▼ 05
パラパラと落ちてくる木屑。あまりの衝撃に綺麗だったこの部屋も、あっという間にぼろぼろとなっていた。
『…はぁ…はぁ……』
大きく肩で息をするハル。
徐々に晴れていく爆煙の中、しっかりと両足で立つ姿が見えてきた。
『……っ』
「小娘にしてはなかなかやるな…。しかし私には勝てんよ。」
服こそは破れぼろぼろにも関わらず、ハデス自身には大きな外傷は見られない。
『(……これが、…2代目マスター……プレヒトのちから…)』
ぐっと拳を握りしめるハルは、ふっと大きく息を吐いた。彼女のまとう魔力の変わりように、ハデスは面白がるようににやりと笑う。
「まだ魔力が上がるのか、小娘!マカロフも大した兵を育てたもんだ!!」
『じいじは……』
上空に現れる巨大な魔法陣。両手を突き出し、静かに言葉を紡いでいく。
『じいじは…あたしたちを、一度たりとも兵隊だなんて言ったことなんてない!あたしたちは…家族だって…っ!血なんか繋がってなくても……、ギルドは家族だって教えてくれた!!!』
「戯言を…」
『じいじを…、あたしの家族を傷つけたあんたたちを……っ、あたしは許さない!!!』
部屋中を覆う白い魔法陣へ、ハルは両手を突き上げた。
『滅竜奥義…蒼氷桜乱舞!!』
「………なんだ?」
魔法陣から降り注ぐ雪の結晶。それだけかと鼻で笑うハデス。
―――ピキピキッ
「何だ…と!?」
その結晶に触れた部位があっという間に凍りつく。しかも今回は先ほどのように魔力を込め割ろうと試みるも、左肘の関節ごとびくとも動かない。
「……っ、小娘が!!」
めいいっぱいに魔力を放出し、降り注ぐ結晶を弾き返すも、左腕は完全に凍りつき、使い物にならなくなっていた。
『……だ、だめか…っ』
―――ドサッ
その場に倒れこむハル。絶好のチャンスにも関わらず、彼女は立ち上がることはない。
否、立ち上がれないのだった。
『……はぁ…っ』
結晶が降り止むころには、彼女の身体はほぼ凍りついていた。かろうじて息をしているところをみると、どうやら呼吸器官はやられていないようだ。
「自己を犠牲にする奥義か…。その勇気だけは、買ってやろう。」
『……はぁ…ぅ、うっせえ…』
悔しげに握りしめられる拳。ぐっと噛みしめられる口元。
「…私の代で小娘がおったなら、いい相手になっていたかもしれんな。」
『………っ、…ぅ……』
振り上げられた拳。視界に捕まえてわかっていても、もう少女には避けることすら出来なくなっていた。
羽根の取れた水竜
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