰かけた。
「肘触ってもいい?」
「…ああ」
大輝の視線は真剣なものとは言えないがコートへと向かっている。桐皇対洛山。試合はすでに第三クオーターが始まったところで、どちらかといえば洛山が優勢なようだ。
「大輝、ここ痛む?」
「いや」
「ここは?」
「そこはちょっとだけ痛ぇ」
マッサージをして、持ってきたバッグの中から湿布とテーピングを取り出し大輝の肘に巻く。
「少し楽?」
「ん。ありがとよ」
「無理しないでね」
「…ああ」
急に手を握られ大輝を見上げるが、大輝の視線は依然コートへ向けられたまま。
「なぁ」
「ん?」
「東京帰ったら泊まりに行くからな」
「うん」
「ヤらせろ」
「はい?」
「インハイ前から会うの控えてたからもう我慢の限界だっつーの」
「家でゆっくりする?」
「そうだな、たまには良いかもな」
「ふふ、楽しみだね」
しばらくの間私たちの頭の中を支配していたバスケから少し離れて、お互いのことだけを考える時間というものも必要だろう。
「もうすぐ祭りの時期だったな」
「うん」
「一緒に行くか」
「いいの?」
「ああ」
少しだけ現実から目を背けることも今は許されるような、そんな気がした。
「行かなくていいんスか?ナマエさん」
「涼ちゃんの足の方が心配」
「あれからつきっきりでケアしてもらってるから、かなり痛みも薄れてきたッスよ?」
「それでも…甘く見ない方がいい」
「はーい」
自分に言い聞かせるように涼ちゃんの足を念入りに揉んだ。涼ちゃんは準々決勝の桐皇戦で大輝のコピーによってひどく足を痛めていた。しかし体を酷使したのは大輝と戦った涼ちゃんだけではない。レベルの高いプレーの応酬によって大輝だって肘を痛めていたに違いない。
「青峰っちの試合観に行かなくていいの?」
「大輝は出ないと思うよ」
「え?なんでッスか?」
「昨日の試合で無理してたのは涼ちゃんだけじゃないと思うの。たぶん大輝は肘を痛めてる」
「え?マジ?大丈夫なんスかね?」
「直接触れてないからなんとも言えないけど…さつきには注意するように伝えた。監督まで伝わってるならこの先を見越して休ませるんじゃないかな」
「よく見てるッスね、ナマエさん」
「昔から手のかかる子だったから」
「俺も手かかる?」
「うん。もう大変」
「はは、でもまだまだ甘えるッスよ」
「もう手一杯なんだけど涼ちゃんは可愛いから許す」
「じゃあ一つわがまま言っていいッスか?」
「ん?なに?」
「絶対聞いてくださいよ」
「うん」
「試合観に行こう」
「え?」
「俺なら心配いらないッスよ、だから…青峰っちのこと気になるんでしょ?」
八の字に眉を下げて足を揉んでいた私の手を取って懇願するように言われてしまえば頷く以外に選択肢がなかった。
「俺は先輩たちと一緒に見るから、ナマエさんは青峰っちのところに行って下さい。本当に試合出てないなら…いじけてるはずッスから」
確かに…と不貞腐れた顔の大輝を思い浮かべた。試合に出られないなら会場にすら行っていないかもしれない。
私に気を遣ってか、先に行くと言った涼ちゃんを見送り大輝に連絡をする。これから桐皇と赤司くんがいる洛山の決勝戦が行われるはずだ。
「…ナマエ?なんだよ」
「今どこ?」
「会場」
「試合出るの?」
「…いや」
「そっか、じゃあ私と一緒に観てくれない?」
「は?」
「解説して欲しいな」
「やだよ、なんで俺が」
「っていうのは口実で、大輝と一緒にいたいって言ったら?」
「…それなら別にいいけど」
「ありがと、着いたらまた連絡するね」
想像していた通り、大輝はスタメンから外されていたらしい。スタメンどころか、今後も試合に出る予定はなくベンチ入りすらしていないようだった。しかし、大輝に頼らずとも元々のポテンシャルの高さがあるメンバーが揃っている桐皇なら…優勝もありえるかもしれない。というか、海常が負けた今…少しでもあの子たちの心の救いになるように海常を負かした桐皇に勝ってほしかった。
「大輝!」
「よお」
すでに決勝戦は始まっているらしく、会場ロビーに人の姿はほとんどない。試合観戦にきている人のほとんどがキセキの世代の直接対決を望んでいたのだろうが残念ながらそれは叶わない。大輝の話によれば理由はわからないけれど赤司くんも試合には出ていないらしい。
「ちょっとこっちこい」
「ん?」
手を引かれ、連れてこられたのはより人気のない場所。思いっきり抱きしめられ、貪るように口付けられた。
「んっ…ちょっと…!」
「はぁはぁ…っ…ん」
「だ、…いき…っ」
「ちょっと黙れ」
抵抗しようとすればそれ以上の力で抱きすくめられ、荒々しいキスはしばらく続いた。キスが済んだかと思えば頭上から大きなため息。思わず首をかしげると、補給だと一言。えらそうにそう言いながらも顔は赤くて、照れているんだと気付くと途端に可愛く見えて思わずたくましい腰に抱きついた。
「うおっ」
「大輝…好きだよ」
「なんだよ急に」
「ううん、言いたかっただけ。それはそうと…あの、肘見せてくれない?」
「は?」
「痛めたんでしょ?」
「お前…なんで、それ」
「ごめん、私がさつきに伝えたの」
「なんでそんな勝手なことしたんだよ」
「心配だったの、今後に影響するかもしれないと思って」
「お前はバスケ素人だろうが、何がわかるんだよ」
「バスケ素人でも大輝の体のことは誰よりも知ってる。心配だったんだよ」
「お前はいつ俺の保護者になったんだ」
「そんなつもりじゃ…」
「…ったく、お前じゃなかったら殴ってたぞ」
「ごめん」
「いや、俺の方こそ…悪りぃ」
大輝は新幹線でしたように私の額に小さく口付けたあと、ポンと頭をひと撫でして観客席に向かった。私も慌ててあとを追いかけ、右隣に腰かけた。
「肘触ってもいい?」
「…ああ」
大輝の視線は真剣なものとは言えないがコートへと向かっている。桐皇対洛山。試合はすでに第三クオーターが始まったところで、どちらかといえば洛山が優勢なようだ。
「大輝、ここ痛む?」
「いや」
「ここは?」
「そこはちょっとだけ痛ぇ」
マッサージをして、持ってきたバッグの中から湿布とテーピングを取り出し大輝の肘に巻く。
「少し楽?」
「ん。ありがとよ」
「無理しないでね」
「…ああ」
急に手を握られ大輝を見上げるが、大輝の視線は依然コートへ向けられたまま。
「なぁ」
「ん?」
「東京帰ったら泊まりに行くからな」
「うん」
「ヤらせろ」
「はい?」
「インハイ前から会うの控えてたからもう我慢の限界だっつーの」
「家でゆっくりする?」
「そうだな、たまには良いかもな」
「ふふ、楽しみだね」
しばらくの間私たちの頭の中を支配していたバスケから少し離れて、お互いのことだけを考える時間というものも必要だろう。
「もうすぐ祭りの時期だったな」
「うん」
「一緒に行くか」
「いいの?」
「ああ」
少しだけ現実から目を背けることも今は許されるような、そんな気がした。
