『何してんの?』
「見てわかんだろ、昼寝。」
アイマスクをしたままでもわかる。
あいつの足音は独特だし、気配も独特。小さいころからずっと一緒に育ってきたんだ、おれには当たり前のようにわかるんだ。
そのまま隣に座るなつめに、渋々アイマスクを外す。
『ふふっ。総ちゃんはいつもサボってるよねぇ。』
「なつめは最近ずっと土方さんと居やすねィ。」
『……副官補佐だからね、一応。』
その表情を横目で見る。見なくてもわかっていたけど、思わず見てしまう。その表情はいつになく柔らかかったから。
他の男になんて見せたくない。
見せたら必ずイチコロだ。
けどそんな表情が見れるのも、話の内容にアイツが絡んでいるから。
『あ、あたし総ちゃんを呼びに来たの。トシが呼んでるよ。』
すぐさま立ち上がるその影に、おれはゆっくり視線を上げる。急かすように伸ばされる手に、自身の手を伸ばす。
――グイッ
『…わっ!?』
軽く引っ張ると難なく腕の中に倒れこむ、小さな身体。ふわりと香る甘い匂いに、両腕でぎゅうっと抱きしめた。
『総ちゃん、どーしたぁ?』
けらけらと笑うなつめが、少し恨めしい。
ずっと一緒にいるのに。
おまえはおれの気持ちを露ほど知らない。
それはおれがアイツみたいに言葉で伝えてないからだ。
そんなこと、分かってる。
『総ちゃん?』
こんなことしたって、おれの気持ちは伝わりはしない。
ただこの両腕の強さで、少しでも…ほんの少しでも想いが伝わればいいのに。
「なーんてな…。」
パッと腕を離すと、きょとんと目を丸くしておれを見上げるなつめ。至近距離で見つめられ思わず、相手の肩を押す。
「呼ばれてんだろ。」
『あ、うん。』
足音からおれの後ろをついてくるのがわかった。
言えない。
アイツみたいに。
そのたった一言が。
かくとだに
(えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを)
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