▼ 05
―――ザッ…
『……ら…、ラ…クサス…っ!』
「ん?」
思わず上ずる声。けれどラクサスは平然と返事をした。いざラクサスを目の前に、ハルはどうしようかと目を泳がせる。
『け、けが!』
「…?」
『けが…あたしが治す。』
やっと栗色の瞳がラクサスをとらえた。そのまっすぐな瞳に、彼はふっと笑うと「ああ」と短く返事をした。
「……」
『……っ…』
広い背中へ手をかざす。沈黙が続く中、ハルは頭を悩ませる。どう話を進めればいいのか。
「元気そうだな…、相変わらず。」
『えっ!?あ、う…うん。』
唐突にかけられた声に肩を震わせる。不自然な返事の仕方に目元を赤らめた。
らしくない自身の動揺具合に、ぶんぶんと頭を振り、ラクサスの背中を見つめる。
『た、助けてくれて…ありがとう……』
振り絞るように出した言葉の返事は、思ったよりも早くかえってきた。
「……あたりめえだろうが。」
『へっ?』
思わず治癒の手を止める。ラクサスはゆっくりと振り向くと、まっすぐに彼女を見上げた。
「約束、忘れたとは言わせねえぞ。」
『…や、約束…』
彼の口から出た言葉に、ぐっと目元が熱くなる。
『わ…忘れるわけない!』
「だろうな。」
くしゃっと頭を撫でられ、思わず目をつむるハル。頭に手を置いたままに、ラクサスは続けた。
「強くなったな…」
『ま、まだまだ…だよ。結局…ラクサスが来てくれなきゃ、負けてたわけだし…。』
「……強くなったな。」
『…っ…』
繰り返される言葉にハルはうつむいた。
「俺がおまえとの約束を破るはずねえだろうが。だからおまえは負けねえんだよ。」
『……ラクサス…っ』
震える声で名前を呼ばれ、彼はふっと小さく笑う。ハルの肩は小刻みに震え、膝立ちしていた彼女はその場に座り込んだ。
『帰って……きてよぉ…。』
絞り出したその声と同時に、溢れ出る涙が地面を濡らす。ぽろぽろとこぼれる涙は止まることを知らない。
「……ハル、俺は破門された。知ってるだろう。」
『けど…っ、あたし…ラクサスがいなきゃ……っ!?』
その言葉を遮るかのように抱き寄せられた。うなじにまわる手は力強く、厚い胸板に抱きしめられる。
「言うな…それ以上。」
『ら…クサス……?』
ぎゅうっと音がするほどに抱きしめられて、息が止まってしまうほどに苦しい。でもそれは心地の良い、苦しさ。
「俺がいなくてもおまえは家族を護れる。今までそうしてきたんだろ?」
『でも…っ』
「俺はおまえの家族を一度傷つけた。おまえはその罪を、償わせてもくれねえのか?」
ぽろぽろと流れる涙がラクサスの肩を濡らす。胸に染み渡る彼の言葉に、ハルは小さく呟いた。
『もう…十分だよぉ…っ』
「…やっぱり、お人好しだな。ハルは…。」
溢れ出る想い
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