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- ナノ -

さつき視点

「青峰くーん」
「んだよ朝っぱらから」
「朝練サボった人が偉そうに言わないで!ってそうじゃなくて…今日お姉ちゃんこっちに帰ってくるんだって」
「平日に?なんかあったのか」
「わかんないけどバイト休みだからって」
「ふーん。ナマエ帰ってくるから機嫌いいのか」
「やっぱりわかる?今吉先輩にも言われた」
「能天気さが顔に出てる」
「もう!そうやってすぐひどいこと言う」

今日はお姉ちゃんがこっちの家に帰ってくるらしい。青峰くんはしょっちゅうお姉ちゃんのところに行っているが、私はインハイ予選に向けて毎日情報収集しなくてはならないため中々遊びに行けず、お姉ちゃんに会うこと自体久々だ。お姉ちゃんが帰ってくると青峰くんに伝えた時「なにかあったのか」と聞いた顔はものすごく真剣で、バスケもこれくらい真剣にやってくれたらいいのにと思う。青峰くんが何故練習に来ないのか、理由を知っているだけに責める気にはなれないのだけれど。それでもいつか純粋にバスケを楽しんでいる姿を見ることができるようになるまで、私はとなりで支えようと決めている。

「やっぱり変だよなぁ〜」

お姉ちゃんに会えることが嬉しくて、青峰くんに聞かれるまでお姉ちゃんが平日にわざわざ帰ってくる理由を気にしていなかったのだが、そう言われると何故だろうと疑問符ばかりが頭に浮かぶ。家族の誰かの誕生日でもないし、家を出てから二年ちょっと経つけれど、お姉ちゃんが週の半ばに帰ってくることなど今までなかったのに。

授業が始まる前に「なにかあったの?」とメールをして、次の休み時間に確認すると「今日バイトないから」とそれだけの返信があった。

お昼休み、教室で寝ていた青峰くんを屋上に誘い「お姉ちゃんに何か聞いた?」と尋ねると「別に何も」と返された。

「朝ね、なにかあったのかってメールしたけどバイトが休みだからってそれだけだったの」
「じゃあそういうことだろ」
「もう、そうじゃないのわかってるくせに」
「だとしても…あいつ何も言わねぇじゃん」
「そうだけど…」
「年下の俺らに心配かけたくねぇって思ってるのは知ってっけど…」

そう言って、紙パックに入ったジュースを一気に啜った青峰くんは、何だか寂しそうに見えた。

部活を終えて家に帰ると、いつもより一足多く靴が並んでいる玄関を見て、疲れが一気に吹っ飛んだ気がした。リビングの扉を開けると、そこにはお正月以来久々に会うお姉ちゃんがいた。

「お姉ちゃん!」
「さつき、お帰り〜」

思わず駆け寄って抱きつくと、優しく髪を撫でてくれた。

「お姉ちゃんなんか痩せた?」
「最近ほとんど休みなくてバタバタしてたから」
「もう、ちゃんと気をつけてよ〜」
「さつきこそ忙しいんでしょ」
「インハイ前だから気合い入れないと!」
「都予選だからテツくんと緑間くんとは当たる可能性あるんだよね」
「うん。今テツくんがいる誠凛が強くなってるみたいで。この間仕入れた情報ではきーちゃんがいる海常に練習試合で勝ったって言うんだもん!驚いちゃった」
「あの時涼ちゃん初めて負けたって泣いたんだよ」
「え!そうなの!?っていうかお姉ちゃんなんで知ってるの」
「あ、私土日限定で海常の子たちのサポーターしてるの。マッサージ係」
「ええ!なんで海常なの!?うちに来てくれたら良かったのに〜っ」

これはこれはなんとも頼もしい助っ人が…。私もマネージャー歴は長い方だから、選手のケアの仕方は数多く学んだが、専門的に学んでいるお姉ちゃんとはレベルが違う。いくら私立の強豪校でもそういう専門家を常に配置しているところは多くはない。

「もしかして…青峰くんの機嫌が悪かった理由ってそれ?」
「やっぱり?ほかの誰かなら良かったのかもしれないけど涼ちゃんがいるところっていうのが気に食わなかったみたいで」
「あ、でもね、お弁当食べてる時は機嫌よかったよ!お姉ちゃんは相変わらず料理上手なんだね」
「大輝に鍛えられてるから」

そう言って笑ったお姉ちゃんは、嬉しそうだけど少しだけ寂しそうな顔もしていた。青峰くんとお姉ちゃん、この二人は別に付き合っているわけではないけど、お互いを大切にしているのは一番近くで見てきた私だからわかる。だからこそ、先に進まない二人が気になって仕方がなかった。

「お姉ちゃんってさ」
「なに?」
「青峰くんと付き合わないの?」
「やめてよ、五歳も年下なのに」
「好きじゃないの?」
「放っておけないだけ。あんたと一緒」

先程よりもわかりやすく寂しそうな顔をしたお姉ちゃん。昼休みに見た青峰くんと同じ顔だった。

「ナマエ、さつきのご飯今からだから先にお風呂いってきたら?」
「はーい」

お母さんのひとことで私たちの会話は終了した。お風呂から上がったお姉ちゃんはそのまま自分の部屋に向かった為に再び顔を合わせることはなく、私も食事を済ませお風呂に入り、自室に籠もって情報収集に努めた。

(ふう…一段落…)

今後脅威になりそうな選手のデータを集め、予測をしてまとめる作業が一段落したので水でも飲もうかとリビングに向かうと、お父さんがあまりに真剣な声色で何か喋っているのが聞こえたので入るのを躊躇ってしまった。

「困ったな、父さんの会社は逆方向だから行ってやれないし…」
「別にそんなつもりで話したんじゃないよ」
「でも女の子のひとり暮らしだぞ?何かあったら」
「明日からは暫くバイトもあるし家にいる時間短いから、ね?大丈夫だよ」
「お母さんも流石に泊まりには行けないけど心配ね」
「今日はちょっと心細かっただけだから」
「無理しちゃダメよ?その怪しい人を見たのはそのときだけ?」
「うん。かなり遅い時間だったんだけど」
「警察に相談してみるか?」
「何もされてないのにできないよ」
「そうね…どうしましょう」

これはつまり、お姉ちゃんの家の近くに不審者が出てお姉ちゃんが怖がっているということなのだろうか。そうだとしたら…青峰くんは心配するだろう。それでも知らないよりは知って何とかしたいと思うはずだ。

私は急いで部屋に戻り、青峰くんに電話をかけた。

「んだよ…こんな夜遅くに」
「今お姉ちゃん帰ってきてるんだけど、理由聞いちゃって」
「…なに」

きっといつもの私の電話ならすぐに切られていたことだろう。しかし他ならぬお姉ちゃん絡みの内容だとわかると、その声色はすぐに真剣味を増した。

「お姉ちゃんの家の近くに不審者が出たみたい。それで今日はバイトもないから心細くなったらしくて」
「はぁ…マジかよ」
「お父さん達も心配してるんだけど、泊まりに行ったりできる人いないからどうしようかって今話してる」
「……」
「青峰くん?」
「いや、考えるわ。じゃあな」

自分勝手に切られた通話にイラっとしながらも、お姉ちゃんの為とあらば青峰くんは何とかしてくれるだろうと思った。どうせ明日も朝練にはこないと思うけど…お昼にジュースのひとつくらい奢ってあげようと思いながら再び情報収集を始めた。


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