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土曜日と日曜日、実家からではあるがいつものように海常の練習に顔を出し、いつも通りの仕事をして帰宅準備をしていたときのこと。ポケットに入れていた携帯が震え、着信を知らせていた。画面の表示を見ると電話の主は大輝だった。

「もしもし、どうしたの?」
「もう終わったのか」
「うん、今から帰るところだけど」
「お前が戻ってきたら一緒にあっちの家行くわ」
「そっか、明日からまた学校だった」
「最悪なことに明日は月曜日だ」
「気分が乗らないね」
「俺自分の家にいるから帰ってきたら電話しろよ」
「うん。あ、そうだ、大輝今日何食べる?」

私がそう言った瞬間、近くで帰り支度をしていた涼ちゃんがいち早く反応し「青峰っち!?」と声を上げた。

「んだよ、また黄瀬いんのか」
「まだ海常なの」

私のうしろで「青峰っちー!聞こえてるッスかー!」と大声をあげる涼ちゃんに苦笑いがこぼれる。電話の向こうの大輝は盛大にため息をついていた。

「ちょっと代われ、黄瀬に」
「あ、うん。黄瀬くん大輝が代われって」
「マジで!?青峰っち久しぶりッス!」
「お前がナマエを海常に連れて行ったこと恨まなかった日はないぜ黄瀬」
「え〜ヤキモチッスか?ナマエさんのマッサージ超気持ちいいッスよ」
「殺すぞ。んなこと知ってるわ、俺毎日やってもらってるし」
「え?毎日?なんでッスか!?」
「今一緒に住んでるし」
「どどど同棲!?!?」

涼ちゃんの口から「同棲!?」と聞こえた瞬間、視線は寄こさずとも電話を気にしていた他のメンバーが一斉に涼ちゃんを見た。なにやらひどく誤解をされてしまっている気がする。私は慌てて涼ちゃんの手から携帯を取り上げ「ちょっと何言ったの!とりあえず帰ったら連絡するから!」と一方的に通話を終了した。きっと大輝はイタズラが成功した子供のようにニヤニヤと笑っているに違いない。

「ナマエさん…青峰っちと一緒に…っていうか二人付き合ってたんスか!?」
「いや、同棲してないし付き合ってないし」
「でも一緒に住んでるって…!」
「それは訳ありで、用心棒的な」

青峰ってあの桐皇の青峰か?キセキの世代の?黄瀬と同級生だったよな?ナマエさんと青峰って?と、涼ちゃん以外のメンバーも首をかしげているので誤解を解くためにも一から説明するしかないようだ。

「こんなところで電話してごめんなさい」
「それは良いんですけど…」
「ナマエさん、青峰って」
「お察しの通り桐皇の青峰くんで、私と彼幼馴染なんです」
「何で一緒に住んでるんスか?訳って?」
「家の近くに不審者が出たの。私ひとり暮らししてるじゃない?怖くてどうしようかと思ってたんだけど…うちの両親は仕事があるから泊まりに来られないしってわけで大輝が来てくれてるの」
「大丈夫なんですか、不審者って」
「一度見かけただけだから何ともいえないんだけど…」
「何で俺に言ってくれなかったんスかー!」
「黄瀬くんじゃ遠いから大変でしょ」
「そうッスけど!青峰っちのドヤ顔が目に浮かぶッス…」
「黄瀬くんいるってわかってて掛けてきてた感じだったね、ごめん気付かなくて」
「ナマエさん誘ったこと恨まれてて殺すぞって言われたッス」
「大丈夫、そんなことしないよ大輝は」
「でも拳一発くらいやられそう」
「その時は私が大輝に一発お返しするよ」
「やられる前に止めてくださいッス!」

余計な話をして心配をかけてしまって申し訳ないが、涼ちゃんも興味津々といった様子だったため、話すしか選択肢はなかったように思う。最後の最後まで面倒見のいい三年生が心配してくれていたが、大丈夫だよと笑顔でかわし、また来週ねと海常を出た。

一度実家に帰って荷物をまとめ、大輝の家を訪ねるとおばさんがとても心配そうな顔をして出てきた。

「ナマエちゃん大丈夫なの?」
「心配かけてごめんね。大輝のこと寄越してくれてありがとう。本当に助かってるの」
「うちの子で役に立つならいくらでも使ってやって?でもご飯とか大変でしょ?大丈夫?」
「大輝にご飯作るの慣れてるし、それに一人分も二人分も変わらないよ」
「そうなら良いんだけど…」
「んだよナマエ、電話しろって言ったろ」
「おばさんにお礼言いたくて」
「大輝、あんたナマエちゃんのことちゃんと守ってあげなきゃダメよ?」
「わかってるっつーの。おら行くぞ」
「あ、おばさんまたね」
「いつでも遊びにいらっしゃいね」

家の近所の住宅街を大輝に手を引かれるようにして歩くのは何となく恥ずかしい。生まれたばかりの頃から知っていて、共にこの場所で大きくなった大輝が、今ではこんなに頼りになる男の子になっている。そんな大輝と二人で暮らす一週間がまた始まるのだ。嬉しさ半分ドキドキ半分。大輝にこのドキドキが伝わってしまわないように、繋がれた手から意識をそらし一生懸命気にしていないフリをした。

「うし、着いた」
「ご飯作るからお風呂入ってていいよ」
「まだいい。それよりここ座れ」

途中で寄ったスーパーで買った食材を冷蔵庫にしまい、言われた通りソファに腰を下ろす。小さなソファだから大輝と並ぶと距離が妙に近くなる。

「どうかした?」
「俺もう我慢できねぇから言うわ」
「え?なにを?」
「俺と付き合わねぇ?」

突然、何の脈絡もなく大輝の口から発せられたそれは、ずっと欲しかった言葉なのにイマイチ理解できなくて対応に困る。

「俺だって今までそれなりに告られたりしたことあるし、自分に好意持ってくれてるやつくらいわかる。だからナマエが俺のこと好きでいてくれてるのもちゃんとわかる」
「うん、でも」
「俺お前と違って大人じゃねぇから、色々考えるの無理なんだよ。幼馴染だから付き合ったらダメなわけ?」
「そうじゃないけど、もしダメになったら今までみたいにいかなくなるよ」
「ダメにするつもりあんの」
「ない、けど」
「じゃあいいじゃん」

大輝らしい強引な理論だ。

「もう疲れたんだよ。お前が黄瀬に取られるかもって嫉妬すんのも」
「嫉妬してたの?」
「するわ普通に。俺だって男だよ。お前とキスしたいしセックスしたいしお前のまわりうろつくやつにナマエは俺のもんだって言いたいし」
「うん」
「なんかあったとき一番に知らせてほしい。ナマエのこと人から聞くの嫌なんだよ」
「うん」
「お前から見るとガキかもしれねぇけど、それでも俺は」

こんなに不安そうな顔は久々に見た。いつも自信過剰で、そのくせにやる気がなくて気怠げで、バスケ以外何にも興味なさそうな大輝が私の様子を不安げな顔で伺っているのを見ると、どうしようもなく愛しい。

「私の未来は全部大輝に捧げるつもりだったよ」
「は?」
「でも、年が離れてるのもあるし、大輝はこれから色んな人に出会うんだから…それからでも遅くないと思ってた」
「そんなの俺の勝手だろ」
「色んな人に出会ったあとに私を選んでくれるならそれでいいと思ってたし、そうじゃなかったらそれもまた人生なんだろうなって」
「ありえねぇよ」
「大輝がバスケを楽しめるようになるまで待つつもりだったの」
「……」
「私は一生懸命バスケをする大輝のために将来を捧げようと思ったから」
「でも俺は…」

そんなこと抜きにしても私は大輝のことが好きだからどうしようもない。幼馴染だからとか、大輝のバスケに対する気持ちだとか、そういうものは全部言い訳でしかないんだ。

「私もずっと前から大輝が好きだよ」

不敵に笑った大輝は照れ臭そうに私の頬に手を添えてキスをした。

「やべぇ…」
「ん?」
「お前こんなに可愛かったっけ、勃ちそう」
「やめてよバカ」
「セックスしたい」
「…せめてお風呂入ってからにしよう」

純粋な欲望を真正面からぶつけてくる大輝に目眩がした。


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