▼ 03
「…っ!!守る守るって言ってるけどなぁ、守ることと自己犠牲は違うんだぜ!」
グレイの言葉に思わずカッとなる。
『あたしがいつ自分を犠牲にしたの!?』
「いつもだろーが!!」
『あたしはグレイみたいに無茶はしない!!』
「おまえだって人には無理すんな、とか言っときながら、いつも自分は無理ばっかしてんじゃねぇか!!」
沈静化されてきていたはずの感情も、再びぐっと膨れ上がる。
「やめろ、二人ともっ!」
「ハルも安静にしとかなきゃダメでしょ?」
「もうこの話は終わりよ。」
エルザ、リサーナ、ミラが二人の間に止めに入るが、二人とも納得がいっていない。
「…今は休め。」
ラクサスは一言そう言うと、踵を返し医務室を出て行った。
『………。』
黙り込む少女に、グレイは聞こえるように舌打ちをする。
「黙って見てろっ!!」
続いて出て行くグレイに、ハルは眉をよせた。
何とも言えない雰囲気の悪さに、全員言葉を発することが出来ない。
『…ちょっと頭冷やす。一人にしてくれるかな。』
いつになく沈んだ声色に、誰も何も言うことが出来ず、ただ黙ったまま部屋を後にした。
「…ハル。」
『アイス…っ。』
ぎゅうっと抱きしめるその細い腕は、わずかに震えている。それに気づいていながらも、アイスは何も言わない。
『あたし…間違ってるのかな?』
「……。」
『自分を犠牲にしたいわけじゃない…。ただ、みんなに傷ついてほしくないだけなのに…、それも…間違ってるのかな。』
涙を流すことはない。ただぽつりぽつりと呟くハルの言葉を、アイスは静かに受け止める。
ごろんと寝転がる小さな身体には、未だ多少の傷が残っている。
『これくらいの傷…どうってことないのに。』
「おれは…もう少し、ラクサスやグレイたちの気持ち…考えるべきだと思う。」
『……。』
「ラクサスも言ってたろ?ハルが感じるのと同じように、みんなもおまえが傷つくことが苦しいんだよ。」
その言葉に黙りこむハル。少女の腕から這い出るアイスは、じっと彼女の様子をうかがう。
『………うん。』
短く放たれた声に、嬉しそうに微笑むアイス。
「早く謝るべきだと思うよ。」
『でも今は休めって言われてるし…。』
「相変わらず、変なとこで真面目だな。」
思わず吹き出すアイスに、小首をかしげるも、彼らの言葉が彼女の胸に影を作り出していた。
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