▼ 06
「ん…」
そんな彼らを見つめるのは、レクターを抱えたスティング。
「おめーの面見てるとイライラすんだよ!」
「ガジルくん!?」
汗汗とガジルを宥めるジュビア。ハルがスティングを見やれば、彼は気まずそうに目を伏せた。
「あ…いや、なんでナツさんが出てないのかと思って…。」
『……?』
何も答えないグレイたち。ハルも黙ったまま、座り込むスティングへと歩み寄る。びくっと肩をすくめる彼は、うつむきがちに口を開いた。
「…っ、ご…ごめんなさ…。」
『なんで謝るの?』
「……お嬢のせいで、ハルさんにひどいケガを…。」
ひどく申し訳なさそうに言うスティングに、ハルはその場にしゃがみ込む。
驚いて反射的に顔をあげれば、目の前にはずっと憧れてきた相手の笑顔。
『お互い様だよ、スティング!』
「…ハルさんっ。」
『"弱小ギルド"って言ったことも、今回は水に流してあげる!』
笑顔の裏に見え隠れする黒い部分に、スティングの背筋がぞっと凍りつく。
「あ、あれは…。」
『晴れて"最強ギルド"に返り咲いたわけだし、なんてことないよ。』
「「(根に持ってるっ!!)」」
口元をひくつかせるスティングとレクターに、ハルはただにこりとほほえんだ。
やっと終結した大魔闘演武。しかし、疲れ果てた魔導士たちは中央広場へと収集される。
国王、トーマ・E・フィオーレによって。
「……という訳で大魔闘演武の余韻にひたるヒマも無く、大変心苦しいのだが、今…この国は存亡の危機にある……とさっき聞いた。」
国王の言葉に、皆驚きを隠せないでいる。
「一万のドラゴン…ですと?」
マカロフが聞き返すように言葉を発した。
「アクノロギア一頭でもまるで歯がたたなかったのに…。」
「あれは特別だとしても…。」
「…一万ってのはねぇ。」
エバーグリーン、リサーナ、カナが口々に不安を漏らす。他のみんなも想像がつかないほどの数に、言葉を失っていた。
「城では現在作戦の準備が進められている。それがエクリプスキャノンだ。我々の目的は全てのドラゴンを一掃する事。」
『…その作戦のせいでルーシィが捕らえられたってこと?』
国王はただ困惑しているようで、眉を寄せたまま続けた。
「しかし、相手は大群ゆえ、必ず数頭…あるいは数百頭かが生き残ると推測される。魔導士ギルドの皆さん…、どうか私たちに力を貸してください。生き残ったドラゴンを、皆さんの力で倒してほしい。この通りです!この国を救ってください!」
一国の王でありながらも、頭を下げる国王の姿に、誰が首を振るであろうか。
わっと声をあげる魔導士たちに、国王は涙ながらに感謝の意を告げる。
「ありがとう…カポ。」
うっかり出てしまった彼の口癖に、唖然とする一同。
ハルは身体に巻いていた包帯を外すと、ぐっと伸びをして身体の調子を確かめる。
傷も魔力も、十分な休息のおかげでまるで好調だ。
『よしっ!』
気合を入れた彼女は、ラクサスに歩み寄るとすっと小さな手をかざす。
「何を…、……っ!?」
魔法で傷を癒す少女の行動に気づき、慌ててそれを制するも、ハルはむっと眉を寄せた。
「聞いてたのか!?今からドラゴンと闘わねえといけねェんだぞ!?」
「それでもない、ハルは数少ない滅竜魔導士なんですから!」
ラクサスと始終見ていたジュビアの声に、なんだなんだと騒がしくなる。
「そうですよ!ハルさん!」
「俺たちの出番なんです!」
スティングとローグも、彼女に治癒魔法を使わせることには反対だった。大きな戦力であるハルの魔力を、ドラゴンが来る前に、あまり消費したくないのが本音である。
『でも治さなきゃ、戦えないでしょ。』
「しかし…っ。」
『みんなで頑張るの!!』
エルザの言葉を遮りながら、声を張り上げるハル。その言葉に目を見開く魔導士たち。
『あたしだって頑張る。けど、みんな一緒なの!それで、みんなで…みんなで生き残って宴だよ!!』
宴会、パーティーが楽しみなのか、とても嬉しそうに話す少女。あまりに一方的な言い分に、思わず唖然とするも、彼女らしい選択に自然と表情は和らいだのだった。
みんなで一緒に
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