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海常GW合宿2

それぞれ自分の荷物を運び込み、施設内の設備についての説明を受ける。それからすぐにレギュラーメンバーは体育館に移動し、夜七時頃までぶっ通しで練習をするらしい。私はそれまでの間に夕食の準備をすることになっている。練習直後の食事となるため、とにかく量が必要になるだろう。数名手伝ってくれる子たちがいるので、労働力については申し分ないようだ。

テキパキと指示を出しながら、元々用意されていた献立表通りに品目数を揃える。献立表を見る限りでは栄養バランスは完璧に近いものだったが、問題は量だ。これで足りるのだろうか…。

食事の用意が終わり、手伝ってくれた子たちはそれぞれ自分の持ち場に戻っていった。入浴の準備や寝具の準備など、下級生は上級生のために働かなくてはならない。私は運動部出身ではないが、その厳しさは高校時代の友人たちから聞いたことがある。女性特有の陰湿な後輩いびりがないだけマシなのだろうが。

「あー疲れた…」
「今日まだマシだぞ、明日死ぬなお前」
「え、本当ッスか?ヤベー」
「とりあえずさっさと飯食って風呂だ」
「合宿ってハンパねぇ…タイムスケジュール鬼だ」

笠松くんを筆頭にレギュラーメンバーと他の合宿参加メンバーが戻ってきた。給食の配膳のようにご飯をよそった茶碗が次々となくなっていく。全ての配膳が終わり、全員が席に着いたところで監督から明日のメニューの説明があった。話の途中、食事が待ちきれないと言わんばかりに各方面で鳴るお腹の音に思わず笑みがこぼれた。

「では、飯は最低三杯食べるように。笠松号令」
「じゃあ、全員手を合わせろ。食事を用意してくれたナマエさんと一年に感謝して、いただきます」
「「「いただきます」」」

礼儀正しい号令のあと、漫画のような勢いでご飯をかき込む男子は見ていて爽快だった。私は下座に陣取り、美味しそうに食べてくれているみんなの様子を伺いながら控え目によそったご飯を口に運んだ。

全員の食事が終わったのは約一時間後。食器は各々洗って片付けることが慣わしとなっているらしく、みんな嫌がる素振りもなく自分が使った分の食器をキレイに洗ってくれたのでとても助かった。

「ナマエさーん!飯最高でした!」
「良かった。量は足りてた?」
「食い過ぎて苦しいくらいッス」
「この後は…お風呂行って、マッサージよね」
「はいッス」
「じゃあ私もお風呂入ってくるね。それからみんなのお部屋に行くからよろしく」
「一緒に寝るッスか?」
「まさか。マッサージ終わったら戻るよ」
「ちぇ〜」
「ほら早く行っておいで」

お風呂の時間は学年別と決まっているらしく、一年生は一番最後だ。運動部の年功序列の縦社会はとても大変そうだ。

女風呂を利用するのは私しかおらず、広すぎる湯船にのびのびと体を伸ばした。ひとり暮らしを始めてからというもの、自分の家で湯船にお湯を張ることは殆どなく毎日シャワーのみだった。実家に帰った時くらい湯船に浸かるが、さすがにここまでの広さはない。
私一人のために女風呂の用意までしてくれた一年生に感謝しつつ、ありがたくお湯を堪能してお風呂を出た。今夜はやけに冷える。初夏とはいえ夜の気温はこんなものだろうか…。もう一枚上着を持ってくるべきだったと後悔しながら髪を乾かしレギュラーメンバーの部屋へ向かう。他の子たちは学年別に広間に泊まることになっているが、監督からの指示を仰ぎやすいようにこのメンバーだけ別室が充てがわれていた。

ーーコンコン
「ナマエです。入ってもいいですか」

年頃の男の子だけがいる部屋に無言で入るほど無粋ではなことはしたくないため、念のため大きめのノックをして声をかけるとすぐに中村くんがドアを開けてくれた。

「ナマエさん、お願いします」
「とりあえず三年生から順番に行くね」

ひとりひとり疲れて強張った筋肉をほぐしていく。私のマッサージを待っているメンバーは、中村くんが持参したホラー映画を観せられているようだ。

「ねえ笠松くん、予選っていつから?」
「六月入ってからっすかね」
「もうあんまり時間ないんだね」
「でも県予選は多分余裕っす」
「そうなんだ」
「ただ、本戦になると各地の強豪揃いなんで」
「そうだよね」
「うちの他にもキセキの世代を獲得した高校はあるし、それぞれ元々のポテンシャルが高いから怖いっすよ」

大輝がいった桐皇、緑間くんがいった秀徳、赤司くんは京都の洛山だったかな。それから紫原くんが秋田の陽泉?たぶん、そんな名前のところだった。

平日にも行われる予選は恐らく観ることができない。準決勝戦あたりから土日に差し掛かるだろうから、その試合は是非観に行きたいと思っている。

笠松くん、森山くん、小堀くん、早川くん、中村くんと順番にマッサージを終え、涼ちゃんにたどり着いたころにはホラー映画は終盤に差し掛かっており、涼ちゃんは顔面蒼白といった様子だった。

「ナマエさん…!」
「そんなにくっついたらマッサージできない」
「今日一緒に寝てくださいッス」
「ダメに決まってるでしょ」
「いや無理俺もう眠れない」
「大丈夫大丈夫、夜中にトイレに行っても誰もいないから」
「いそうな感じに言うのやめてくださいッス!」

ぷるぷる震える涼ちゃんをからかいながらマッサージを続ける。初めてこの子に出会った時に比べると、随分としっかりした体つきになった。感慨深くてつい手を止めて見つめてしまっていた。

「ナマエさん?大丈夫?」
「あ、うん。黄瀬くん大きくなったなぁって」
「当たり前ッスよ〜」
「腕も随分太くなったし」
「あんまり筋肉付けると服入らなくなるから怒られるんスけどね。今はバスケが最優先ッスから」

中学時代、どこか物足りなさそうにバスケをしていた涼ちゃんが、今こんなに楽しそうにバスケを語っていることが嬉しかった。

「私土日の試合しか観にいけないからさ、ちゃんと勝ってね」
「もちろんッス!」
「楽しみにしてるから」

全てのマッサージを終えたところで、中村くんがDVDを差し替えていることに気がついた。まだ観るの?と思いながら部屋に戻ろうとすると、涼ちゃんに腕を掴まれてそのまま腰を下ろす羽目に。

「え、私観ないよ」
「怖いんスか」
「そりゃ怖いよ。苦手なの」
「俺もッス」
「私部屋に戻りたい」
「俺をひとりにするんスか!?」
「みんないるじゃん」
「よくみて!敵しかいないから!」

どうやらホラー映画を怖がっているのは涼ちゃんだけらしく、ほかのメンバーはニヤニヤしながら怯える涼ちゃんを見ており、映画を観ずに寝るという選択肢は用意されていないようだった。
手首の骨がメキッと音を立てるのではないかと言うほど強く握られ、仕方なしに腰を下ろすと、涼ちゃんもうしろから私を抱え込むようにして座り込んだ。風呂上がりに感じていた寒さは涼ちゃんのおかげで解消されたが、私までこのままこのホラーを観なければならないのだろうか。正直こんな学校みたいな建物でひとりで眠らなければならないのにホラーなど観たくない。しかし時折小さな悲鳴をあげながら震えている涼ちゃんをほったらかしにできるほど鬼でもない。さてどうしたものか。程よくあたたかい涼ちゃんに背中を預け極力テレビ画面は視界に入れないようにしながら楽しそうな中村くんたちを眺める。笠松くんと小堀くんは明日のスケジュールを確認しているし、中村くんと早川くんは映画を観ながら談笑している。森山くんは携帯とにらめっこ中。

「黄瀬くん、私そろそろ戻るよ」
「え、やだ、待って」
「そんな可愛い声出してもだめ。明日も早いんだから、ね?」
「だって〜、ナマエさんの鬼、悪魔!好きだけど」
「あとちょっとお願いがあるんだけど…」
「バリ無視かよ!…なんスか」
「そんなに拗ねないで。ちょっと寒くてさ、ジャージ貸してもらえないかと思って。黄瀬くんが着ないんだったらでいいんだけど…」
「全然いいッスよ!ナマエさんが風邪引いたら大変だし」

涼ちゃんはそういって自分の荷物の中から海常のジャージを取り出し、私の肩にかけてくれた。さすがに長身の男の子のものだけあって随分と大きい。

「みんな見て!!」
「え、なに」
「ナマエさんの彼ジャージ!!」

涼ちゃんが突然あげた大声にみんなが振り返った。

「いいッスね〜〜」
「黄瀬のじゃなくて俺のをどうぞ」
「森山くん気持ちは嬉しいけど…誰のでもいい…」

ーーカシャーー

「写真なんかどうするの」
「俺のコレクションに」
「バカやってないで早く寝てね」
「合宿中ずっと貸しててあげるから遠慮はいらないッスよ」
「うん、ありがとう」

みんなの部屋から私の部屋までは数十メートルしかないが、その距離だけでもなんだか心細い。ほの暗い廊下を歩きながらそんなことを考えているとポケットに入れていた携帯が震え始めた。慌てて取り出し画面を見ると大輝からの着信だった。

「もしもし、どうしたの?」
「黄瀬からメールきたんだけど」
「涼ちゃんから大輝に?珍しいね」
「今なにやってんの」
「海常の合宿に同行してる」
「まさかあいつと同部屋とかじゃねぇよな」
「私だけ別の部屋用意してもらってるよ」
「ならいいけど」
「どうしたの、急に」
「お前が無防備すぎるから嫌になってんの」
「え?どの辺が?」
「はぁ…もういいよ。いつ終わんの?」
「五日まで」
「来週末は?」
「普通に海常で部活かな」
「あ、やっぱ俺がだめだわ。じゃあ再来週の日曜の午後、空けとけよ」
「なんかあるの?」
「いいから付き合え」
「うん」
「じゃあ切るぜ」
「あ、ちょっと待って」

ひとり部屋の恐怖も大輝のおかげでかなり紛れたが、それでも慣れない場所にいるせいかまだ少しだけ心細かった。通話状態のまま布団を用意しそのまま入る。大輝には悪いが眠くなるまで話に付き合ってくれと頼むと、面倒臭そうに仕方ねぇなと言われた。そう言いつつ私のわがままを聞き入れてくれるから、大輝は見た目の割に優しいのだ。

眠る直前まで大輝の声を聞いていたおかげでその夜はとてもぐっすり眠ることができた。


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