翌朝目を覚ますと見事に二日酔いだった。そりゃそうか…と、昨日注文した酒の種類を思い返す。酔っ払いはテンションだけで生きていけるが酔いが覚めると後悔しか浮かばない。涼ちゃんにも迷惑かけたし大輝には心配かけただろうな…。お詫びでもするか。
手近なところにあった痛み止めを飲んで暫く経ってからシャワーを浴び、幾分すっきりしたところで財布片手にスーパーへと向かった。
「レモンレモン…」
帝光中のバスケ部の監督とは、さつきのお陰で面識ができているし、部員にマッサージをすると喜ばれるので何度か練習を見学させてもらったことがある。一応さつきには後で顔を出すと連絡したが、突然行っても別に嫌がられることもないだろう。
材料を買ってレモンの蜂蜜漬けを作り、買ったばかりの粉末のスポーツドリンクの素などをバッグに詰めて家を出た。練習中の体育館に着くとさつきがすぐに私を見つけて中に入れてくれ、そのまま監督に挨拶をして差し入れを手渡した。
「いつもすまないね、ナマエさん」
「こちらこそ急にすみません」
「少し見て行くんだろう?」
「お邪魔でなければですけど…」
「いいよ、ここにいなさい」
ルールはいまいちわからないが、みんなが真剣なのはよくわかる。全中三連覇がかかっているのだから…それもそのはず。鬼気迫るものを感じるほどの熱量だ。しかしどこか殺伐としている。
さつきも他のマネージャーも真剣そのもので、必死に選手のデータを取っている。こうやって同じ時間を同じ空間で過ごすことができるさつきは、やっぱりちょっとだけ羨ましかった。
ーーーピッ!とホイッスルの音の後「20分だけ休憩だ」と監督の指示が飛ぶ。マネージャーの子たちが私が用意したレモンの蜂蜜漬けを選手たちに配ってくれているのが見えた。
運動をし慣れている子達はクールダウンの仕方も十二分にわかっているようで、各々が的確に体を休めていた。
「ナマエさん、差し入れありがとうございます」
「赤司くん、大事な時にお邪魔してごめんなさい」
「いえ、時には気分転換も必要ですから」
赤司くんは凛としていて礼儀正しくて本当に良くできた主将だ。
「緑間くん」
「ああ、どうも」
「ちょっと腕揉んでもいい?」
「え?」
「3Pシュートって腕の負担大きいでしょ」
「まあ…」
あまり乗り気でない様子だが、人一倍真面目な緑間くんが部活の後も3Pシュートの練習をすることを見越して揉みほぐす。ここにいる全員に言えることだが、成長期の途中の彼らの体は、才能に追い付けずに悲鳴をあげていることが多い。
「腕が疲れてきたなって時は、ここにこんな風に手を当てて、ここの筋肉をこうほぐすように揉んでみて」
「…わかったのだよ」
学校で習ってはすぐに大輝に実践し、評価してもらっているからある程度の自信はついている。自分でもできるマッサージを教えておけば少しくらい役に立つだろう。会話をしながらマッサージを続けていると、涼ちゃんが駆け寄ってきて私の隣に座った。
「涼ちゃん大輝は?」
「練習来なくていいって言われてるから…どうだろ?」
「でももうすぐ全中でしょ?」
「ま、今の俺らなら練習しなくても勝てるっつーか」
「そうかも知れないけど…」
「今のここの空気良くないっしょ」
「…そうだね」
「赤司っちは勝つのが当然だから、それなりに練習するし、緑間っちも真面目だからちゃんとやるけど…紫原っちも休んでるし」
「あの大きい子」
「練習しなくても勝てちゃうから必要ないって」
「そんなものなのかな…」
去年の全中のあと、ひどく落ち込んでしまった大輝を思い出すと胸を抉られるような気分になった。誰よりもバスケが好きなのに、ただそれだけなのに。
「今日の夜大輝にうちでご飯食べないかって伝えようと思って来たんだけど…いないなら帰るね」
「青峰っちナマエさんとこで飯食ってるッスか?」
「割とね」
「えー羨ましい!俺も行きたいッス!」
「はは、いいよ、おいで」
「マジ?ナマエさん超好き」
「昨日迷惑かけたからそのお礼ね」
「あんなの迷惑のうちに入らないッスよ。ただもっと自分が女の子だって自覚持たなきゃだめッスよ」
涼ちゃんの足を丁寧に揉み解しながら疑問がひとつ。この子は人一倍足に負担がかかっているような気がしてならない。
「涼ちゃん、足すごく疲れてない?」
「うーん、そうなんスかね」
「あんまり無理すると膝痛めるから気をつけて」
「はい」
「テーピングしておくね」
念入りにテーピングをして、再開された練習にダルそうに戻って行く背を見つめる。いつの間にか隣にはさつきが立っていた。
「お姉ちゃんがくるときーちゃん嬉しそう」
「そうかなぁ」
「うん。いつもよりやる気出てるみたい」
「それは嬉しいけど…涼ちゃんの足の疲労すごいよ」
「やっぱり?きーちゃんの技のせいかな」
「技?」
「相手の動きを真似る能力に長けてるの」
「それは即ち、自分の体に合ってない動きをすることもあるってわけね」
「多分ね」
「気をつけて見てあげてた方がいいよ」
「そうする」
「あと、今日夜ご飯食べてく?」
「え!いいの?」
「涼ちゃんも来るって言ってたから」
「わかった!」
「じゃあ私帰るね」
「うん、ありがとう」
本来の目的の半分を果たした私は、再び監督にお礼を言って体育館をあとにした。
校門までの道すがら、大輝の姿はなく諦めて家に帰ることにした。途中でスーパーに寄って今晩のメニューを考えながら買い物をして我が家を目指し歩いていると、玄関先に随分とガラの悪い大きな男の子がひとり。
「何やってんの、暑いでしょ」
「お前が来いって言ったじゃん」
「今帝中まで行ってきたとこ。大輝いなかったから差し入れだけしてきた。練習行かなくていいの?」
「練習しなくても勝てるだろ」
「涼ちゃんもそう言ってた」
「つまんねぇんだよ、全部」
バスケがつまらないなんて本音でないことがわかっているから、大輝の口からそれを聞くのはツラかった。
「買い込みすぎじゃね?」
「さつきと涼ちゃんも来るから」
「は?」
「だから、四人分」
「何であいつ誘うわけ」
「昨日迷惑かけたから」
「マジありえねぇ」
「はいはい」
ふて腐れてしまった大輝にスーパーで買ったソーダアイスをひとつ渡して私は台所へと向かった。大輝と涼ちゃんはたくさん食べるだろうから…と考えながら人のために作る料理は何故だか楽しい。鼻歌を歌いながら包丁を動かす私を、大輝は微笑みながら見守っていた。
手近なところにあった痛み止めを飲んで暫く経ってからシャワーを浴び、幾分すっきりしたところで財布片手にスーパーへと向かった。
「レモンレモン…」
帝光中のバスケ部の監督とは、さつきのお陰で面識ができているし、部員にマッサージをすると喜ばれるので何度か練習を見学させてもらったことがある。一応さつきには後で顔を出すと連絡したが、突然行っても別に嫌がられることもないだろう。
材料を買ってレモンの蜂蜜漬けを作り、買ったばかりの粉末のスポーツドリンクの素などをバッグに詰めて家を出た。練習中の体育館に着くとさつきがすぐに私を見つけて中に入れてくれ、そのまま監督に挨拶をして差し入れを手渡した。
「いつもすまないね、ナマエさん」
「こちらこそ急にすみません」
「少し見て行くんだろう?」
「お邪魔でなければですけど…」
「いいよ、ここにいなさい」
ルールはいまいちわからないが、みんなが真剣なのはよくわかる。全中三連覇がかかっているのだから…それもそのはず。鬼気迫るものを感じるほどの熱量だ。しかしどこか殺伐としている。
さつきも他のマネージャーも真剣そのもので、必死に選手のデータを取っている。こうやって同じ時間を同じ空間で過ごすことができるさつきは、やっぱりちょっとだけ羨ましかった。
ーーーピッ!とホイッスルの音の後「20分だけ休憩だ」と監督の指示が飛ぶ。マネージャーの子たちが私が用意したレモンの蜂蜜漬けを選手たちに配ってくれているのが見えた。
運動をし慣れている子達はクールダウンの仕方も十二分にわかっているようで、各々が的確に体を休めていた。
「ナマエさん、差し入れありがとうございます」
「赤司くん、大事な時にお邪魔してごめんなさい」
「いえ、時には気分転換も必要ですから」
赤司くんは凛としていて礼儀正しくて本当に良くできた主将だ。
「緑間くん」
「ああ、どうも」
「ちょっと腕揉んでもいい?」
「え?」
「3Pシュートって腕の負担大きいでしょ」
「まあ…」
あまり乗り気でない様子だが、人一倍真面目な緑間くんが部活の後も3Pシュートの練習をすることを見越して揉みほぐす。ここにいる全員に言えることだが、成長期の途中の彼らの体は、才能に追い付けずに悲鳴をあげていることが多い。
「腕が疲れてきたなって時は、ここにこんな風に手を当てて、ここの筋肉をこうほぐすように揉んでみて」
「…わかったのだよ」
学校で習ってはすぐに大輝に実践し、評価してもらっているからある程度の自信はついている。自分でもできるマッサージを教えておけば少しくらい役に立つだろう。会話をしながらマッサージを続けていると、涼ちゃんが駆け寄ってきて私の隣に座った。
「涼ちゃん大輝は?」
「練習来なくていいって言われてるから…どうだろ?」
「でももうすぐ全中でしょ?」
「ま、今の俺らなら練習しなくても勝てるっつーか」
「そうかも知れないけど…」
「今のここの空気良くないっしょ」
「…そうだね」
「赤司っちは勝つのが当然だから、それなりに練習するし、緑間っちも真面目だからちゃんとやるけど…紫原っちも休んでるし」
「あの大きい子」
「練習しなくても勝てちゃうから必要ないって」
「そんなものなのかな…」
去年の全中のあと、ひどく落ち込んでしまった大輝を思い出すと胸を抉られるような気分になった。誰よりもバスケが好きなのに、ただそれだけなのに。
「今日の夜大輝にうちでご飯食べないかって伝えようと思って来たんだけど…いないなら帰るね」
「青峰っちナマエさんとこで飯食ってるッスか?」
「割とね」
「えー羨ましい!俺も行きたいッス!」
「はは、いいよ、おいで」
「マジ?ナマエさん超好き」
「昨日迷惑かけたからそのお礼ね」
「あんなの迷惑のうちに入らないッスよ。ただもっと自分が女の子だって自覚持たなきゃだめッスよ」
涼ちゃんの足を丁寧に揉み解しながら疑問がひとつ。この子は人一倍足に負担がかかっているような気がしてならない。
「涼ちゃん、足すごく疲れてない?」
「うーん、そうなんスかね」
「あんまり無理すると膝痛めるから気をつけて」
「はい」
「テーピングしておくね」
念入りにテーピングをして、再開された練習にダルそうに戻って行く背を見つめる。いつの間にか隣にはさつきが立っていた。
「お姉ちゃんがくるときーちゃん嬉しそう」
「そうかなぁ」
「うん。いつもよりやる気出てるみたい」
「それは嬉しいけど…涼ちゃんの足の疲労すごいよ」
「やっぱり?きーちゃんの技のせいかな」
「技?」
「相手の動きを真似る能力に長けてるの」
「それは即ち、自分の体に合ってない動きをすることもあるってわけね」
「多分ね」
「気をつけて見てあげてた方がいいよ」
「そうする」
「あと、今日夜ご飯食べてく?」
「え!いいの?」
「涼ちゃんも来るって言ってたから」
「わかった!」
「じゃあ私帰るね」
「うん、ありがとう」
本来の目的の半分を果たした私は、再び監督にお礼を言って体育館をあとにした。
校門までの道すがら、大輝の姿はなく諦めて家に帰ることにした。途中でスーパーに寄って今晩のメニューを考えながら買い物をして我が家を目指し歩いていると、玄関先に随分とガラの悪い大きな男の子がひとり。
「何やってんの、暑いでしょ」
「お前が来いって言ったじゃん」
「今帝中まで行ってきたとこ。大輝いなかったから差し入れだけしてきた。練習行かなくていいの?」
「練習しなくても勝てるだろ」
「涼ちゃんもそう言ってた」
「つまんねぇんだよ、全部」
バスケがつまらないなんて本音でないことがわかっているから、大輝の口からそれを聞くのはツラかった。
「買い込みすぎじゃね?」
「さつきと涼ちゃんも来るから」
「は?」
「だから、四人分」
「何であいつ誘うわけ」
「昨日迷惑かけたから」
「マジありえねぇ」
「はいはい」
ふて腐れてしまった大輝にスーパーで買ったソーダアイスをひとつ渡して私は台所へと向かった。大輝と涼ちゃんはたくさん食べるだろうから…と考えながら人のために作る料理は何故だか楽しい。鼻歌を歌いながら包丁を動かす私を、大輝は微笑みながら見守っていた。
