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- ナノ -

昨日の夜、どうしてももう一度したいという大輝のわがままを聞いて体を重ねてそのまま眠りについてしまった為、今目の前にあるのは色黒の胸だ。素肌が触れ合っているのはとても気持ちが良くて、いつまでもこのまま横になっていたいがお互い学校に行かなければならないためそっと体を起こす。

ズキズキと痛む腰をさすりながらベッドの下に散らかった下着とパジャマを拾っては身につけを繰り返し、洗面所へ向かう。水で雑に洗った顔をタオルで拭いて、視線を鏡へ。そして鏡に映る自分を見てギョッとした。なんとかギリギリ衣服で隠れる範囲ではあるけれど、首から下におびただしい数のキスマークがつけられていたのだ。

…盛り上がるのも大概にしなければと、久々にできた彼氏との付き合い方を早々に改めようと誓った。

しばらくしてアラームが鳴り、大輝が起きる。恥じらいもなく素っ裸のままうろつくのはやめて欲しいものだ。

「大輝、下着くらいはいてよ」
「固いこというなって、昨日散々見たろ」
「そういう問題じゃないの」

朝食の準備をする私の背中に全体重をかけて、素っ裸のまま抱きついてくる大男。

「当たってるから」
「朝だからな、仕方ねぇ」
「はぁ…早く着替えてきて」
「冷たいな、お前」
「朝からそんな時間ないの、早くして」
「へーへー」

いくら幼馴染とはいえ、こうも急に恥じらいをなくされたら困る。

いつものようにだらしなく制服を着た大輝は、玄関まで見送りにきた私のTシャツの襟をグイッと引いてそのまま中を見る。自分がつけたキスマークをいくつか指でなぞり、とてもご満悦な様子だ。

「なあ、今日もしたい」
「私今日遅くなるから多分無理だよ」
「うわ…マジ?出た生殺し」
「バイトなんだから仕方ないでしょ、ほら行ってらっしゃい」
「ん、行ってきます」

お弁当を渡して行ってらっしゃいと声をかけると、出かけざまに行ってきますのキスをひとつ。口角をニヤッと上げてしたり顔で去っていく大輝はズルい。あんな顔されたら…私だってたまんなくなるのに。

「はぁ…もつのかな、私」

精神的にも、肉体的にも。
たった五つの年の差と思われるかもしれないが、相手は高校生で現役のアスリートだ。かたや私は運動も何もしていない勉強に忙殺されるだけの学生で体力の差は歴然としているわけで。求められるのは嬉しいけど、全てに応えられるかどうかは別の話。


「ナマエちゃんおはよ〜」
「あ、おはよう」
「昨日のニュース聞いた?」
「え?なに?」
「なんかね、あの辺で空き巣が連発してるらしくてさ。昨日うちの近くにも警察きててビックリして」
「ほんと…?」
「ナマエちゃんも家近いし一人暮らしだから心配でさ」
「心配してくれてありがとう。まだ捕まってないんだよね」
「うん。ここ何日かで二、三件あったみたいでさぁ。女の子の一人暮らしの家ばっかりって聞いたから」
「そっか…怖いね」
「なんかあったらすぐ知らせてね。うちお兄ちゃんいるから助けに行くよ!」
「うん、ありがとう」

この子が言っている空き巣と、私が見た不審者は同一人物なのだろうか。どちらにせよ早く捕まってくれなきゃ…いくら大輝がいるとは言え、怖いものは怖い。

今朝の話のせいか、バイト終わりにいつも歩いている道がなんとなく仄暗く感じて恐ろしかった。もし大輝がいないときに空き巣が入ったら、犯人と鉢合わせしてしまったら、私…どうなるんだろう。乱暴される?刺される?殴られる?ものを取られるだけならいいけれど、大輝以外の人に触られるなんてそんなのゴメンだ。

こんなこと考えながら歩いているせいか、後ろからやってくる足音に過剰に反応してしまう。別になんてことはない、ただ帰る方向が同じってだけの人のはずなのに、嫌な想像ばかりしてしまう。この人が犯人だったら?つけられていたら?

私は震える手で大輝の連絡先を呼び出しコールした。お風呂に入っているかもしれないし、もしかしたら寝ているかもしれないけれど…お願い、声を聞かせて、

「もしもし、ナマエ?」
「大輝…」
「え、泣いてんの?何かあったのか?今どこ」
「バイト先から帰ってる途中なんだけど、なんか…っ」
「迎えに行くからそのまま電話切るなよ」

電話の向こうで玄関のドアが閉まった音と施錠した音が聞こえた。それからバタバタと足音が聞こえ、電話の向こうの音と自分の耳で聞く音が重なった時、大輝の姿が見えた。

「なんかあったのか!?」
「ううん、ないんだけど…怖くて…っ」

大輝は荒くなった息を整えながら私をしっかりと抱き締めてくれた。抱き締められて、大輝のにおいに安心して、腰が抜けた。

「うお、急にどうした」
「大輝見たら安心して…腰抜けた…っ」
「ちょっと休むか」

そのまま抱きかかえられ、近くのベンチに座らされる。大輝は困ったような顔をして私の顔を両手で優しく包んで涙を拭ってくれた。

「どうしたんだよ」
「今日クラスの子にこの辺で空き巣が連発してるって聞いたの。女の一人暮らしの家ばっかり狙われてるって聞いて、色々考えてたら…後ろ歩いてる人の足音が怖くなって」
「それで俺に会いたくなった?」
「…うん、ごめんね」
「謝るなっつったろ。俺はお前に頼られて嬉しいんだから」
「ありがとう」

それから手を繋いで家までの残りの道のりを歩く。
さっきまでの恐怖は嘘のようになくなっていた。

「明日はバイトあんの?」
「ううん、明日は休み」
「なら早目に家帰ってちゃんと鍵閉めとけよ」
「うん。大輝は部活だよね」
「んな不安そうな顔するなって。急いで帰ってくる」
「…ありがとう」
「もうただの幼馴染じゃねぇんだ。彼女守んのは当然のことだろ」
「なんか恥ずかしいね」
「んだよ、昨日もっと恥ずいことしたろ」
「そういうこと平然と言わないで」

私の気を紛らわそうと、冗談で言ってくれていることはわかっている。大輝も、私が彼の意図を汲んでいることをわかっている。私たちが今まで共に過ごしてきた年月を考えると、それは当たり前のことだ。

「大輝がいてくれてよかった」
「そうだな」

幼馴染から彼氏と彼女へと変化を遂げた私たちの関係はこれから少しずつ色付いていくのだろう。


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