06


 







風の音が耳に付く。浮遊する感覚にハルは黙って目を閉じた。


「ハル…。おまえ…」

『うん』



アイスの言葉を笑顔で制するハルは、鼻をひくつかせると真横を指差す。

『あっち…お願い』

「……」


アイスは何も言わず、ハルの望む方向へと旋回した。飛んで行く先に見えたのは向かい合うウェンディとジェラール。

ハルの目指す場所がわかったアイスは静かにその場へと着地する。




「え…ハル、さん?」

「……ハル・ジュール…」


『あたしはもう治癒魔法が使えない』



突然口を開くハルに二人は訝しげに眉を寄せた。ハルはうつむいたまま二人と視線を合わせることなく続ける。


『大した魔力はもう残ってないけど…、魔水晶(ラクリマ)ぐらいなら……壊してみせる。だから…っ、…ナツを助けて……っ』

「……っ…」

歯を食い縛りながら告げるハルは、どんな気持ちでジェラールに頼んでいるのか、アイスは悔しげにうつむいた。



「今の君に魔水晶が壊せるのか?」

『……』


黙りこむハルの頭をぽんっと撫でる。思いもよらないジェラールの行動に目をまるくした。






「……わかっている。頼んだぞ…ハル」

『…っ』


僅かに残るジェラールの感触。優しい手の温かさに、ハルは覚えがある。







緋色の髪を持つ強く優しい彼女の手と同じだった。




『……っ。…アイス』

「おう」


目元を拭うハルを掴むと番号6が振り当てられた、ニルヴァーナの足へと飛び立つ。結局そこにいたウェンディとは一度も視線を合わさずに。



























「着いたぞ…」

『ありがとう…。悪いね、いつも』


ハルが笑いながら謝ると、アイスは呆れたようにため息をつくだけ。何も言わずにハルを降ろした。



『……ウェンディとシャルル?』

「ずっと後ろ着いてきてたみたいだぞ」


「ご、ごめんなさい…っ。怒ってるのかと思ったけど…、私も何かしたくて…」



おどおどと謝るウェンディにハルはふわりと笑う。向き合うことはなかったけど、ハルが笑うだけでウェンディはほっとした。


『ウェンディも滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)なんだっけ?アイスに聞いたよ』

「は、はい!天竜グランディーネに…。私、同じ滅竜魔道士のハルさんやナツさんに会いたくてこの連合に志願したんです!」





ウェンディが必死に訴えると、『そっか』と嬉しそうに笑みを深めた。


『滅竜魔道士なら、こんな魔水晶ぶっ壊すなんてへっちゃらだね!』

「……え?」

『一緒に頑張ろ!!』

「は…、はい!!」





魔水晶と向かい合っているハルに続いてウェンディは緊張しながらも、意を決したように魔水晶を見上げる。


『水竜の…』

「天竜の…」



息をめいいっぱい吸い込む二人。


『「咆哮!!!」』




白い魔法陣と水色の魔法陣が現れ、それぞれから渦巻く水と風が放たれた。









―――ゴゴォオオォ






盛大な音を立てながらニルヴァーナの動きが止まる。

にっと笑ったハルはそのまま倒れこむが、アイスが瞬時に掴み飛び上がった。


「ウェンディ、シャルル!急ごう!」

「うん!」

「ええ!」




周りが崩れ出すと同時に、三人は駆け出した。












何も出来ないことが辛い











 



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