05









―――ザッ…



『……ら…、ラ…クサス…っ!』


「ん?」

思わず上ずる声。けれどラクサスは平然と返事をした。いざラクサスを目の前に、ハルはどうしようかと目を泳がせる。



『け、けが!』

「…?」

『けが…あたしが治す。』

やっと栗色の瞳がラクサスをとらえた。そのまっすぐな瞳に、彼はふっと笑うと「ああ」と短く返事をした。





「……」

『……っ…』

広い背中へ手をかざす。沈黙が続く中、ハルは頭を悩ませる。どう話を進めればいいのか。




「元気そうだな…、相変わらず。」

『えっ!?あ、う…うん。』


唐突にかけられた声に肩を震わせる。不自然な返事の仕方に目元を赤らめた。

らしくない自身の動揺具合に、ぶんぶんと頭を振り、ラクサスの背中を見つめる。




『た、助けてくれて…ありがとう……』


振り絞るように出した言葉の返事は、思ったよりも早くかえってきた。



「……あたりめえだろうが。」

『へっ?』


思わず治癒の手を止める。ラクサスはゆっくりと振り向くと、まっすぐに彼女を見上げた。



「約束、忘れたとは言わせねえぞ。」

『…や、約束…』

彼の口から出た言葉に、ぐっと目元が熱くなる。


『わ…忘れるわけない!』

「だろうな。」

くしゃっと頭を撫でられ、思わず目をつむるハル。頭に手を置いたままに、ラクサスは続けた。



「強くなったな…」

『ま、まだまだ…だよ。結局…ラクサスが来てくれなきゃ、負けてたわけだし…。』

「……強くなったな。」

『…っ…』

繰り返される言葉にハルはうつむいた。



「俺がおまえとの約束を破るはずねえだろうが。だからおまえは負けねえんだよ。」

『……ラクサス…っ』

震える声で名前を呼ばれ、彼はふっと小さく笑う。ハルの肩は小刻みに震え、膝立ちしていた彼女はその場に座り込んだ。




『帰って……きてよぉ…。』


絞り出したその声と同時に、溢れ出る涙が地面を濡らす。ぽろぽろとこぼれる涙は止まることを知らない。


「……ハル、俺は破門された。知ってるだろう。」

『けど…っ、あたし…ラクサスがいなきゃ……っ!?』



その言葉を遮るかのように抱き寄せられた。うなじにまわる手は力強く、厚い胸板に抱きしめられる。

「言うな…それ以上。」

『ら…クサス……?』


ぎゅうっと音がするほどに抱きしめられて、息が止まってしまうほどに苦しい。でもそれは心地の良い、苦しさ。



「俺がいなくてもおまえは家族を護れる。今までそうしてきたんだろ?」

『でも…っ』

「俺はおまえの家族を一度傷つけた。おまえはその罪を、償わせてもくれねえのか?」


ぽろぽろと流れる涙がラクサスの肩を濡らす。胸に染み渡る彼の言葉に、ハルは小さく呟いた。



『もう…十分だよぉ…っ』

「…やっぱり、お人好しだな。ハルは…。」







溢れ出る想い










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