▼ 04
―――ザッ
『……くそ…っ』
ハルは唇を噛みしめつつ、木を背にずるずると座り込む。悔しげに地を殴ると、片手で目元を覆った。
『肝心なときに…っ、あたしは……何にも…っ、…何も出来ない!!』
自分の両手を見つめるハルは悲痛な表情で、今にも泣き出しそうなようす。
『何が"護りたい"…だよ。結局、みんなを…』
<どうしてハルはいつも無理ばっかりするのよ!!あんたはナツやグレイの気持ちが全然わかってない!!>
<これ以上、ハルに魔力は使わせたくねぇんだ…。>
<かっこつけてんじゃねぇよ!!>
『みんなを苦しめてるのはあたしだ…っ』
<ハルはそこまで強かねぇだろうが!!!>
『強くない…。強くなんか…ない、…っ』
両手をぐっと握りしめる。小さな拳が僅かに震えた。
『だって……護りたいんだっ、なのに…もう、魔力がない…っ』
膝を抱え縮こまるハルは悔しそうに歯を噛みしめる。
『……あたしは…弱いんだ。誰も…誰も、護れない…っ』
ぶつぶつと呟くハルの周りに不穏な空気が漂った。
「どこ行ったんだよ!?」
「だからあたしもわかんなくて…!いきなりどっかに行っちゃったのよ!!」
「……ハルが敵を前にして仲間を置いていくはずないだろ」
「けど本当に行っちゃったの!!」
まるでタコのような足を持つニルヴァーナ。その足から中へと侵入したグレイとルーシィとアイス。
ルーシィからハルのことを聞いた二人は、何度言ってもその話を信じない。
「あんたたちそろそろ信じなさいよ!あたしだって信じられないけど…」
「ハルが仲間を置いていくはずない…っ!!」
「……アイス」
何度もそう訴えるアイスは悔しそうに表情を歪める。グレイは優しくアイスの頭を撫でるが、その手はぴたりと止まり自然と足も止まった。
「……ハル」
『………』
ニルヴァーナ内部の都市。行く先に立つのはみかん色の髪を持つ見慣れた人物。
『……あたしは、…』
「ハル…?」
異変を感じとったグレイは眉をしかめ、ゆっくりハルへと歩み寄る。うつむく彼女の表情は見えず、一向に顔をあげる気配はない。
『……やっぱり』
「お…おい」
『あたしが弱いのがいけないんだ…っ!!』
「……っ…」
突然沸き上がる流水にグレイは慌てて後ずさる。ハルの周りを囲うようにうねるいくつもの水竜巻。
あまりの勢いに近づくことが出来ないほど。
『護れない…護れない護れないっ!あたしが…、弱いから!!』
「ハル!!」
「やめて…っ!」
襲い来る竜巻を必死に防ぐグレイ。ルーシィやアイスを護るよう氷の盾で竜巻の行き先を塞ぐ。
『あたしが…っ、弱いから…みんな、不安なんだ…。』
「…っ!勝手なこと…、言ってんじゃねぇ!!」
ぶつぶつと何かを唱えるように呟くハルの言葉にかっとなったグレイは、魔力を込めて全ての竜巻を凍らした。
「……ハァハァ…」
「す、すごい…」
ハルとグレイたちの間にはそびえ立ついくつもの氷柱。ルーシィは目をまるくしてそれを見上げる。
「ひとりで勝手なこと言いやがって…、んなネガティブなやつだったか?おまえは」
息を切らしながらもゆっくりハルへと歩み寄る。ハルもすでに魔力は尽き果て、震える腕をグレイへと向けているだけだ。
←→