03










―――タッタッタッ



木々の間を走り抜けるひとりの少女。その瞳には怒りを宿し、ただ一点に向かってその足は止まらない。


『マスタープレヒト…。許さない…っ!』

「待て!!」

『……っ!?』

瞬時に退くハルの動きに声をかけた本人は驚く。



『…何?……てか誰だっけ?』

左目の横に傷のある男に声をかけられ、栗色の瞳をまるくする。男は彼女の反応に戸惑いながらも、歩み寄りながら言った。


「俺の名はドランバルト。評議院の者だ。」

『……評議院…』

ハルの脳裏にジェラールが思い浮かぶ。まさしく彼をあの時連れて行ったのは、評議院だった。



『評議院が何の用?勝手に人んち上がり込んで何しよーっての?』

鋭く細めれた瞳にぐっと息を飲む。外見がいかにただの少女であったとしても、彼女は最強ギルド妖精の尻尾でも有数の実力のある魔導士なのだ。


「…どこに向かう気だ。早くここから離れるんだ!」

『……なんで?』

「ここにあのエーテリオンが投下される危険性があるんだ!」

その単語にぴくっと眉をよせる。


「だから早く…」

『関係ないね。』

「なっ…」




ハルはにっと笑うとドランバルトへ、銃を撃つかのように指先を揃えて向けた。


『家族を傷つけたやつがいれば、あたしはぶっ飛ばしにいく!大事な場所を壊そうとするやつがいるなら、そいつらもぶっ飛ばせばいいじゃん!!』

「……っ…!?」


何とも単純な考えに唖然とする。しかし、彼もここで彼女を見捨てるわけにはいかない。



「その家族を護るために、ここから早く逃げるんだ!!」

『……家族を傷つけたやつを、見逃せっていうの…?』

「そうじゃない!エーテリオンにやられれば、元も子もないと言っているんだ!」


ドランバルトの必死の訴えに、ハルは諦めたかのようにため息をつく。

そんな少女の様子にほっと胸を撫で下ろすドランバルト。








―――ドォオン


「…な…っ、…」

彼の頭の横を通り抜ける魔法弾。それは紛れもなく彼女から放たれたもの。



「な、何を…っ!」

『うるさいなぁー。』

「なっ!?」

間伸びした少女の声。この状況にも緊張感がない。


『あたしはあたしがやりたいことをやるの!なーんであたしがよりにもよって、評議院の言うこと聞かなきゃいけないのさっ!』

目を見開くドランバルトに対して、ハルはむすっと拗ねたような表情を向ける。



「お、おい…っ」

踵を返し、再び走り出そうとする少女に、たまらず声をかけた。すると、彼女の足は素直に止まる。


『あんたはあんたの仲間を護りなよ。あたしたちは大丈夫。』

「……ウンディーネ。」

そう呟けば、『久しぶりに聞いたよ、それ。』と笑いながら告げた。



『あたし評議院は嫌いだよ。けど…』

「……っ。」


ふわりと微笑んだハル。ドランバルトは思わず呆気にとられる。



『心配してくれてありがとーっ!』

その表情に見惚れていると、彼女は止める暇もなく、再び前へと進み始めた。





「俺の…仲間を……」

ぽつりとこぼれた自身の言葉に、ドランバルトはその場から姿を消した。



そして


ハルの向かう先に停泊しているのは、グリモアハートの巨大な戦艦。ハルは迷うことなく飛び込むのだった。













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