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今年のインターハイの開催地は大阪。
カフェのバイトはしっかりお休みをもらっているので、非公式ではあるが海常のサポーターとして私も大阪入りすることになっている。しかしどうしてもスケジュールが合わず、私は海常メンバーから一日遅れて向かうことになった。

「とはいえ、何故こんなことに」
「いいじゃん!せっかくなんだし〜」
「ま、諦めろ」

私は何故か海常と同じく大阪へ向かう桐皇学園一行と一緒にいた。私が大阪へ向かう日を事前に知っていた大輝がさつきに何か言ったのだろう。さつきから「監督は了承済みだから一緒に行こうね」とメールが来ており、駅に着くと新幹線のチケットまで用意されていた。

「あ、お金は?」
「さすがにうちの部費からはおりないからお母さんにもらってきたよ。返さなくていいって」
「そうなんだ、ありがとう。あとでメールしとく」
「お姉ちゃんと一緒なら青峰くんも遅れずに来てくれるから助かっちゃった」
「ああ…それが目的だったのね」

桐皇のメンバーはいつも相当苦労しているのだろう。集合時間に間に合うように来ていた大輝を見て涙ぐむ子までいる始末だ。同情する。

「ナマエ、荷物寄越せ。上乗せる」
「うん。ありがとう」
「へぇ、青峰が人に気ぃ遣うことあるんやなぁ」
「あ?ナマエだけだっつーの」
「お姉さん、桃井にはいつもお世話になってます」
「今吉くんですよね。こちらこそいつも妹がお世話になってます。あと大輝も」
「青峰には正直手焼いてます。それでもうちのエースなんで活躍してもらわないかんのですわ」

大輝がチームに馴染んでいるかと聞かれれば、はいそうですねとは答え難いがそれでもこの人は大輝のことをよく見てくれているのだと思った。海常の笠松くんとはまた違ったキャプテンシーを持った子だ。

新幹線の車内で私に用意されていたのは当たり前のように大輝の隣。今吉くんの隣に座って打ち合わせをしているさつきの座席とは随分と離れてしまっている。

「窓際座るか?」
「いいの?じゃあお言葉に甘えて」

私に窓際の席を譲ってくれた大輝に、紳士的だなぁと感心したのも束の間。私の隣にどっかりと腰掛けるや否や前の席の男の子に何やらたかっている様子。

「おい良、腹減ったんだけど弁当ねーの」
「ああ青峰さん…!すみません、ありますけどその…上の棚のバッグの中に…すみません急いで出します!」

あらあら…これはまた随分と難儀な子…。良と呼ばれた男の子はまるで殿様に献上するように手作りのお弁当を恐る恐る大輝に渡していた。

「お!美味そう」
「え、すごい上手!これ君が作ったの?」
「もももも桃井さんのお姉さん!すみませんそうです僕が…一応…」
「そんなに謝らないで、すごいね」
「良の弁当はお前の弁当の次に美味い」
「私のより美味しそうじゃない?」
「いや、二番目だな」
「あの青峰さんのお弁当ってお姉さんが作ってたんですか?すごく美味しそうでした!」
「ほんと?ありがとう。機会があったら大輝の分と一緒に作ろうか」
「え、いいんですか?」
「いいわけねぇだろ、他の男に手料理なんざ」
「すみませんすみません…!」
「そんなに凄まなくてもいいじゃない」
「今のはお前が悪い」
「すぐヤキモチやくんだから」
「は?当たり前だろ。なんで彼女が他の男に弁当作るの見過ごさなきゃいけねぇんだよ」
「かかかか彼女なんですか!?」
「だったらなんだよ」
「すごいですね…青峰さん…」

ひとしきり騒いだあと、大輝はお弁当を少しずつ口に入れ始めた。どれもこれも美味しそうだし彩りもとても綺麗で丁寧に作られているのが一目でわかるお弁当だ。

「あっち着いたらすぐ海常のとこ行くのか?」
「うん。涼ちゃんが迎えにきてくれるって」
「出た、また黄瀬」
「涼ちゃん仕事柄こういう移動になれてるみたいだしね」
「はぁ…なんでお前海常に行ったんだろうな」
「多分今年いっぱいだから我慢して」

お弁当を綺麗に平らげた大輝はさりげなく自分の手と私の手を絡めて太ももの上においた。おかげで私は大輝に頭を預けるように寄りかかる体制になってしまった。

「恥ずかしくない?」
「いやなのかよ」
「嫌じゃないけど」
「じゃあ黙ってそうしてろ」

俺は寝るからと自分勝手に目を閉じた大輝。
結局大阪に着くまで二人で身を寄せ合って眠ったのだった。

「大輝起きて、次で降りなきゃ」

次は新大阪に停車しますという車内アナウンスが聞こえ、慌てて大輝の体を揺する。

「ん…?ナマエ…」

寝惚けた大輝はさも当然のように私のうなじを引き寄せ、額に唇を寄せた。

「な、」
「へぇ、やるなぁ青峰」
「ん?今吉さん?…ああ、新幹線か」
「ちょっと、なんてことするのよ」
「いつもしてんだろ」
「そういうことじゃない!」

殆ど初対面の桐皇のバスケ部のみんなに見られたとなれば顔が真っ赤になるのも当然のことだろう。寝惚けていたくせにあんな恥ずかしいことしてみせた張本人が飄々としているのだから困ったものだ。

「お姉ちゃん大丈夫…?」
「もうやだお嫁にいけない」
「それはないよ、青峰くんがちゃ〜んと貰ってくれるから」
「からかわないで…」

顔を赤くしたまま荷物を持って新幹線から降り、ここで合流予定の涼ちゃんに大阪に着いた旨を伝えるとあと数分で到着するとのことだった。

「さつき、私向こうで涼ちゃんと待ち合わせしてるからまたね」
「うん、気をつけて。きーちゃんによろしくね」
「もう行くのかよ」
「大輝、試合に遅れないようにね。先輩たちに迷惑かけちゃダメよ」
「わーってるっつーの」
「じゃあまたね、多分会場で会うだろうから」
「はいはい」

真っ黒なジャージの団体はそのまま駅構内を歩いていった。高校生とはいえあれだけ長身でガタイの良い子たちがあの真っ黒なジャージで集団でいると中々に威圧感がある。それに比べて…目の前の彼のなんて爽やかなこと。

「ナマエさーん!」
「涼ちゃん、お迎えありがとう」
「いいんスよそれくらい。荷物持ちます」
「大丈夫だよ」
「いいからいいから。ここから地下鉄に乗ってこの駅で降りたらすぐのホテルなんで、案内するッス」
「ありがとう」

涼ちゃんは手際よく切符を買って地下鉄のホームまで連れて来てくれた。地下鉄から降りホテルに移動して荷物を部屋に置いて監督に挨拶をして、全員揃ったところでトレーニング施設へ。みんな明日の試合を前にいい感じに緊張感を持っているようだ。

インターハイは各都道府県の代表が集まる大会だ。もちろん初戦から一筋縄ではないはず。無事に勝ってくれますように、そればかりを祈り続けた。

そして順調に勝ち進み迎えた準々決勝の対戦カードは海常対桐皇だ。

どうしてこの二人が対戦することになったのか。嬉しくもあり複雑でもあった。勝ち上がれば当たるのは当然のことだが出来ることならこの対戦は決勝で見たかったというのが本音。

「はぁ〜いよいよッスね」
「緊張してる?」
「少し。でも楽しみッスよ」
「お願いだから無理しないでね」
「あ、そうだ。はいこれ」
「ん?」
「俺のジャージ。ナマエさんも海常メンバーッスからね。これ着て応援して」
「うん!」

どっちが勝ってもおかしくはないくらいの微妙な実力差。チームプレーを得意とする海常と個人技に長ける桐皇。本当に悩ましい対戦カードだ。

「笠松くん!」
「はい」
「私…ベンチには入れないから上で見てる」
「…絶対勝ってみせるんで」
「期待してる」
「ナマエさん、俺今日はナマエさんのために戦うんで」
「西側三列目の彼女じゃなくて大丈夫?ま、森山くんも頑張って」

両チームの選手がコートに入っただけで歓声が上がる。涼ちゃんの人気は相変わらず。モデルの涼ちゃんへの歓声とは異なるが大輝に対しても歓声が上がっている。これはバスケファンからのものだろう。

「負けないッスよ」
「お前が俺に一回でも勝ったことがあったかよ」
「今日勝つッス。ナマエさんのためにもね」
「はぁ?」

好戦的な目をした二人が対峙している。「どっちも勝ってほしいな…無理だけど…」と二人を眺めながら私が一人でボヤいたところで試合開始のブザーが鳴り響いた。


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