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海常GW合宿

今日から海常の合宿だ。今年は五月二日が土曜日で、それから祝日が三日間が続くため、合宿は二日〜五日までの四日間となる。私は四日分の荷物を詰めたキャリーバッグをゴロゴロと引き摺り電車に乗って海常に向かった。

「ナマエさ〜〜ん!!おはようッス!」
「おはよう黄瀬くん、とりあえず離れて」
「なんでッスか!」
「ギャラリーの視線が怖い」

海常に着くといつものように涼ちゃんが飛びついてきた。バスケ部が単独で使用している体育館にはいつも一定数女の子のギャラリーがいるが、もちろん言わずもがなモデル黄瀬涼太のファンの子達であり、バスケに興味があるわけではなく黄瀬涼太そのものを見にきている子達である。涼ちゃんが私に懐いてくれているのはとても嬉しいし光栄なことではあるけれど…涼ちゃんのファンの子達から向けられる羨望とは違う殺意にも似た敵意のかたまりような視線は純粋に恐ろしかった。きっと私がここにいる意味など理解する前に敵として処理されているのだろう。

「笠松くーん、ヘルプ」
「黄瀬!てめぇ本当凝りねぇな!!!」
「うわ!またそうやって!暴力反対ッスよ!!」

笠松くんに何とか涼ちゃんを引き剥がしてもらい、いつもの仕事をする。海常だってインハイ前。インハイは新入生が入ったばかりの新しいチームとして初めての大きなタイトルのかかった試合らしい。インハイ常連の強豪校として、キセキの世代を獲得した高校として、予選なんかで負けるわけにはいかず練習に入る熱も次第に高くなっている。

普段からの走り込みや筋トレでばっちり作り込まれている体が大会までに壊れてしまわないように、念入りにケアする。さつきとは違うカタチでも、バスケを愛するこの子たちの役に立ちたい。

今日は午前中で全体練習は終わり、午後から合宿の拠点となる宿舎に移動するらしい。昼休憩後に合宿に参加するメンバーのみ集められ概要の説明を受けた。
合宿に参加しないメンバーについては、普段通り登校して部活をおこなうようだ。

私に与えられた仕事は、主に練習後の選手のケアと食事の用意とのことだった。洗濯等は合宿に参加する下級生がおこなうらしいのだが、男所帯のため食事の用意はお願いしたいと言われ、二つ返事で了承した。

「そういえば、ここってマネージャーいないの?女の子の」
「前はいたんですけど…黄瀬がいるおかげで応募殺到なんですよ。まぁつまり、バスケ部のマネージャーというより黄瀬のマネージャー志望のやつばっかりで、あてになんねぇから全部弾きました」
「大胆だね」
「普段のことは一年の部員がいれば回るし、困るのはこういうときの食事くらいなんで」
「森山は自分の好みの女いなかっただけだろ」
「そんなことねぇよ!」
「今年はナマエさんいるから良いッスね〜。みんなナマエさん連れてきた俺に感謝してくださいよ?ナマエさんの飯美味いから練習いくらでも頑張れそうッス」
「は?食ったことあんの?」
「中学時代に何度か、ね?ナマエさん」
「そうだね」
「あとレモンの蜂蜜漬けが絶品」
「普通だよ、さつきのがひどいだけで」

一緒に合宿に参加することを喜んでもらえるくらいにはレギュラーメンバーと打ち解けられたようで安心している。最初は遠慮のかたまりのようだった笠松くんも、最近では自分から気になる箇所のマッサージを頼んでくれるようになった。森山くんは笠松くんとは正反対でとにかく女の子が好きらしく、よくタイプの女の子の話をしてくれる。小堀くんは天然な節があるがとても穏やかな子で、面倒見がいい性格で私の仕事を真似てマッサージを手伝ってくれたりもする。二年の早川くんは失礼な話時々なんて言っているかわからないが、涼ちゃんの次に懐いてくれている。中村くんは一見クールだが意外とオカルト好きらしく、おは朝のラッキーアイテムを必ず持ち歩くらしい緑間くんの話をすると興味津々といった様子で、よく占いの話をしてくれる。合宿の日の夜は勝手にホラー映画上映会を開く予定らしい。と、まぁこんな感じにメンバーを語れるくらいには馴染んでいるつもりだ。

各自荷物を用意し、宿舎へ移動するためのバスへ向かっていると、小堀くんが私のキャリーバッグを引いてくれた。

「あ、ごめん小堀くん、いいのに」
「大丈夫ですよこれくらい」
「ありがとう」
「あー!俺が手伝おうと思ったのに!」
「うっせーぞ黄瀬!!」
「先輩怖いッス!でもよくよく考えたらナマエさん女の子ひとりッスよね?色々大丈夫なんスか?」
「監督がナマエさんの部屋だけ別に用意するって言ってたしいいんじゃねぇの?」
「え!余計なことだわ〜」
「森山先輩に同意ッスわ。一緒に寝たい」
「させるわけねぇだろ馬鹿かお前ら」

男の子同士ってすごく楽しそう。
手は出る足は出るで、決して穏やかではないが、それは仲の良さを表しているようでもあった。さつきが以前「男の子って羨ましい」と言っていた気持ちがわかる気がする。わいわい騒ぐ男の子たちに囲まれて、自分も高校生に戻ったような気分だった。

バスに乗りこむと私の隣に誰が座るかという争いが始まった。主に森山くんと涼ちゃんだ。ガヤガヤと二人で争っている隙にそっと笠松くんの隣に腰をおろした。

「「ああーっっっ!!!」」
「うるせぇよ、座れ」
「でも!お前ズルいぞ!!」
「そうッスよ!!」
「ほら、座らないと出発できないよ」
「帰りは俺の横ッスからね!!」
「はいはい」
「よっしゃ!」
「あ、黄瀬ズリィって!!」

なんとか二人が着席し、ようやくバスが出発した。笠松くんは「はぁ」と盛大なため息をついた。

「ごめんね、巻き込んで」
「こちらこそっすマジで」
「賑やかだよね、いつま楽しそうだよ」
「黄瀬はマジでうるさいだけっす」
「これから四日間大変そうね」
「先が思いやられる…」

バスで三十分ほどかけて辿り着いたのは海常という校名にふさわしく、海の近くにある建物だった。この建物はバスケに限らず部活動に力を入れている海常が所有するもののようだ。規模は大きくはないが、筋力トレーニング用の部屋や浴場なども完備されており、普段は一般に貸し出されているらしい。

「すご、こんなの持ってるんだ」
「体育館はこの裏にあります」
「そっか、毎年来るんだよね」
「本当は学校の敷地内にも似たようなのあるんですけど…この時期は別の部も大会前の合宿あるんで取り合いになるんすよ」
「へえ…すごいね」

学校の敷地内の施設を利用して他校を呼び練習試合をする部、こうやって別の施設に移動する部、他校の合宿に参加する部など色々あるようだ。

荷物を運び入れながらこれから始まる合宿のために人知れず気合を入れた。


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