トラジェディー | ナノ


※性描写がありますので18歳未満の方は閲覧しないでください。


絶対的な悲劇の始まりは、こんな言葉だった。
「初めまして、シズちゃん」



じりじり、じりじりと蝉が鳴く暑い昼下がりに、平和島静雄がふらりと臨也のもとにやってきた。
臨也のオフィスはアクセスの便のいい都心だが、それでもその都会の数少ない緑に縋って油蝉は必死に生を謳歌しているらしい。その声が、臨也のオフィスにも聞こえ続けていた。静雄は臨也のもとに近づいてくると、その蝉の声に負けるような小声で、「臨也」と小さく名を呼んだ。
「なあに? シズちゃん。アイスココアでもいれようか」
「いい。…それより」
そっとこの粗野な男には似合わない仕草で腕を臨也に伸ばしてくる。臨也はその手を取って引き寄せ、静雄の身体を抱き寄せた。すり、と静雄が控えめに身を寄せてくる。その体が、小刻みに震えていた。
「どうかしたの?」
「…俺、またトムさんに怪我させちまって…」
「…そう」
それで、精神的に不安定になって臨也のもとを訪れたということだろう。最近では珍しいことではない。近頃はむしろ少しずつその頻度が増しているようにも思える。うまく力のコントロールができず、望まないのに周囲の人間を負傷させてしまうことが増えたのだ。
自身の力と、周囲の人間に怪我をさせてしまうという事態に怯えて、静雄は臨也のもとに来る。そう仕込んだのは臨也だった。
大丈夫だよ、と甘やかしてその髪を優しく撫でる。心を落ち着かせるように幾度か深呼吸を繰り返す静雄に、優しく微笑んで見せた。
「ほら、シズちゃん。こっち向いて」
「ん」
答えて顔をあげる静雄に、ゆっくりと顔を寄せる。キスの角度に、静雄が瞼を伏せた。


こんな日は、約束事のように静雄を抱く。怖いものなんて何一つないというように優しく、他のものを忘れさせるように激しく。
とろとろとしたローションを指に絡め、静雄の肢体に塗りつける。ベッドに腰掛ける臨也に足を広げて跨るような体勢の静雄は、そのたびにびくびくと体を震わせた。
「触ってないのに、硬いね」
むき出しにした下肢に触れ、すっかり芯の通った性器に指を馳せる。静雄はぎゅっと眉を寄せて、押し寄せてくる快感と羞恥に必死に耐えているようだった。その顔は、悪くない。
「少し腰、浮かせて」
「…ふ、あ…」
臨也の言葉に従った静雄の腰に手を伸ばし、指先を後孔に潜り込ませた。侵入を拒絶するような内壁の圧迫に焦れて、一度指先を抜き、ローションを再度絡めてまた指を入れる。静雄は、臨也の肩をぎゅっと掴んだ。
二度、三度と一本の指をピストンさせてローションを塗り込んでから、指の数を増やすと、静雄が高い声を上げた。宥めるようにその頬に唇を寄せてから、潜り込ませた指を内部を広げるように動かした。
「あ、やあ…!」
悲鳴と嬌声の中間のような声が、まだ明るいオフィスに響く。臨也は気にせずに指を進め、静雄が感じる体内の奥を突き上げた。
「ひ、あ、ああッ」
体を大きく震わせて無意識のうちに逃げる腰を捕まえ、首筋に軽く噛みつく。その痛感にさえ快楽を感じるのか、静雄の性器からはすでに先走りが零れている。空いている手でそれを擦ってやれば、限界値近くまで嵩を増した。
「先に一回イっとく?」
尋ねると、静雄は臨也の肩にしがみついたまま、ふるふると首を横に振った。
「いいから…! は、はやく…」
熱を湛えて潤んだ瞳が先の行為を促している。以前なら、静雄は行為の最中でもこんな顔を臨也に晒すことはしなかった。快楽に浮かされた瞳で、それでもきつく睨みつけてくるような男だった。
こっそりと苦笑しながら、臨也は自身の下肢をくつろげる。すでにしっかりと芯を持ち熱を帯びているそれを、浮いた静雄の腰に当てる。静雄はその熱にふるりと体を震わせた。
「欲しいなら、自分で入れて」
「…や、できな…っ」
「できるでしょ。そのまま腰を落として。…そう、ゆっくりね」
臀部を押さえて、指で広げた後孔に嵩の張った性器の先端を含ませる。静雄は恐る恐るというように、腰を落とした。
「ふ…っ、ひあ!」
ゆるゆるとしたしぐさに焦れて、軽く下から突き上げる。静雄は目を見開いて、足を震えさせた。力の抜けた体が臨也に被さる。自身の体重で深く性器を飲み込んだ静雄が、高い声を上げた。
「あ、ああ!!」
静雄の眦から、生理的な涙が零れる。挿入の衝撃で軽く達したらしく、静雄と臨也の腹部には静雄が零した白い液体が飛び散っていた。
「もうイっちゃったの?」
飛び散った精液を指に絡めて尋ねると、静雄が顔を赤くする。まだ軽く芯を残している性器を扱きながら、臨也は小さく自身の腰を揺すった。
「ア、まだ、待て…ふ、あ」
「待たないよ。ホラ、シズちゃんも動いて」
臨也が体を揺らすたびに、きゅうきゅうと内壁が締まる。臨也自身もそれほどもちそうにない。静雄の手を臨也の肩に導き、自分で動くように促すと、静雄は恐る恐る腰を揺らし始めた。少し腰を上げて、また下ろす。それを何度か繰り返していたが、あまり激しく動くことはできないらしい。
臨也も下から突き上げたが、静雄が体重をかけて臨也の身体に凭れている都合上、動きが制限されている。結局焦れて、静雄の身体をベッドに引き倒し、覆いかぶさる形で再度貫いた。
「ひっ…うぁ、あッ!」
先ほどまでのじれったい緩やかな抽挿から一転して勢いをつけて奥を突き上げれば、ぐちゅ、と神経にダイレクトに触るような粘着質な音が響く。荒い呼吸と途切れ途切れの嬌声がその後を追った。逃げを打つように揺れる腰を掴んで、強く打ち付ける。
静雄は高い声を上げて背中をきれいに反らせ、限界を迎える。臨也も静雄の首の付け根に噛みつきながら、体の奥の一番深いところで精を吐き出した。


短い生を謳歌していた油蝉はいつしか鳴くのをやめており、代わりに聞こえてくるのは、いくらか哀切な響きを持ったひぐらしの鳴き声だ。静雄はあの後眠ってしまい、まだ目覚める気配はない。
静雄の意識がないうちに臨也は田中トムの負傷について調べた。目撃者による電子掲示板への書き込みによると、どうやら怒りで我を忘れた静雄を抑えるつもりで失敗し、結局静雄が振り回した標識の餌食になってしまったらしい。怪我そのものは大したことはないようだが、それでも静雄にしてみれば、自分に悪意を持たずに更に自分の暴走を止めようとしてくれた人間を傷つけてしまったということは相当なショックなのだろう。何を信頼し何を守ればいいのか分からない今の静雄には、余計に。

平和島静雄は今、多くの人間の記憶を失っている。


(トラジェディー 1)
(2011/08/16)







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