暑い上にセックス直後の倦怠感で、散らばった服を拾うのも面倒なほど疲れている。このまま眠ってしまいたいのに、部屋の外から害虫の羽音が聞こえ続けていてそれもままならない。仕方なく、苛立ち紛れに新たな煙草を取り出して火をつけた。 早いペースで吸っていると、ガチャリとドアを開けて無遠慮に入ってくる人影がある。シャワー音という煩わしい羽音を撒き散らしていた害虫だ。濡れた髪のまま、いつもよりも若干服を着崩している。 「うわ、この部屋すごい煙ってて白いんだけど。どんだけ吸ってるの? せめて窓あけて吸いなよ」 「うるせえな。早く帰れよ。つーか死ね」 フィルターまで灰になったそれを、既に煙草の残骸が山になっている灰皿に擦り付けて、新しい煙草をパッケージから取り出す。すると、その手を臨也に止められた。 「んだよ」 「ニコチン、タール、一酸化炭素。そういうのが有害物質なのは、お馬鹿なシズちゃんでも知ってるよね」 「喧嘩売ってんのか。買うぞ」 まさか臨也の言動が、静雄の体を慮ってのものであるはずもない。 「さすがのシズちゃんも内臓はそれなりに人間に近いだろうから、今のペースで吸い続ければいずれは機能が低下するかも、って思うわけだよ。つまりシズちゃんのそのヘビースモーカーぶりって、もしかして緩慢な自殺なのかなあ」 あまりの馬鹿馬鹿しい戯言に、静雄は怒る気力も失せた。 「何言ってんだクソノミ蟲」 「喧嘩した後とか俺とセックスした後とか、やけに増えるよね」 「苛々してるだけだ」 「そうかな?」 「それに、副流煙も十分有害だってのは当然、お利口な臨也くんなら知ってるよなあ?」 腕を掴んだままだった臨也の手を振り払いながら言ってやると、臨也は実に愉快そうに笑い出した。 「じゃあこれは緩慢な心中になるね」 何が楽しいのか静雄にはさっぱり分からないが、笑いながらそんなことを言う。 「最悪の冗談だな」 「そうだね。俺たちは心中じゃなくて、あくまで殺しあわないと」 くつくつと楽しげに笑い続けながら、臨也は無駄に整った顔をベッドに座る静雄に近づけてきた。キスでもする気か、と顔を背けると、代わりに耳もとで、神経に障るほど甘い声が囁いた。 「それに俺、そういうまどろっこしいのあんまり好きじゃないな。どうせなら、もっと分かりやすい擬似的な殺人を愉しもう」 不快な作り笑いを浮かべた臨也が、静雄の肩を押してベッドに沈めた。聞き覚えのあるジッパーを下げる音がして、すぐに熱くて硬いものが、剥き出しだった下肢に押し付けられる。 悪寒が走って、慌てて臨也の細い肩を押すが、その腕を逆に取られてシーツに縫いとめられた。 「ッあああ!」 直後、前戯も一切なく突然入り込んできた熱い性器の感触に、喉から悲鳴が迸る。だが臨也は気にした風もなく、一気に奥まで貫いてきた。衝撃に、体が反り返る。 「まだ広がってるね。それに濡れてる」 さっきまでローションでぐちゃぐちゃにされた挙句、散々貫かれていたのだからそれも当然だ。 「てめ、ぇ…ッ!」 「ねえ、体の中を無理やり抉るこのセックスって、殺人に似てると思わない?」 激しい動きから一転して緩慢に腰を揺らしながら、そんなたわごとをほざく男を睨みつける。だが当然効果はなく、むしろ無理やりねじ込まれた性器の嵩が増したのを感じる。 「ァア!」 悲鳴と喘ぎの中間あたりの声が上がる。奥を突かれれば、その分快感を得てしまう自分の体を呪うが、今更だ。 臨也は嘲るように、無理やりの挿入に反応を返し始めている静雄の性器を気まぐれに弄ってくる。理性に反した快感を帯びた声を止めることができない。 「ふ、あ、っく、んあ…ッ」 挿入の瞬間よりも滑りがよくなっているのは、この男の先走りのせいだろうか。せめてゴムを付けろと言ってやりたいところだが、もうあまり意味のある言葉を口にすることはできそうにない。 「ねえ、殺されてる、気分はどう?」 「…っは、さいあく、だ…! ひ、アッ」 息を荒げながら、戯言を未だに続けている男を睨みつけると、気に食わないとばかりに、感じるところをがつがつと突き上げられ、思う様揺さぶられた。 せめてもの腹いせに、静雄は腕を臨也の首に回す。 力を込める気はない。しかし、擬似的な殺人を愉しむこの男も、その代償に、普段化け物と蔑む怪力を持つ腕にゆるゆると締め上げられて、緩く絞め殺されるような感覚を味わえばいいのだ。 (締め殺しの無花果) (2010/07/21) |