中学三年生の夏、全中三連覇を成し遂げ輝かしい功績を残した帝光中バスケットボール部は崩壊の一途を辿った。チームプレーを重視せず個人の能力のみを尊重する彼らのスタイルは内からも外からも反感を買うものだっただろう。しかしそれを良しとした指導者がいた。大人の都合に振り回された可哀想な子たちは袂を分かつようにそれぞれが別の学校へと進学した。
「青峰くん、入学式サボる気?」
「どうでも良くね?」
「良くないよ!お姉ちゃんにも言われてるんだから」
「はいはい、わかったよ」
どんどんどんどんバスケに思い入れが無くなっていく大輝を心配するさつきは、彼と同じ高校へと進学をした。
「最近お姉ちゃんに会った?」
「いや、会ってねぇな」
「忙しそうなんだよね…」
「試験とかあるんだろ」
「今年卒業だからね。それに土日限定で新しいバイト始めるとか言ってて…」
「は?」
「聞いてない?」
「聞いてねぇ」
「青峰くんお姉ちゃんに対して過保護だから言いたくなかったんだろうなぁ。心配?」
「危ねぇだろ。女の一人暮らしなんて」
「お姉ちゃん可愛いしね」
「お前と違ってな」
「あ、ひどい!ガングロのくせに!」
中学時代に輝かしい功績を残した彼らの元には、それぞれに夥しい数の高校からのスカウトがあったらしい。大輝は無謀にも相手の高校に条件を提示し、それを飲まないのであれば入学しないと言った。
「試合には出るが練習はしない」なんて、大輝をバスケットボール選手として獲得したい高校側からすればそれは何ともふざけた要求で、勿論そんな要求を聞くところなどなく大輝自身も進学先を決めかねていたとき、桐皇の監督だけはその条件を飲んだのである。
「ねえ本当に練習出ないの?」
「それで良いって言われたからな」
「はぁ…IH予選すぐなのに」
「どうせ負けねぇだろ」
さつきと大輝が桐皇で新しい仲間と出会っていた頃、涼ちゃんは神奈川県にあるバスケの強豪校で新しい仲間と出会っていた。
各所で入学式も終わり、初めて迎える週末。
私は真新しいジャージに身を包んだ涼ちゃんに連れられて海常に向かっていた。
「わざわざ迎えなんて良かったのに」
「海常は実家からだとちょっと遠いからひとり暮らし始めたんスよ。だから必然的にナマエさんも遠いでしょ?」
「そうだけど、もう大人なんだし一人で電車くらい乗れるよ」
「そうは言っても初めていくとこだし不安でしょ?」
「それはあるけど…」
「これから土日はいつも一緒ッスね!」
「期間限定だよ」
「うう〜そうッスけど…」
何故私が海常に向かっているかというと、簡単に言えばバイトだ。バスケ部に入部した涼ちゃんが、強豪校なのに体のケアが出来るマネージャーがいないことに驚き監督に相談した結果、私を雇う話になったようだ。私としても時給を弾まれたら乗らない手はないというかなんというか…。交通費もすべて面倒見てくれるそうなので、私が今通っている学校を卒業するまでの間、土日限定で行ける時だけ海常で選手のケアをすることになった。
「試合とかもついてきてくれるんスよね?」
「平日は学校あるから無理だけどね」
「めちゃめちゃ嬉しいッス」
ニコニコ笑いながら足をジタバタさせる涼ちゃんは子供のようで可愛い。いや、どちらかというと大きな犬か。
「涼ちゃん、さすがにみんなの前で涼ちゃんって呼ぶの恥ずかしいから黄瀬くんって呼ぶね」
「え?なんで?」
「色々勘違いされても困るし」
「俺は困らないんスけど…むしろされたい」
「ファンに殺される」
「そんな物騒な子いないッスよ〜」
いやいや、そんなわけない。
先程から突き刺さりまくりの視線に気付かないわけないでしょう…!電車の中、降りてから海常までの道のり、体育館に着くまでの間ずっと誰かしらの冷たい視線を感じていた。涼ちゃんの人気はとどまるところを知らないらしい。
「監督〜連れてきたッス」
「おお、君が桃井ナマエさん」
「初めまして。不束者ですが宜しくお願い致します」
「お嫁さんみたいッスね〜!可愛い」
「もうからかわないで」
「黄瀬、整列すんぞ」
「はーい」
監督の隣に立ち、整列した部員に挨拶をする。
マッサージやテーピングなどで体のサポートしたいから違和感があったらすぐに申し出て欲しいことを伝え、練習を眺めた。
私が担当するのは主にレギュラーメンバーだ。
帝光中ほどでは無いがそれなりに部員数が多いため、流石に全ての部員の身体的状況を判断するのは難しいと思っていたのでありがたい話だった。
「黄瀬くん楽しそうですね」
「あいつのセンスはすごい」
監督の隣で今まで見た中で一番真剣にバスケに向き合っている涼ちゃんを眺める。最後に見た全中の決勝戦とは打って変わり、チームプレーの素晴らしさを感じているようだった。
「笠松くん、ですよね」
「はい」
「今の感じで練習しててちょっと足首に違和感とかない?」
「違和感っすか?」
「ちょっと触るね」
キャプテンを務める笠松くんの足に触れ、気になる部分を矯正する。
「多分ね、無意識にこういう風に力が入ってると思うんだよね。だからここに負担が大きい。気をつけて」
「ありがとうございます」
偉そうに色々言ったが高校三年生の男の子だ。体の作りもしっかりしているし、クールダウンも知ってる。監督との話をすり合わせていくと、私には主に涼ちゃんの面倒を見て欲しいとのことだった。勿論他のレギュラーメンバーにも必要なことはするが、涼ちゃんはまだ体ができていない。無理をすれば支障が出ることは明白で、監督はそれを懸念しているらしい。
「彼、ここにきて良かったですね」
「うちに、ですか?」
「キセキの世代の練習風景は何度か見たことあるんですけど、あんなに楽しそうに練習してる黄瀬くん初めて見ました」
「キャプテンの笠松がよく面倒を見てくれているので…いいコンビですよ」
蹴られたり叩かれたり暴言を吐かれたり散々な様子だが、涼ちゃん自身がとても楽しそうにしていた。笠松くんがあたるのも、きっと涼ちゃんに期待しているからだろう。
部活初日はレギュラーメンバーの顔と名前を覚え、それぞれのプレースタイルの特徴をとらえ、故障しそうな部分をピックアップすることで終えた。
これは帰ってからまとめる必要があるな…!
故障しないためのほぐし方を教えてあげたい。明日までには全て用意しようと心に決め、ノートを閉じた。
「ナマエさん!もう帰るッスか?」
「うん。今日のデータまとめたいから」
「送りましょうか?」
「大丈夫。黄瀬くんは前に教えたマッサージちゃんとやってね」
「はいッス」
「また明日、よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
ぶんぶんと音がしそうなほど大袈裟に手を振る涼ちゃんに見送られ、私は海常をあとにした。
「青峰くん、入学式サボる気?」
「どうでも良くね?」
「良くないよ!お姉ちゃんにも言われてるんだから」
「はいはい、わかったよ」
どんどんどんどんバスケに思い入れが無くなっていく大輝を心配するさつきは、彼と同じ高校へと進学をした。
「最近お姉ちゃんに会った?」
「いや、会ってねぇな」
「忙しそうなんだよね…」
「試験とかあるんだろ」
「今年卒業だからね。それに土日限定で新しいバイト始めるとか言ってて…」
「は?」
「聞いてない?」
「聞いてねぇ」
「青峰くんお姉ちゃんに対して過保護だから言いたくなかったんだろうなぁ。心配?」
「危ねぇだろ。女の一人暮らしなんて」
「お姉ちゃん可愛いしね」
「お前と違ってな」
「あ、ひどい!ガングロのくせに!」
中学時代に輝かしい功績を残した彼らの元には、それぞれに夥しい数の高校からのスカウトがあったらしい。大輝は無謀にも相手の高校に条件を提示し、それを飲まないのであれば入学しないと言った。
「試合には出るが練習はしない」なんて、大輝をバスケットボール選手として獲得したい高校側からすればそれは何ともふざけた要求で、勿論そんな要求を聞くところなどなく大輝自身も進学先を決めかねていたとき、桐皇の監督だけはその条件を飲んだのである。
「ねえ本当に練習出ないの?」
「それで良いって言われたからな」
「はぁ…IH予選すぐなのに」
「どうせ負けねぇだろ」
さつきと大輝が桐皇で新しい仲間と出会っていた頃、涼ちゃんは神奈川県にあるバスケの強豪校で新しい仲間と出会っていた。
各所で入学式も終わり、初めて迎える週末。
私は真新しいジャージに身を包んだ涼ちゃんに連れられて海常に向かっていた。
「わざわざ迎えなんて良かったのに」
「海常は実家からだとちょっと遠いからひとり暮らし始めたんスよ。だから必然的にナマエさんも遠いでしょ?」
「そうだけど、もう大人なんだし一人で電車くらい乗れるよ」
「そうは言っても初めていくとこだし不安でしょ?」
「それはあるけど…」
「これから土日はいつも一緒ッスね!」
「期間限定だよ」
「うう〜そうッスけど…」
何故私が海常に向かっているかというと、簡単に言えばバイトだ。バスケ部に入部した涼ちゃんが、強豪校なのに体のケアが出来るマネージャーがいないことに驚き監督に相談した結果、私を雇う話になったようだ。私としても時給を弾まれたら乗らない手はないというかなんというか…。交通費もすべて面倒見てくれるそうなので、私が今通っている学校を卒業するまでの間、土日限定で行ける時だけ海常で選手のケアをすることになった。
「試合とかもついてきてくれるんスよね?」
「平日は学校あるから無理だけどね」
「めちゃめちゃ嬉しいッス」
ニコニコ笑いながら足をジタバタさせる涼ちゃんは子供のようで可愛い。いや、どちらかというと大きな犬か。
「涼ちゃん、さすがにみんなの前で涼ちゃんって呼ぶの恥ずかしいから黄瀬くんって呼ぶね」
「え?なんで?」
「色々勘違いされても困るし」
「俺は困らないんスけど…むしろされたい」
「ファンに殺される」
「そんな物騒な子いないッスよ〜」
いやいや、そんなわけない。
先程から突き刺さりまくりの視線に気付かないわけないでしょう…!電車の中、降りてから海常までの道のり、体育館に着くまでの間ずっと誰かしらの冷たい視線を感じていた。涼ちゃんの人気はとどまるところを知らないらしい。
「監督〜連れてきたッス」
「おお、君が桃井ナマエさん」
「初めまして。不束者ですが宜しくお願い致します」
「お嫁さんみたいッスね〜!可愛い」
「もうからかわないで」
「黄瀬、整列すんぞ」
「はーい」
監督の隣に立ち、整列した部員に挨拶をする。
マッサージやテーピングなどで体のサポートしたいから違和感があったらすぐに申し出て欲しいことを伝え、練習を眺めた。
私が担当するのは主にレギュラーメンバーだ。
帝光中ほどでは無いがそれなりに部員数が多いため、流石に全ての部員の身体的状況を判断するのは難しいと思っていたのでありがたい話だった。
「黄瀬くん楽しそうですね」
「あいつのセンスはすごい」
監督の隣で今まで見た中で一番真剣にバスケに向き合っている涼ちゃんを眺める。最後に見た全中の決勝戦とは打って変わり、チームプレーの素晴らしさを感じているようだった。
「笠松くん、ですよね」
「はい」
「今の感じで練習しててちょっと足首に違和感とかない?」
「違和感っすか?」
「ちょっと触るね」
キャプテンを務める笠松くんの足に触れ、気になる部分を矯正する。
「多分ね、無意識にこういう風に力が入ってると思うんだよね。だからここに負担が大きい。気をつけて」
「ありがとうございます」
偉そうに色々言ったが高校三年生の男の子だ。体の作りもしっかりしているし、クールダウンも知ってる。監督との話をすり合わせていくと、私には主に涼ちゃんの面倒を見て欲しいとのことだった。勿論他のレギュラーメンバーにも必要なことはするが、涼ちゃんはまだ体ができていない。無理をすれば支障が出ることは明白で、監督はそれを懸念しているらしい。
「彼、ここにきて良かったですね」
「うちに、ですか?」
「キセキの世代の練習風景は何度か見たことあるんですけど、あんなに楽しそうに練習してる黄瀬くん初めて見ました」
「キャプテンの笠松がよく面倒を見てくれているので…いいコンビですよ」
蹴られたり叩かれたり暴言を吐かれたり散々な様子だが、涼ちゃん自身がとても楽しそうにしていた。笠松くんがあたるのも、きっと涼ちゃんに期待しているからだろう。
部活初日はレギュラーメンバーの顔と名前を覚え、それぞれのプレースタイルの特徴をとらえ、故障しそうな部分をピックアップすることで終えた。
これは帰ってからまとめる必要があるな…!
故障しないためのほぐし方を教えてあげたい。明日までには全て用意しようと心に決め、ノートを閉じた。
「ナマエさん!もう帰るッスか?」
「うん。今日のデータまとめたいから」
「送りましょうか?」
「大丈夫。黄瀬くんは前に教えたマッサージちゃんとやってね」
「はいッス」
「また明日、よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
ぶんぶんと音がしそうなほど大袈裟に手を振る涼ちゃんに見送られ、私は海常をあとにした。
