cold ― 1 ― 雪に足を取られながら、しばらく走り続けて 息が切れる頃には、村から少し離れた森へと続く、小路の途中まで来ていた。 さすがに苦しくなって一度立ち止まり、両膝に掌をついて乱れた息を整える。 足元の粉雪をさらさらと転がす、冷たいそよ風が、頬のほてりを心地よく冷まして、額から流れる汗が引いていく。 「はあっ」 一つ、大きく、ため息を含めた深呼吸をして、ふと空を見あげる。 頭上には背の高い木々がまばらにそびえ立っていて、彼らが思い思いに広げた細い枝の間からは、暗く濃い灰色の空が覗いている。 そしてこのどこまでも広がる、雲一つない澄んだ夜空にくっきりと、黄色く輝く大きな真珠が淋しげに独り、ころんと浮かんでいる。 きれいな、お月様。 とてもきれいで、柔らかく眩い光で満ちているのに、その顔はどこか…泣いているように、こちらを静かに見下ろしている。 それを見てイェナは、はっとある場所を思い出した。 誰にも何にも邪魔されずに月を見上げられるところ。 そう遠くない、あの場所へ行こうか。 どうせ今の自分に戻る場所なんてないのだし。 "彼女"も、とても淋しそうにしているから。 きっと話し相手が欲しいに違いない。 一週間も雲の上で、ずうっと一人ぼっちだったんだもの。 うん、 と、誰にともなく強く頷くと、イェナは確かな足取りで森の奥へと進みはじめた。 |