▼ 03
―――タッタッタッ
木々の間を走り抜けるひとりの少女。その瞳には怒りを宿し、ただ一点に向かってその足は止まらない。
『マスタープレヒト…。許さない…っ!』
「待て!!」
『……っ!?』
瞬時に退くハルの動きに声をかけた本人は驚く。
『…何?……てか誰だっけ?』
左目の横に傷のある男に声をかけられ、栗色の瞳をまるくする。男は彼女の反応に戸惑いながらも、歩み寄りながら言った。
「俺の名はドランバルト。評議院の者だ。」
『……評議院…』
ハルの脳裏にジェラールが思い浮かぶ。まさしく彼をあの時連れて行ったのは、評議院だった。
『評議院が何の用?勝手に人んち上がり込んで何しよーっての?』
鋭く細めれた瞳にぐっと息を飲む。外見がいかにただの少女であったとしても、彼女は最強ギルド妖精の尻尾でも有数の実力のある魔導士なのだ。
「…どこに向かう気だ。早くここから離れるんだ!」
『……なんで?』
「ここにあのエーテリオンが投下される危険性があるんだ!」
その単語にぴくっと眉をよせる。
「だから早く…」
『関係ないね。』
「なっ…」
ハルはにっと笑うとドランバルトへ、銃を撃つかのように指先を揃えて向けた。
『家族を傷つけたやつがいれば、あたしはぶっ飛ばしにいく!大事な場所を壊そうとするやつがいるなら、そいつらもぶっ飛ばせばいいじゃん!!』
「……っ…!?」
何とも単純な考えに唖然とする。しかし、彼もここで彼女を見捨てるわけにはいかない。
「その家族を護るために、ここから早く逃げるんだ!!」
『……家族を傷つけたやつを、見逃せっていうの…?』
「そうじゃない!エーテリオンにやられれば、元も子もないと言っているんだ!」
ドランバルトの必死の訴えに、ハルは諦めたかのようにため息をつく。
そんな少女の様子にほっと胸を撫で下ろすドランバルト。
―――ドォオン
「…な…っ、…」
彼の頭の横を通り抜ける魔法弾。それは紛れもなく彼女から放たれたもの。
「な、何を…っ!」
『うるさいなぁー。』
「なっ!?」
間伸びした少女の声。この状況にも緊張感がない。
『あたしはあたしがやりたいことをやるの!なーんであたしがよりにもよって、評議院の言うこと聞かなきゃいけないのさっ!』
目を見開くドランバルトに対して、ハルはむすっと拗ねたような表情を向ける。
「お、おい…っ」
踵を返し、再び走り出そうとする少女に、たまらず声をかけた。すると、彼女の足は素直に止まる。
『あんたはあんたの仲間を護りなよ。あたしたちは大丈夫。』
「……ウンディーネ。」
そう呟けば、『久しぶりに聞いたよ、それ。』と笑いながら告げた。
『あたし評議院は嫌いだよ。けど…』
「……っ。」
ふわりと微笑んだハル。ドランバルトは思わず呆気にとられる。
『心配してくれてありがとーっ!』
その表情に見惚れていると、彼女は止める暇もなく、再び前へと進み始めた。
「俺の…仲間を……」
ぽつりとこぼれた自身の言葉に、ドランバルトはその場から姿を消した。
そして
ハルの向かう先に停泊しているのは、グリモアハートの巨大な戦艦。ハルは迷うことなく飛び込むのだった。
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