人間の三大欲求は食欲、睡眠欲、そして性欲である。

確かに、何かを食べないと人間は生きていけないし、眠らないことには脳を休めることが出来ない。しかし。性欲は?別段これをしなければ死ぬというわけでもなく、また男女差がとても大きな欲求だ。女性はさほどあるわけではないが、男性は旺盛だ。ホルモンによる変化である。ならば何故このホルモンに左右される欲求が、我ら人類の間で三大とも称されるほどの欲と示されているのか。


「ん、す、ぐろく…っ!ふ、ぁん…」


「お前、いっつも苗字呼ぶよな」


「いっ、ぁあっ…!んぁ、まっ、待って、そこ…!」


「名前、呼べや」


それはひとえに、目の前のこの男のような人がいるからだろう。いわゆる衝動。理性の崩壊。走りだしたら止まれないなんていうまあなんともご都合主義な理由で私の身体をいとも簡単に暴いていく、彼。大体、お前が悪いんやぞ、なんて至極身勝手な言いがかりだ。いや、言いがかりというもの自体、身勝手なものなのだが。人がベッドの上で膝をたてて本読んでることのどこが悪いのか。嫌ならそのまわりに散乱してる教科書どうにかしてくれ。


「勝呂く、すとっ、ぷ、ぅあっ、や、やめよ、ね?」


「は?いまさら何言うとんねん。止まれるわけないやろ。」


いや、いまさらじゃないし。始まる前にも言ったし。あーあ、野獣になった彼にはもう制止の声は届かない。今彼の耳に入るのは嬌声と嫌だやめての声だけだろう。彼は、嫌がられると逆に燃える質だと、彼の友人は言っていた。これは、腰崩壊カウントダウンだな。


「ふ、指、太いよ…っ、ばか」


「っおま、そういうこと言うなや!」


せめてもの悪態は、彼をあおる結果に終わった。ターボをかける言葉は事前に教えておいてほしい。


「ッあっ?!ちょ、ソレ、いや、ぁっ!」


「いややないやろ?お前好きやん。奥ゴシゴシされんの。」


火がついた彼は饒舌になり、いやらしい笑みで私を見つめる。彼の太くも器用な指が私を翻弄していく。ああ、もうだめだ。頭が真っ白。


「はっ、あ、勝呂くん、も、ダメ、私…っ!」


「はあ、もうかいな。耐え性のないやっちゃ。」


止まれないあんたには言われたくなかったよこのチキン。悪どい笑みの見本みたいな表情しちゃって。そんなことを考えていると、急に勝呂くんの指がもどかしく動くようになった。


「ひ、ん…っ、なんで、勝呂く、よわ、い…ッ」


「お前、まだ、一回も俺の名前呼んでへんやろ?せやから、お仕置き」


私の奥で小さくうごめく彼の二本の指が、上側に擦られるたびに身体が敏感に反応する。


「なんや、グシュグシュ言い出したで?お前、焦らされてこない感じとるん?変態やな」


お前よかマシだよ真性変態。心のなかでならいくらでも出てくる悪口は、言葉をなさない喘ぎとなって私の口から霧散していく。


「ひ、あぅあっ?!す、すぐ、舐め…?!あ、んっ、や、んああっ、!」


「お前好きやろ?変態やもんな。ヒクヒクしだしたで、ここ」


あなたも好きですよね、お口ご奉仕。無駄に。
指はそのままに上から下、下から上へへと這う彼のそれは、ときどき侵入を試みるように入り口に硬く押し当てられる。


「も、いや、ねちっこい…!」


「気持ちええんやろ?こっちは素直なんに。」


「ひんっ!息、吹くなばか、ぁ!」


吹きかけられたそこがひくついているのがわかる。あれ、ホルモンの関係で、女はあんまり性欲高くないんじゃなかったっけ。目の前の彼は指を引き抜くとゆっくりとそれを舐め、私の上へと身体を動かした。あ、どきどきする。
このまま美味しくいただかれるであろうことを察した私は、冒頭の疑問を、この頭のいい彼にぶつけてみようと思う。どうせ本能やとか生命活動の一種やとか言うんだろう。うわ、萎えるなそれ。


「ね、勝呂くん」


「ん…?なんや」


「なんで、性欲が、三大欲求のなかにあるんだと思う?」


「はぁ?……そんなん、決まっとるやろ」


「え、なに」


目の前には強面な彼の顔。こわいはずのその顔は、今は何故かとっても色っぽくて、とってもかっこよかった。黒色の双眼と視線がかち合う。予想外に柔らかなその唇が、震えた。



「遺伝子単位でお前を欲してるから」



「…」


「な、なんやねん」


「今すぐ抱いて」


「お安い御用や」


ばかみたいなやり取り。でも、竜士くんの愛を感じるのには充分すぎるやり取りだ。想定外の答えに胸がきゅうと締め付けられた。良い方向に裏切られた私の予想は、どうやら私の判断力を大いに鈍らせたらしい。それでも、竜士くんは私の見た目とか、身体とかそんなものじゃなく、私という1つの単位で欲してくれている。そのことがわかった今、明日の腰痛くらい我慢しようと思えたので、結果オーライということにしておく。


「っ、う、わ…竜士く、おっき…」


「っあほ、煽んなや…!」


彼の形に変わる内部に感じながら、私はゆっくりと口角をあげた。


行き着く先はベッドの中


卵子と精子は、受精すると胎盤に着床するんだって。まるで今の私たちだね。










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