くらいところでまちあわせ | ナノ


※イザシズでパラレルです。
※もっと増えろイザシズったーで出たお題、「囚人な臨也と軍人な静雄がラブホっぽい場所で静雄が臨也の携帯破壊をしているところ」に従って書いてます。
※静雄さんの性格が悪い上にビッチ気味で襲い受けです、ご注意ください。


それなりに大切な顧客との、相当に重要な商談の最中に、携帯電話が鳴り始めた。情報を迅速に得て必要に応じて迅速に流すことを商売にしている都合上、商談の最中でも携帯電話は切らないことが多い。
商談の相手もそれを心得ているため、「どうぞ出てください」と譲歩してくれた。それに甘えて携帯電話のディスプレイを見ると、見知った名前が浮き出ている。
――よりによって、こんな大切な商談時に、アイツからか。
臨也は電源を切っておかなかったことを後悔するが、今更だ。
「少々、失礼します」
断ってから席を離れ、通話ボタンを押してから携帯電話を耳に当てると、聞き覚えのある不機嫌そうな声が流れ込んできた。
『出るのおせーぞ、ノミ蟲』
「…シズちゃん、あのさあ。俺にも色々と都合とかあったりするんだけど」
『知ったことかよ』
あまりに勝手な言動に、溜め息も出てこない。仕方ないので先を続けた。
「それで、用件は?」
『20分後にいつものホテルな』
「いや、さすがにちょっと無理、せめて2時間後に」
して欲しいんだけど、という言葉を言う前に、無情にも一方的に通話を切られた。聞こえてくるのは、ツー、ツー、という機械音ばかりだ。苛立ち紛れに携帯電話を壁に投げつけたくなるが、顧客が隣室にいることを思い出してなんとか抑えた。
一度頭を抱えてから、臨也は顧客の待つ隣室に戻る。『火急の用が入って商談を続けられない』情報屋の、最大限に申し訳なさそうな表情を張り付かせて。



繁華街から一本横道にそれたところにあるホテルの横で、その男は不機嫌そうに煙草をふかしていた。金髪に軍服姿のままで目立っているが、周囲の目線など気にした風もない。
「14分の遅刻だ。死ねよ」
「自分はこの前、4時間も待たせたくせによく言うよ。っていうか俺の仕事場からここまで、どんなに急いでも25分はかかるんだけど。シズちゃんは俺に空でも飛んで来いっていうのかなあ?」
「そう呼ぶなっつってんだろーが」
特に変わり映えのない会話を交わしながら、ホテルに入り適当な部屋をパネルで選んで、誘導灯に従いながら部屋に入る。その途端に、金髪の男は、自分で軍服の堅苦しい上着の襟を崩し、タイを外しながら臨也の唇にキスをしてきた。
入り込んでくる熱い舌を、逆に絡め取って吸い上げる。その勢いのまま、その男の体をドアに押し付けて、思う様唇をむさぼった。
「…っは、がっついてるね」
「2週間も遠征でおあずけだったんだ、しかたねぇだろ。っつーか手前も人のこと言えるかよ」
キスの合間にも関わらず、至近距離で睨み合いながら甘さの欠片もない言葉を交わす。これもいつものことだ。
臨也はその男の軍服を手早く乱し、白い体を暴いていく。首筋に噛み付きながら、明確な意図をこめて乱したシャツの下に手を這わせ、乳頭をつまみあげた。
「…ッ」
「はは、もう勃ってるじゃん。ほんとどーしようもない淫乱だよね」
しっかりした生地のスラックスを下着と一緒に引きずり下げて、下肢にも直接触る。甘さを帯びた声が上がった。
性急に過ぎる愛撫だが、それを望んだのはこの男だ。そう臨也は言い訳をする。
呼び出されればすぐに応じて、望まれるがままに彼を抱く。そういう契約を、数ヶ月前に交わしたのだ。



数ヶ月前のその日、折原臨也は最高にツキがなかった。
臨也はその日まで、殺人教唆で独房に入れられていた。捕まったことは多少の誤算だったのだが、臨也にとって前科など問題はないし、その上脱走もお手の物だ。独房生活2日目に飽きが来て、予定より早く脱走した。
2日あれば、臨也なら刑務所のある程度の構造は頭に入っている。そう問題なく刑務所から抜け出し、一度緊急の荷物を取りに複数ある仕事場の一つに立ち寄り、必要な通信機器だけ持って街中に出た矢先に、追跡の刑務官に見つかった。
臨也は裏路地に逃げ込むことになったが、今度はその路地が行き止まりで、酔っ払いらしき人影が座り込んでいる。舌打ちしながら引き返そうとした瞬間に刑務官たちの自分を捜す声が近くに聞こえた。
ちょっとこれは本格的にやばいかもしれない。と冷や汗をかき始めたときに、座り込んでいた酔っ払いが動いて、臨也の手を引き、路地裏の更に奥にあるゴミ箱の影に突き飛ばした。
「大人しくしとけよ」
と臨也に言った長身の影は、よく見れば軍服を纏っていた。陸軍の制服だ。だがそれをよく見る間もなく、ばたばたと刑務官たちがやってきた。
「この辺りで、黒い服をきた男を見ませんでしたか!?」
「見てねえけど。どうかしたんすか?」
「囚人が一人脱獄しまして。赤い目をした男なんですけど」
「こっちには来てないと思いますよ」
「そうですか、分かりました。ご協力感謝します」
あっさりと引き下がったのは、この男が軍服だからだろうか。刑務官たちが遠ざかる足音を、ゴミ箱の影で聞きながら、そんなことを思う。
「おい、もういいぜ」
声が掛けられたので、影から出た臨也は、まだ警戒を解いていなかった。それはこの男に対する警戒だ。
見ず知らずの人間に無償で助けられるいわれもなければ、臨也はそんな救いが与えられるような清く正しい生き方とは無縁だ。だがその男をしっかり見ると、それは見覚えのある顔だった。
面識はない。だが、臨也は一方的に知っていた。
長身に金の髪。平和島静雄だ。
臨也は軍の上層部にも顧客を持つ情報屋なので、当然軍部の事情にも詳しいが、大して階級が上でもない――確か静雄は少尉だったと記憶している――その男のことをなぜ記憶していたかといえば、その圧倒的な強さの故に他ならない。人間離れした膂力を持ち、陸軍最強と謳われる男だ。
よりによってこんな化け物に助けられるなんて。肉弾戦は不利だ。ならば、得意の舌戦でなんとか丸め込むしかない。買収などどうだろう。臨也名義の財産はすべて凍結されたが、虚偽名義の財産がいくらでもある。臨也は短時間で頭を巡らせた。
問題は、果たしてこの最強の男が、金に目が眩む俗物か否かだ。
「…お礼は、どのくらいで済むのかな?」
いっそストレートに切り出してみると、臨也を頭からつま先まで観察した静雄は、にやりとした笑みを口元に浮かべた。
「金はいらねえ。…代わりに、ちょっと下半身貸せよ、脱獄囚」
どうやら予想以上に俗物だったらしい。臨也は己のツキのなさを嘆いた。


男に抱かれる趣味はない。なので、やはり適当に逃げようと思っていたのだが、連れ込まれたホテルの一室での行為は、臨也の予想とは若干異なるものだった。
静雄はさっさと自分の堅苦しげな軍服を崩しながら臨也の体に乗り上げて下肢を寛げ、あろうことか臨也の性器を躊躇いもせずに口に咥えて扱き出した。
「ね、ねえ、ちょっと待って、俺はどうすればいいわけ?」
「あん? 黙って俺を抱けばいい」
回答は単純明快だった。にやりと笑ったその顔が扇情的だ。
男を抱く趣味もないが、抱かれるよりは幾分マシだろう。それによく見るとこの男は、金髪の下にかなり整った顔を持っていた。中途半端に肌蹴た軍服の下の肌も白くてなかなかそそられる。
取りあえず一度抱いて、あとは逃げればいい。そう結論付けて臨也は、自分の性器を口に含む男の少し傷んだ金髪に指を差し込んだ。

男を抱いたのは当然そのときが初めてだが、静雄の体内は酷く心地がよかった。眩暈がしそうなほど。
臨也が性器を突き入れると、引き締まった細い腰が揺れた。
「あ、ひぁ、アぁ」
四つんばいの格好を強いて、それに被さるようにして静雄の体を貫く。ローションをたっぷり垂らしたため、ぐちゅ、と濡れた音がした。
奥にあるしこりのようなところを重点的に攻め立てると、静雄は頭を振りながら甘く声を上げた。
「っ、や、そこや…、ひ…っ」
「や、じゃないでしょ、こんなに、感じて」
突き上げながら反応しきった静雄の性器を掴むと、ぐっと白い体を仰け反らせた。その首筋に歯を立てると、また悲鳴にしては甘い声が上がった。眩暈が、する。
自分より背の高い男を相手に萎えないだろうか、という疑問は杞憂となった。歩兵戦車を担ぎ上げたといわれる体は細くしなやかで、トレンチナイフさえ通さないといわれる肌は滑らかだった。そしてこの男は、自分の均整の取れた肢体を魅せるのが上手い。
浅い位置を緩く刺激してから、一番奥まで一気に突き上げると、静雄は甘い声を上げて、臨也を性器を締め付けてきた。臨也はシーツの上でぐっと握り締められた静雄の手に、自分の手を重ねる。何度も腰を打ち付けて、揺れる白い体に縋る。そうしないと、沈んでしまいそうだった。それほどまでの快感だった。
「あぁ、っく、ア…ッ」
静雄の声を聞きながら、臨也も快感に息を弾ませ、静雄と繋げた手にさらに力を入れる。そうしていないと沈みそうだ。そう思って、違うな、と自嘲する。沈みそうなのではなく、溺れそうなのだ。この男に。

脱走して捕まりそうになりながらもぎりぎりで助かったと思ったら、今度は金髪の色魔に精を絞られた。一般人よりははるかに鍛えている臨也だが、さすがに気力も限界で、何度目かの射精のあとに、倒れこんだまま眠ってしまった。会って数時間と経たない人間の前で眠るなんて、失態もいいところだ。
すぐに目を覚ましたが、その視界に飛び込んできたのは、シャワーを浴びたあとらしい静雄が、仕事場から持ってきた臨也の携帯電話を弄っているというシーンだった。
「ちょっと、何してるわけ」
「俺の番号を登録してるだけだ。他は何も見ちゃいねえよ」
その作業も終わったらしく、静雄は臨也の携帯電話を投げて寄越す。一応、重要なデータにはロックをかけているので、確かに見られてはいないだろう。
「俺の携帯にも手前の番号入れといた。呼び出したらすぐ来いよ」
そんなことを言って男は不敵に笑っている。少し前までの欲情のあとはまったく残っていない。
「そんなに気に入った? 俺とのセックス」
一方的にやり込められるのが気に入らなくて、臨也は嘲るような表情で聞いてやる。だが男は、意に介さずにフンと鼻で笑い、煙草を咥えて火をつけた。


そのままずるずるとこんな関係が続いている。だが、この関係はけして強制的なものではない。静雄の呼び出しを拒絶しても、静雄が臨也に関する情報を流すとも思えない。国家権力に身をおくものでありながら、脱獄した臨也を助けた時点で、静雄は情報を提供する正当性を失っている。そもそも臨也は、もう足がつくようなへまはしない。ちょっとした情報提供の見返りに、既に臨也の指名手配も取り消されている。
ならばなぜ、未だに静雄の呼び出しに応じて彼を抱くのか。その答えを、臨也はあえて考えないことにしている。


2週間の遠征に行っていたという静雄は、確かにその分飢えているようだった。
静雄は顔もいいし、現地でも相手には困らなそうだが、静雄はけして軍の人間に相手をさせることはないそうだ。なんでも、尊敬する上司に性癖を知られたくないらしい。
臨也にとっては大して面白い話でもないので、深くは突っ込まずにただ体を重ねる作業に専念する。
軍服を脱がせきり、現れた白いわき腹から下肢にかけて手のひらを這わせる。
なかなかのってきたそのときに、しかし無粋な機械音が響いた。臨也の携帯電話だ。
「おい、切っとけって」
弾んだ息の下で、極めて不機嫌そうに静雄が文句を言う。
「自分だってこの前、鳴らしたくせに」
しかも静雄はそのとき、「トムさんからだ!」と見たこともない嬉しげな表情で電話に出た挙句、「呼び出されたからまた今度な、ノミ蟲」と無情に言い捨てて出て行った。さっさと服を着込み、敬愛する上司の呼び出しにスキップでもしそうな勢いで飛び出した静雄を呆気にとられながら見送った臨也は、反応を示したまま放置された自身を思い出して、かなり本気で世の中が嫌になったものだ。
ともあれ今日の臨也は、大事な商談を頓挫させてここに駆けつけた。これ以上顧客の評判を落とす事態は避けたいので、一度静雄から体を離し、床に放り出された荷物から、携帯電話を探り当てた。
案の定、今日の商談の相手だ。逡巡してから、通話ボタンを押す。
「もしもし」
『ああ、折原さん、すみませんが一つだけお伺いしたいことが』
あるんですが、という商談相手の声が、不思議と遠ざかる。何事かと思えば、ベッドに置いてきた静雄が、臨也の携帯電話を取り上げていた。そして次の瞬間に、キュ、といういっそ儚げな音がした。直後、ぱらぱらと静雄の手から落ちてくる断片に、臨也はその音が、自分の携帯電話の断末魔だったのだと悟った。
「…シズちゃん……」
頭を抱えるが、時すでに遅し。
「俺といるときに、他の人間の声なんかに意識やってんじゃねぇよ。なあ?」
ほぼ全裸の格好で、静雄が不敵に笑いながらそんなことを言う。釣りあがった唇から首筋のラインが白くて綺麗で、臨也は静雄の手から放り投げられた携帯電話の末路さえ見ることは叶わなかった。
視線を外せない臨也の前で、静雄は赤い舌で自身の唇を舐める。ゆっくりとした動きだが、確実に誘う仕草だった。悔しささえ浮かばないほどに欲を煽られ、臨也は無意識にごくりと唾を飲む。
それを悟っている性悪なこの男は、未だ着衣のままの臨也の下半身に足の指を器用に這わせ、硬く張り詰めて熱をもっている性器を白い足先で愛撫する。そして刺激に息を詰めた臨也にまた、不敵でこの上なく扇情的な笑みを見せた。
「おら、来いよ。折原脱獄囚よぉ」
喉の奥が欲情から低く鳴り、渇望して喉が渇く。そんな臨也を見越して、静雄はすいっと腕を伸ばして見せた。
「…Yes, sir.」
甘い欲を垂れ流す白い体に、誘われるがままにむしゃぶりつく。それ以外に臨也には、選択肢なんてありえはしなかった。

携帯電話は壊されてしまったが、連絡手段など他にいくらでもあるし、そもそも臨也は複数の携帯を所持している。その番号を、自らこの男に教えるであろう自分を、臨也は自覚している。
脱獄囚なんて冗談じゃない、臨也は結局未だに囚人のままだ。
臨也は独房から逃げ出した瞬間に、また囚われたのだ。人間離れした力を持つ、性悪で、しかし圧倒的に魅惑的な、この男に。


(くらいところでまちあわせ)
(2010/07/17)






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