本当に送らなくていいッスか?という涼ちゃんの申し出を断り、ひとりで自宅まで帰ってきたところで大輝から「今日泊まる」とメールが届いた。また急だなこの子は…と思いながら承諾し到着を待つ。三十分もしないうちにやってきた大輝は部屋に入ってきて早々「俺になんか言うことあるだろ」と不機嫌さを隠すことなく私に言った。
「言うこと?」
「またバイト始めたんだろ」
「ああ、そのこと」
「前のとこ辞めたのか」
「辞めてないけど、平日だけにしてもらった。それで土日は新しいところ」
「どこまで行ってんの」
「言わなきゃダメ?」
明日はうちから直接学校に行くつもりらしい大輝は持ってきた制服を慣れた手つきでハンガーにかけていた。私は冷蔵庫の中に二人分の食材が残っているかを確認しながら大輝の小言を話半分程度に聞いていた。
「何でわかんねぇんだよ」
「なにが?」
「俺はお前を心配してるんだよ」
「私はもう二十歳過ぎた大人だよ?今更高校生に心配されなくても…」
そこまで言って冷蔵庫から大輝に視線を移すと、先ほどまでいた場所に大輝はいなくて、彼はいつの間にか私の真後ろに立っていた。
「大輝?」
「じゃあそのお前がいう二十歳過ぎた大人が俺みたいな高校生相手にでも犯される危険性あるとか考えてねぇのかよ」
「なに、急に」
「お前は女だから、高校生の俺にも力じゃ勝てねぇんだよ、それくらいわかるだろ」
掴まれた手首はギリギリと骨が軋むように痛む。
痛みに耐えながらカフェのバイトを始めた時にもこうやって怒らせてしまったことを思い出した。学習しないなぁ…私も。
「大輝、痛いから離して」
「いやだ」
「お願い、ね?」
「お前はすぐはぐらかすだろうが」
「…ちゃんと話すよ」
私に対する苛立ちを隠しきれない様子の大輝をなんとか宥めてソファに並んで腰掛ける。
「涼ちゃんに誘われてね、海常でレギュラーメンバーのサポートすることになったの」
「は?」
「基本は土日だけで、試験とかがあって行けない時は無理しなくて良いって言ってくれてるし、交通費も全部負担してもらってる」
「……」
「監督がね、涼ちゃんがこれから海常を担って行く存在だからまだ体が出来てない涼ちゃんが無理して体壊さないようにケアして欲しいって」
「黄瀬の専属ってことかよ」
「そういうわけじゃないけど…。勿論公式な登録とかはないから試合の時にベンチに座るなんてことはないし、あくまでもサポートだけなんだけど」
「何でそうやって心配ばっかさせんだよ…」
深く項垂れたまま頭を抱え消え入りそうな声でそう言った大輝。心配になって顔を覗き込むとそのままガバッと抱きしめられた。
「お前俺のために勉強してるんじゃないのかよ」
「そうだよ」
「だったらなんで」
「経験積むことも必要だと思ってる」
「なぁ、ナマエはどうやったら…俺だけのものになってくれるわけ?」
「え?」
気がつくとソファに押し倒されていて、私に跨る大輝を見上げると苛立ちと悲しみが混ぜ合わさったような顔をしていた。
「何言ってるの」
私はもうずっと大輝のことだけ考えてるよ。
そう言いたいのに、年の差が邪魔をして素直に言えなかった。自分の思っていることをすべて打ち明けて、思い通りにならない現実に腹を立てるなんて、大人はそんなに自分に素直に生きられないよ。
私だってさつきと同い年に生まれたかった。
中学も高校も大輝と同じところに進学していつだってそばで大輝のバスケが見たいのに。
「何でお前が泣きそうになってるんだよ」
「大輝に勘違いされたくない」
「なんで今そんなこと言うんだよ」
「言わなきゃもう会ってくれないでしょ」
「じゃあ何で黄瀬のところに行くんだよ」
「大輝の力になりたいから、勉強したいの」
「…もういい、俺の負け」
今度は諦めたように笑った大輝。
体の力は抜け、そのまま覆いかぶさるように倒れこんできた巨体を受け止め抱きしめた。
「ご飯食べようよ」
「今日なに?」
「冷蔵庫の中、あんまり食材無かったからどこか食べに行く?」
「マジバ?」
「いいね、たまには」
「お前の飯の方が好きだけど」
「ありがと」
今はまだ、イラつかせてしまってばかりかも知れない。今はまだ、ずっとそばにいられなくても私の未来の時間はすべてあなたに捧げるつもりだから、だから…今は…まだこのまま。
「言うこと?」
「またバイト始めたんだろ」
「ああ、そのこと」
「前のとこ辞めたのか」
「辞めてないけど、平日だけにしてもらった。それで土日は新しいところ」
「どこまで行ってんの」
「言わなきゃダメ?」
明日はうちから直接学校に行くつもりらしい大輝は持ってきた制服を慣れた手つきでハンガーにかけていた。私は冷蔵庫の中に二人分の食材が残っているかを確認しながら大輝の小言を話半分程度に聞いていた。
「何でわかんねぇんだよ」
「なにが?」
「俺はお前を心配してるんだよ」
「私はもう二十歳過ぎた大人だよ?今更高校生に心配されなくても…」
そこまで言って冷蔵庫から大輝に視線を移すと、先ほどまでいた場所に大輝はいなくて、彼はいつの間にか私の真後ろに立っていた。
「大輝?」
「じゃあそのお前がいう二十歳過ぎた大人が俺みたいな高校生相手にでも犯される危険性あるとか考えてねぇのかよ」
「なに、急に」
「お前は女だから、高校生の俺にも力じゃ勝てねぇんだよ、それくらいわかるだろ」
掴まれた手首はギリギリと骨が軋むように痛む。
痛みに耐えながらカフェのバイトを始めた時にもこうやって怒らせてしまったことを思い出した。学習しないなぁ…私も。
「大輝、痛いから離して」
「いやだ」
「お願い、ね?」
「お前はすぐはぐらかすだろうが」
「…ちゃんと話すよ」
私に対する苛立ちを隠しきれない様子の大輝をなんとか宥めてソファに並んで腰掛ける。
「涼ちゃんに誘われてね、海常でレギュラーメンバーのサポートすることになったの」
「は?」
「基本は土日だけで、試験とかがあって行けない時は無理しなくて良いって言ってくれてるし、交通費も全部負担してもらってる」
「……」
「監督がね、涼ちゃんがこれから海常を担って行く存在だからまだ体が出来てない涼ちゃんが無理して体壊さないようにケアして欲しいって」
「黄瀬の専属ってことかよ」
「そういうわけじゃないけど…。勿論公式な登録とかはないから試合の時にベンチに座るなんてことはないし、あくまでもサポートだけなんだけど」
「何でそうやって心配ばっかさせんだよ…」
深く項垂れたまま頭を抱え消え入りそうな声でそう言った大輝。心配になって顔を覗き込むとそのままガバッと抱きしめられた。
「お前俺のために勉強してるんじゃないのかよ」
「そうだよ」
「だったらなんで」
「経験積むことも必要だと思ってる」
「なぁ、ナマエはどうやったら…俺だけのものになってくれるわけ?」
「え?」
気がつくとソファに押し倒されていて、私に跨る大輝を見上げると苛立ちと悲しみが混ぜ合わさったような顔をしていた。
「何言ってるの」
私はもうずっと大輝のことだけ考えてるよ。
そう言いたいのに、年の差が邪魔をして素直に言えなかった。自分の思っていることをすべて打ち明けて、思い通りにならない現実に腹を立てるなんて、大人はそんなに自分に素直に生きられないよ。
私だってさつきと同い年に生まれたかった。
中学も高校も大輝と同じところに進学していつだってそばで大輝のバスケが見たいのに。
「何でお前が泣きそうになってるんだよ」
「大輝に勘違いされたくない」
「なんで今そんなこと言うんだよ」
「言わなきゃもう会ってくれないでしょ」
「じゃあ何で黄瀬のところに行くんだよ」
「大輝の力になりたいから、勉強したいの」
「…もういい、俺の負け」
今度は諦めたように笑った大輝。
体の力は抜け、そのまま覆いかぶさるように倒れこんできた巨体を受け止め抱きしめた。
「ご飯食べようよ」
「今日なに?」
「冷蔵庫の中、あんまり食材無かったからどこか食べに行く?」
「マジバ?」
「いいね、たまには」
「お前の飯の方が好きだけど」
「ありがと」
今はまだ、イラつかせてしまってばかりかも知れない。今はまだ、ずっとそばにいられなくても私の未来の時間はすべてあなたに捧げるつもりだから、だから…今は…まだこのまま。
