学校の試験と休日に行われる検定試験が立て続けにあったことによって、海常の部活に出られない週が続いた。梅雨に入ったこともあり、毎日雨ばかりで湿度も高く、うまくいかない試験のこともあってイライラが爆発しそうな日々だ。試合が行われているのに観に行くこともできず、笠松くんからの試合結果の報告メールを見ることしかできない。なぜこんな大事な時に検定試験なんか…と思うが自分で選んだ道だ。誰かに当たったって仕方ない。
笠松くんのメールを見る限りインハイ予選は順当に勝ち進んで、本戦への出場はかたいらしい。
しかし試合結果より気になるのは涼ちゃんの体の具合。よほど強い相手に当たらない限り得意とする模倣をする必要もないのだろうが…一生懸命なあの子はいつどこを痛めるかわからないから心配だった。
「ああイライラする…」
開きっぱなしの参考書と問題集と課題の数々。テーブルに入りきらないほどのそれはラグの上にも並んでいる。
とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着こう…と、キッチンに向かう。脳が欲しているから甘いものも食べたくて冷蔵庫の中を見るが特にそんなものは見つからず。甘いものどころか食料だってほとんど入っていなかった。これは本格的に買い物に行かないとまずいな。
本気で勉強しないといけないからと大輝と会うことも控えていたから、真面目にご飯を作る機会も減っていて、冷蔵庫の惨状に気づいていなかったのだ。会えなくて寂しいけど桐皇も予選決勝リーグ前で大事な時期だし、タイミング的には良かったのかもしれない。
しばらく閉ざされたままだったカーテンを開けると窓の外は大雨。買い物に行くことを諦め、カップ麺か何かなかったかなと戸棚を漁っているとソファの上に置きっぱなしだった携帯が音を立てた。画面にはさつきの名前が表示されている。
「もしもし」
「あ、お姉ちゃん久しぶり!」
「どうかしたの?」
「お姉ちゃん家にこもりっぱなしでご飯食べてない頃じゃないかなと思って!お母さんが色々作ってくれたから持って行ってもいい?」
「助かるけど…雨ひどいよ?」
「私がお姉ちゃんに会いたいの!いい?」
「うん、ありがとう。待ってるね」
「はいはーい!またあとでね」
いつもと変わらない溌剌として凛とした声に、陰鬱な気分も少しだけ晴れやかに。私の行動パターンなんてものは家族には丸分かりだったようだ。
気を取り直してコーヒー片手に勉強を再開して一時間と少し経った頃さつきがやってきた。
「うわ、ビショビショ!シャワー浴びておいで、風邪引いちゃう」
「助かる〜。はい、これお母さんから。じゃあシャワー借りるからこれ食べといてね」
さつきから渡された袋の中には数種類のタッパーが入っていて、それぞれ違うおかずが詰められている。そしてそれとは別にお弁当箱がひとつ。保存用と別にすぐに食べられるものを用意してくれたらしい。母とはなんで偉大な存在なのだ…。ありがたい。
お弁当をペロリと平らげたところで、シャワーを浴び終えたさつきが部屋に戻ってきた。体格はさして変わらないから私の服で十分対応できたようだった。
「わざわざありがとね」
「勉強どう?大変?」
「今回は色々重なったからね。こっちの勉強よりも涼ちゃん見てあげられないのが心配なの」
「きーちゃんか…インハイ中は勿論強いところとしか当たらないから…多少は無理するだろうね」
「うん」
「不安?」
「…危なっかしいからね。それより大輝は?ちゃんと練習してるの?」
「半々かな〜。でもテツくんのところが勝ち上がったから燃えてるみたいな感じはある」
「そっか、良い傾向だね」
「そうなの。あ、そういえばお姉ちゃんに聞きたいことあったんだけど」
そう言ってニッコリ笑ったさつき。
この顔をするときは厄介なことを考えているときだ。
「青峰くんね、割とモテるんだよ。高校入ってからもかなり告白されてるし」
「へ、へぇ…それは初耳」
「いつもは面倒くさがって、そんなこと考える余裕ないって断ってたんだけど…ここ最近彼女いるからって断るようになったんだって」
「そうなんだ」
「彼女ってお姉ちゃんだよね」
「…確信しながら聞かないでよ」
「良かったー!やっと!くっついたんだ!!」
「お母さんにも言われた。そんなにバレバレだった?」
「お姉ちゃんはともかく青峰くんはね」
そっかそっか〜と嬉しそうに笑うさつき。
桐皇も忙しいはずなのに、お母さんに持たされた料理を口実にしてこれを聞くためにわざわざ来たんだろう。
「落ち着いたら言うつもりだったんだけど、ちょっと恥ずかしくて」
「お姉ちゃんが青峰くんのために勉強してるのも知ってるし、私はずっと応援してたよ」
「ありがとう」
「今日ここに来たのは青峰くんとのこと聞きたかったのもあるけど…青峰くんがお姉ちゃんの心配してたからなの」
「大輝が?なんで?」
「勉強に根を詰め過ぎてるんじゃないかって」
「そうなんだ…」
「あの傍若無人な青峰くんが人の心配してるんだよ?気にならないわけないよね」
会えなくても連絡は取り続けていた。それでもやっぱり顔を見るまで安心できないのはお互い様だろう。
「試合は観に来るの?」
「うん、できるだけ行くつもり」
「青峰くん喜ぶと思う」
「そうだといいけど…」
「あと少し、なんだと思う」
「え…?」
「青峰くんが、また…バスケを楽しめる日が来るまで」
「…そっか」
さつきは、寂しそうな顔をした。
さっきまで楽しそうに笑っていたのに。
大丈夫だよ、大輝はまたバスケを楽しめるようになるよ。そう言って柔らかい桃色の髪をそっと撫でると綺麗な涙が一筋流れた。大輝のことを一番近くで見てきたさつきにとってそれは嬉しい変化なはずで、ずっと苦労してきたさつきが嬉しいなら私も嬉しいはずなのに、彼にとって一番身近な存在が自分ではないことを恨めしく思ってしまっていた。ああ、嫌な雨だ。
笠松くんのメールを見る限りインハイ予選は順当に勝ち進んで、本戦への出場はかたいらしい。
しかし試合結果より気になるのは涼ちゃんの体の具合。よほど強い相手に当たらない限り得意とする模倣をする必要もないのだろうが…一生懸命なあの子はいつどこを痛めるかわからないから心配だった。
「ああイライラする…」
開きっぱなしの参考書と問題集と課題の数々。テーブルに入りきらないほどのそれはラグの上にも並んでいる。
とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着こう…と、キッチンに向かう。脳が欲しているから甘いものも食べたくて冷蔵庫の中を見るが特にそんなものは見つからず。甘いものどころか食料だってほとんど入っていなかった。これは本格的に買い物に行かないとまずいな。
本気で勉強しないといけないからと大輝と会うことも控えていたから、真面目にご飯を作る機会も減っていて、冷蔵庫の惨状に気づいていなかったのだ。会えなくて寂しいけど桐皇も予選決勝リーグ前で大事な時期だし、タイミング的には良かったのかもしれない。
しばらく閉ざされたままだったカーテンを開けると窓の外は大雨。買い物に行くことを諦め、カップ麺か何かなかったかなと戸棚を漁っているとソファの上に置きっぱなしだった携帯が音を立てた。画面にはさつきの名前が表示されている。
「もしもし」
「あ、お姉ちゃん久しぶり!」
「どうかしたの?」
「お姉ちゃん家にこもりっぱなしでご飯食べてない頃じゃないかなと思って!お母さんが色々作ってくれたから持って行ってもいい?」
「助かるけど…雨ひどいよ?」
「私がお姉ちゃんに会いたいの!いい?」
「うん、ありがとう。待ってるね」
「はいはーい!またあとでね」
いつもと変わらない溌剌として凛とした声に、陰鬱な気分も少しだけ晴れやかに。私の行動パターンなんてものは家族には丸分かりだったようだ。
気を取り直してコーヒー片手に勉強を再開して一時間と少し経った頃さつきがやってきた。
「うわ、ビショビショ!シャワー浴びておいで、風邪引いちゃう」
「助かる〜。はい、これお母さんから。じゃあシャワー借りるからこれ食べといてね」
さつきから渡された袋の中には数種類のタッパーが入っていて、それぞれ違うおかずが詰められている。そしてそれとは別にお弁当箱がひとつ。保存用と別にすぐに食べられるものを用意してくれたらしい。母とはなんで偉大な存在なのだ…。ありがたい。
お弁当をペロリと平らげたところで、シャワーを浴び終えたさつきが部屋に戻ってきた。体格はさして変わらないから私の服で十分対応できたようだった。
「わざわざありがとね」
「勉強どう?大変?」
「今回は色々重なったからね。こっちの勉強よりも涼ちゃん見てあげられないのが心配なの」
「きーちゃんか…インハイ中は勿論強いところとしか当たらないから…多少は無理するだろうね」
「うん」
「不安?」
「…危なっかしいからね。それより大輝は?ちゃんと練習してるの?」
「半々かな〜。でもテツくんのところが勝ち上がったから燃えてるみたいな感じはある」
「そっか、良い傾向だね」
「そうなの。あ、そういえばお姉ちゃんに聞きたいことあったんだけど」
そう言ってニッコリ笑ったさつき。
この顔をするときは厄介なことを考えているときだ。
「青峰くんね、割とモテるんだよ。高校入ってからもかなり告白されてるし」
「へ、へぇ…それは初耳」
「いつもは面倒くさがって、そんなこと考える余裕ないって断ってたんだけど…ここ最近彼女いるからって断るようになったんだって」
「そうなんだ」
「彼女ってお姉ちゃんだよね」
「…確信しながら聞かないでよ」
「良かったー!やっと!くっついたんだ!!」
「お母さんにも言われた。そんなにバレバレだった?」
「お姉ちゃんはともかく青峰くんはね」
そっかそっか〜と嬉しそうに笑うさつき。
桐皇も忙しいはずなのに、お母さんに持たされた料理を口実にしてこれを聞くためにわざわざ来たんだろう。
「落ち着いたら言うつもりだったんだけど、ちょっと恥ずかしくて」
「お姉ちゃんが青峰くんのために勉強してるのも知ってるし、私はずっと応援してたよ」
「ありがとう」
「今日ここに来たのは青峰くんとのこと聞きたかったのもあるけど…青峰くんがお姉ちゃんの心配してたからなの」
「大輝が?なんで?」
「勉強に根を詰め過ぎてるんじゃないかって」
「そうなんだ…」
「あの傍若無人な青峰くんが人の心配してるんだよ?気にならないわけないよね」
会えなくても連絡は取り続けていた。それでもやっぱり顔を見るまで安心できないのはお互い様だろう。
「試合は観に来るの?」
「うん、できるだけ行くつもり」
「青峰くん喜ぶと思う」
「そうだといいけど…」
「あと少し、なんだと思う」
「え…?」
「青峰くんが、また…バスケを楽しめる日が来るまで」
「…そっか」
さつきは、寂しそうな顔をした。
さっきまで楽しそうに笑っていたのに。
大丈夫だよ、大輝はまたバスケを楽しめるようになるよ。そう言って柔らかい桃色の髪をそっと撫でると綺麗な涙が一筋流れた。大輝のことを一番近くで見てきたさつきにとってそれは嬉しい変化なはずで、ずっと苦労してきたさつきが嬉しいなら私も嬉しいはずなのに、彼にとって一番身近な存在が自分ではないことを恨めしく思ってしまっていた。ああ、嫌な雨だ。
