▼ 03
「お嬢ちゃん、どこ行くの?」
『え?…アイス、買いに行くの』
きょとんとしながら答えるハルに、彼らは一層にやにやと笑う。『じゃあ…』と彼らを横切ろうとすれば、容易に掴まれた細い腕。
『………』
普通の人間相手に魔法は使えないため、黙って彼らを見上げた。相手は金持ちなのか、身体中にじゃらじゃらとした貴金属を身に付けている。
「君、可愛いねぇ」
「ひとりでいても寂しいでしょ?一緒に遊ばない?」
『いや…だから、あたしはアイスを』
「アイスぐらいオレらが買ってあげるよ」
『ほんと!?』
途端目を輝かせたハルに、男たちはもはやでれでれだ。
『あ、でもあたしだけ買ってもらったらエルザたちに怒られちゃうかも…』
「エルザ?エルザたちって女友達?」
『友達…。家族だよ!』
ふわりと笑いながら答えれば、男たちはへらへらしながら言う。
「家族なら特別だ!」
「エルザちゃんたちにもアイス買ってあげるよ」
「マジかよ」
「「「……っ…!?」」」
突然肩を掴まれた男たちが何かと思い振り返ると、青筋を浮かべながら笑う男の姿。
「俺らにも買ってくれるんだってなァ?」
「「「ひっ…」」」
『………グレイ』
鬼のような形相のグレイに男たちは慌てて逃げていく。
『………』
「………」
お互い見つめあうわけでもなく、ただ向き合っているだけ。その場に耐えられなくなったハルが踵を返すと歩き始めた。
『………』
「………」
『………………』
「………………」
『なんでついてくるの?』
振り向けばずっと後ろをついてきているグレイと目が合った。それも一瞬で慌てたグレイによってそらされる。
『……っ…』
「悪かった!」
『…へ?』
突然の謝罪に目をまるくする。グレイの目はゆっくりとハルを捉えた。久しぶりにしっかりと合う視線。
「もう、使わねぇ。ハルの前からいなくなるようなこと、しねぇから…。約束だろ?」
『なにが…"約束だろ"よっ!破ろうとしたのはグレイじゃんか!!』
「な…っ、だから謝ってんだろうが!!」
『死んだら謝れないんだよ!!』
「………ハル」
目に涙を溜めるハルはそれを流さぬように上を向く。グレイは彼女へと歩み寄り、優しく抱きしめた。
「俺は生きてんだから謝れる。悪かった」
『……っ…。怒る気なんてなかったのにぃ…グレイが、また目ぇそらすからぁ!!』
「ああ。悪かった」
『ずっとあたしのこと、避けてたでしょー』
「悪かった」
『あの人たちアイス買ってくれるって言ってたのに、グレイが来たから…』
「…それは謝らねぇよ?」
「仲直りしたみたいね!」
「世話が焼けるな」
「グレイのやつ、いつまで抱きしめてんだよ!!」
「仕方がないよ。"抱きしめやすい体型"なんだもん」
「…………」
遠目から二人を見届けるルーシィたち。ぎゃあぎゃあと騒ぐナツを宥めるハッピーとアイスも安心したように二人を見ていた。
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