×
nanoへのご支援
- ナノ -

今日は大輝との約束の日。
部活終わりだから洒落た服装などではなくジャージ姿だが、それはお互い様だろう。
待ち合わせ場所につくと、そこにはすでに大輝がいた。珍しいこともあるもんだなと思いながら駆け寄ると遅ぇよと軽く小突かれてしまった。

「ごめんね、待たせちゃった?」
「三十分くらい待った」
「ごめんごめん。どこ行くの?先にご飯食べる?」
「そうだな、どっか飯行くか」

お互いジャージ姿のため、部活後にデートをしている高校生のような気分だった。最近若い子たちとばかりいるせいで、自分まで若いつもりになってしまうのだから困ったものだ。

昼食を食べるため適当に入ったファミレスでチキンドリアを注文をした。大輝は唐揚げ定食大盛りだ。

「この間黄瀬からメールきたっていったじゃん」
「そういえばそうだね。なんか急用だったの?」
「これ」

大輝の携帯には私が涼ちゃんのジャージを着ている姿の写真が写っていた。彼ジャージみたいとはしゃいでいた時のあれだ。

「ナマエさんの彼ジャージどうッスか、だと」
「寒かったから借りただけなのに」
「お前本当わかってねぇよな」
「なにが?」
「そんなに俺妬かせて楽しいわけ」
「なんで大輝が妬くのよ」
「マジでわかんねぇってんならタチ悪い」
「でも私涼ちゃんのこと何とも思ってないよ?弟がいたらこんな感じかなとは思うけど」
「俺は?」
「ん?」
「俺も弟か」
「大輝は違う」
「じゃあなに」
「幼馴染じゃん、もっと特別」
「それだけ?」
「今日はやたら意地悪だね」
「お前のせいだよ」

核心に迫りたい大輝と、まだ踏ん切りがつかない私。言葉にするのを躊躇ってしまうのは大輝のことが大切だからだ。

「チキンドリアのお客様」
「あ、私です」
「こちら唐揚げ定食大盛りになります」
「それこっちっす」

それぞれ注文した料理がきたため、無言で食べ始める。このまま気まずくなるのは嫌だなと思っていたら大輝が唐揚げをひとつ箸に挟んで「食う?」と一言発した。私はコクリと頷き口を開ける。唐揚げを押し込んだ大輝は口いっぱいに頬張る私をみて眉を下げた。

「美味そうに食うよな、ナマエは」
「おいひーよ」
「お前のも一口くれ」

スプーンでドリアをすくってそのまま大輝の口へ運ぶ。こういうやりとりも大輝とならば何気なくできてしまうから恐ろしい。習慣になりすぎてきっと何とも思われてないのだろう。

美味しそうにご飯を食べるところも、お会計の時に見栄を張ってちょっと多めに出してくれるところも、人混みの中ではぐれないように肩を抱いてくれるところも、満員電車で私が潰れないように壁になって守ってくれるところも本当は全部全部好きだ。

大輝から特別に思われていることはわかっているけれど、だけどまだ時期じゃない。私は大輝が自分自身の力で再び真正面からバスケに向き合ってくれるようになるまで思いを告げてはいけないような気がしていた。

「何考えてんの?」
「ん、ああ、大輝のこと」
「そういうことサラッというよな」
「嘘ついてもすぐバレるし」
「まあな」
「嘘つくと怒るし」
「当たり前だろ」
「心配性だもんね、大輝は」
「お前のことだけな」
「ありがとう」

特別扱いが心地良くて、大輝が離れていってしまわないように適度に距離を詰めてしまう私はズルい大人だと思う。

「もうすぐインハイ予選始まるよね」
「もうちょい先だろ多分」
「ちゃんと聞いておかないとさつきが怒るよ」
「あいつ最近マジでうるせぇんだよ。お前は俺の母ちゃんかよって思うくらいうるせぇ」
「大輝のこと思ってやってるんだと思うよ」
「それならお前がいてくれた方が良かった」
「無理だよ、五歳も離れてるのに」
「お前は黄瀬に浮気するしなー」
「そんなんじゃないって」
「そういえばお前のバイトって何だろうってさつきが気にしてたぜ」
「言ってなかったっけ。大輝から言っても良かったのに」
「言ったら色々聞かれるだろ。面倒なんだよ」
「わからなくはないけどね」

いつも明るくおしゃべりが大好きなさつきは、喋り出すと止まらない節がある。普段一番身近でそれを感じているであろう大輝は、想像しただけで嫌だと首を横に振った。

「高校は楽しい?」
「別にフツーだよ」
「勉強もちゃんとしなきゃダメだよ」
「そうだな」
「私も国家試験に向けて頑張ってるから」
「それは来年か?」
「そう。来年の三月」
「大変だよな色々」
「まだまだ勉強したいことたくさんあるよ」
「勉強ってしたいもんか?スゲーな」
「幸せな未来のために」
「俺のためじゃねぇの?」
「いずれそうなったらいいなとは思ってる」

これは本音。いつか大輝が本当に望んでくれた時にそばにいられたいい。その時のために勉強して経験を積んでいるのだ。

でも、大輝の未来を決めるのは大輝だから。
となりに私がいるとは限らない。

「今日ってなんか用事あったの?」
「いや…別にこれといってねぇんだけど」
「けど?」
「お前と会う口実っつーか。たまには外で会いたかったっつーか」
「そうなんだ」
「悪ぃかよ」
「ううん、嬉しい」

二人並んで他愛ない話をして、買い物をして、今までだって何度もそうやって同じ時間を過ごしてきた。今までだってとても幸せで、これ以上なんてないものだと思ってきた。変わらなければならないのだろうか、このままの関係ではいけないのだろうか。近づく度に少し離れて、いつも一定の距離を保ったままの私たちだ。

楽しい時間はあっという間で、気付けばいつの間にかあたりは真っ暗になっていた。暗いから家まで送ると譲らない大輝をなんとか宥めて街で別れ、私はいつも通りひとりで自分の家に帰った。お風呂に入り洗濯機を回し、ソファに寝転んでテレビを見ているといつの間にか眠っていたらしく、再び目を開いた時にはすでに0時を過ぎていて、とうの昔に洗濯は終わっていた。少しお腹が空いたけれど…こんな時間に食べてしまうのは体に悪い気がして食事を諦め、脱水が終わって随分と時間が経ってしまった洗濯機へと足を伸ばした。ベランダで洗濯物を干していると、下の方から人の視線を感じた。こんな夜中に…なに?そう思って目を凝らしても既にそこに人影はなく、不安だけが残った。

こんな時は誰かにそばにいて欲しいけれど、思い浮かんだ人は近くにはいない。少しでも安心したくていつか大輝が置いていったままのパーカーを羽織った。


←前項戻る次項→