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- ナノ -

四月末の日曜日、突然ではあるが誠凛高校との練習試合が行われるらしい。早朝から体育館に行きアップをしているレギュラーメンバーに声をかける。

「森山くんどう?調子いい?」
「教えてもらったマッサージのお陰で、疲れ溜まんなくていい感じです」
「そっか、良かった」

笠松くん以外のメンバーともこうやってコミュニケーションが取れるようになり、クセも把握できてからは重点的なケアもしやすくなっている。森山くんの場合は独特なフォームでボールを投げるため、他の子たちとは凝る場所が少し異なる。

「ナマエさーん」
「ん?どうしたの?」
「今日の相手の誠凛には黒子っちいるんスよ!」
「テツくん?」
「そうッス!」

涼ちゃんの口から飛び出した懐かしいその名前は、帝光中に在学していた当時のさつきから何度も何度も聞かされた名前だった。

「嬉しそうだね」
「この間待ちきれなくて誠凛まで行ったんスよ!そしたら何かすげーのいて!俺超楽しかったんスよ!」
「ふふ、似てる」
「え?」
「ごめん、内緒」

火神くんという名の選手の話を楽しそうにする涼ちゃんは、涼ちゃんに出会ったばかりの頃の大輝によく似ていた。


「誠凛高校到着しました〜」

しばらくしてどこからともなく聞こえた声は、先ほど校門まで誠凛を迎えに行った涼ちゃんのもので、声のした方を見やると海常に負けず劣らず大きな男の子たちが体育館に入ってくるところだった。平均身長は海常の方が上かもしれないが、ところどころに大きな子がいる。一際威圧感のある彼が恐らく涼ちゃんが言っていた火神くんだろう。

「テツくん、久しぶり」
「お久しぶりです。ナマエさん」
「黒子、だれ?知り合い?」
「帝光のマネージャーだった桃井さんのお姉さんです」
「どうも、初めまして」
「どうして海常にいるんですか?」
「サポーターかな、バイトしてるの」
「よく青峰くんが許しましたね」
「実はまだ言ってないんだ」
「彼はいつもあなたの話ばかりしてましたから。知ると怒りそうですね」
「その通りです…」

相変わらず小柄な黒子くんだが、中学時代に比べるとかなり男らしい体型になったように思える。

誠凛の一行の中には制服を着た女の子がいた。海常とは違って誠凛にはとても可愛らしい女子マネージャーがいるんだなと思い様子を伺っていると、その子は選手にガンガン指示を飛ばしていた。海常の監督と挨拶を交わしている様子からすると、どうやら彼女が誠凛の監督をやっているらしい。生徒なのにすごい…。随分と腕の立つ女の子なのだろう。

「黄瀬、お前は出さんぞ」
「ええ!?」
「お前が出たら相手にならんだろ」

ユニホームをばっちり着こなし、試合に出て行こうとした涼ちゃんは監督の指示によりベンチスタートだ。相手の監督と部員は監督の発言にイラっとしたようで、涼ちゃんを引きずり出す為に早々に仕掛けてきていた。私の隣に腰掛けた涼ちゃんは、早く出たいとうずうずしながら試合を見守っていた。

一進一退の攻防が続く中、バキ!という大きな音が響き渡った。原因となった箇所に目をやると、例の火神くんがダンクシュートを決めた際にゴールが外れてしまったようだった。なんて力…。

ゴールが壊れてしまった為、コートを移し試合を再開する。すぐに監督が涼ちゃんを呼びつけ、メンバーチェンジが言い渡された。

「頑張ってね」
「カッコいいところ見せてやるッス」

駆け出していった涼ちゃんは宣言通りにカッコよくゴールを決めた。しかしテツくんと火神くんの連携は目を見張るものがあり、中々点差を付けられない。そんな様子に監督もフラストレーションが溜まっているようで、大声で檄が飛ぶ。その度に私はベンチでビクッと体を震わせていた。

お互い譲らないまま98-98の同点で迎えたラスト15秒。誠凛が持ったボールはあれよあれよという間に火神くんに渡り、ダンクシュートが決まった。

結果は海常の惜敗。

コートに立ち尽くした涼ちゃんは、負けたことが信じられずに子供のように涙を流していた。

誠凛のメンバーを見送り、海常のメンバーは体育館でクールダウンしていた。私はドリンクを配りながらメンバーの体の気になる箇所を少しずつ揉みほぐしていった。そして最後は涼ちゃんの元へ。

「カッコいいところ見せたかったのに負けちゃったッス」
「十分カッコよかったよ」
「試合で負けたの初めてなんスよ」
「そうなの?」
「悔しかったんですけど、笠松先輩から今まで負けたことなかった方がおかしいって言われました」
「たしかにね。そりゃそうよ」
「でもお陰でもっとやる気出たッス!」
「その意気だよ」
「インハイでぶっ潰す!」
「はい、足終わり!次腕ね」
「はーい」

全中以来初の大舞台となるであろうインターハイ。大輝や他の子たちはどんな心持ちで参加するのだろう。今は大輝の試合を見られる嬉しさ半分、怖さ半分といったところだろうか…。


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