04


 







『……っ、…』

ゆっくり目を開けると射し込む光。ずきずきと痛む体に小さく呻く。


気を失うまでの記憶を手繰り寄せると、はっとし勢いよく起き上がろうとするがもちろんそれは未遂に終わった。



体は動かなくともしっかり働く脳を過るのは、ぼろぼろのギルドと、レビィ、ジェット、ドロイの笑顔、そして上から落ちてきたマカロフ。

敵を前にしてひとり動揺し、隙を見せてしまった自分が情けない。


見慣れない天井にすっと腕を伸ばす。ぐっと唇を噛み締めながら、拳を握った。



『あたしは…、何も…誰も……、家族すら護れないよ…っ、アイスリーヌ…』

悔しそうに呟くハルだが、決して涙は流さない。伸ばしていた腕で目元を被う。








「誰が誰を護れないって?」

『…!?ぽ、ポーリュシカさ…ん』


腕をのけ横を見れば、紅い瞳で見下ろす女性。ハルはばつが悪そうにそっぽを向くが、彼女がそうさせてくれるはずがない。



「こっちを向きな、ハル…」

『………』

ゆっくりポーリュシカを見やれば、怒るでも悲しむでもなく、ただ静かにハルを見下ろしている。




「マカロフもあんたも毎回毎回、無茶ばかりして…。どれだけ迷惑掛ければ気がすむんだい?あんたが誰も護れない?馬鹿言うんじゃないよ!あんたがいなけりゃ、マカロフなんかが率いるギルドなんてなくなっちまう!」

『そんなわけな…』

「あんたがいなけりゃいけない場面がいくつあったと思うんだい?」


頬にそっと触れるポーリュシカの手にぐっと口を一文字に結ぶ。



「あんたがいなけりゃ、マカロフもあいつの子どもたちも悲しむさ。」

『………』

「あんたがいなけりゃ」

ポーリュシカはにこりとも笑わないが、その視線はまるで母親のように温かい。






「誰がアタシの話し相手になってくれるんだい?」

『……ポーリュシカさ…っ』

「マカロフならもう行っちまったよ!けどあんたはここで安静にしときな!」

『………』


「そういえば…、あんたをここに連れてきたのは半裸の男だったよ。服ぐらい着ろと言っときな」


ハルの言葉も聞かず、手を放すとさっさと部屋を出ていってしまう。残された少女は誰もいない部屋で、小さく『ありがとう…』と呟いた。








『でも、ごめん…』



―――コンコン




腕を伸ばしベッド際にある窓を叩く。ひょこっと頭を出す彼女の相棒に、痛む体にムチを打ちながら起き上がった。


―――ガラッ



『いてくれると思ってた…』

「あたりまえだ」

『あはは…、お願い…アイス』


アイスはエーラを出すといつものようにハルを掴む。部屋のドアから出るのはまずいと考えた二人は、そのまま窓から出ていったのだった。


































『……この臭い…』

「どうした?」

『…おりてみて』


ハルの指示通り森の中に降りると、一度彼女を地面に座らせる。ぺたりと座り込むハルの前にひとりの青年が現れた。





『…臭いが、いっぱい混ざってる。また、ひとりで勝手に何してたの?ミストガン』

「おまえはまた無茶をしたのか?」

『無茶なんか…、してない。けど…』


ぐっと言葉を詰まらせうつむくハルに、視線を合わせるように屈む。



『みんなの前で…あたしは、やられちゃって……っ。』

「……ハル」









 



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