文 | ナノ


20年と少し昔の話


それは今から20年と少し、昔の話。

とある国に仲の良い王さまとお妃さまがおりました。

季節は春。
ある雨の夜のこと。

お妃さまが男の子を生みました。
それはそれは元気で可愛らしい男の子でした。

ところが王さまもお妃さまも喜ぶどころか、たいそう不思議そうな顔をしています。そして次第にそのお顔は曇っていきます。

どうしたのでしょう。

なぜならその男の子には しるし が無かったのです。

代々、国の王さまとなる男の子は生まれてきた時に小さな しるし を持って生まれてくるものと決まっています。

その男の子はそれを持っていなかったのです。

こんな事は
はじめてでした。

王さまには何がどうなっているのかさっぱり分かりません。
お妃さまは何か悪いことが起きるのではと不安でたまりません。

そこで王さまは急いで2人の魔女と1人の魔法使いをお城に呼びました。

 これはどういう事なのだろう?

王さまは訊ねました。

ところが今までどんな難題でも解決してきたはずの魔女たちにもさっぱり分からない、お手上げだと言うのです。

するとしばらく考えていた1人の魔法使いは思い出したように言いました。

『お妃さまは少し前にお風邪を召されていました。もしかするとその影響を受けて しるし がまだ現れないのかもしれません。
ああ、そうだ、思い出しました。前に医学を学んでいたときにそんな話を聞いたことがあるのです。

それに、こうして元気に生まれて来られたのですし。

何より、こんなにも柔らかな天使のようなお顔ですやすやと眠っていらっしゃる 
この方が我々に全てを伝えてくださっているではありませんか。

ご覧なさい この凛々しく穏やかな面立ちは我らが王によく似ていらっしゃる。

ご覧なさい この暖かな唇はお妃さまの幸福を囁くお優しい口元に瓜二つだ。

この方は間違いなく、この国の王となるべき方でしょう。きっと成長と共に しるし も現れることでしょう』と。








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