03
「いい、ビビ。あたしたちは明日の正午に一度だけ東の港に船を寄せるわ…!あんたがあたしたちと旅を続けたいのなら来なさい!そのときは歓迎するわ!」
「ビビちゃんは一国の王女だ…、これがおれたちの最大限の勧誘だ」
―――…………………
「聞こえただろ、ビビの声だ」
『……式典のスピーチ?』
ビビは来ると頑なに出航を拒むルフィにゾロやサンジが言い聞かせるも、彼らは動かない。
『……ビビ』
寂しげに空色の瞳を伏せた瞬間…
「みんなァー!!!」
「ビビだ!!」
『…っ…ビビ!』
「よし、急いで船を戻そう!!」
歓喜の声をあげる一味にビビはカルーから電伝虫の受話器を受けとると息を吸う。
「お別れを…っ、言いに来たの!!」
「……え」
『……っ…』
ピタリと動きをやめ一味はビビを見つめる。
「私は一緒には行けません…っ!今まで本当にありがとう!!」
『…な…んで?』
「まだ冒険はしたいけど…、私はやっぱりこの国を愛してるから…っ!だから…、行けませんっ!!」
「………そうか」
にかっと笑うルフィに続いてクルーたちも優しく微笑んだ。
「私は……」
――――…………
「印ならバツがいい!!」
「なんで」
「海賊だから」
「あれは本来相手への死を意味するんだぞ?」
「でもバツがいいんだ!なっ、ビビ!」
「うん、私もそれがいい」
「どうでもいいから早く書け、本題はそこじゃねぇんだ」
バツがいいと譲らないルフィに呆れるゾロ。ビビはクスッと微笑むときょとんとしていたハルに声をかけた。
「ハルさん…?」
『……え』
黒い服を着たハルは少し離れた場所で彼らを眺めている。
「ほら、腕を出して」
『……ん…』
戸惑いながらも素直に腕を出す少女は、まるで妹のように可愛らしい。
――キュッ
白くて細い腕にバツ印を書くと少女はそれを空色の瞳でじっと見つめる。
「これが仲間の印!」
『……仲間…』
きゅっと右手でバツ印を握ると、顔を赤らめ嬉しそうに笑うハル。ビビもそれを見てクスッと微笑んだ。
――――………………
「私はここに残るけど…っ、いつかまた会えたら……もう一度、仲間と呼んでくれますか…っ!!?」
上陸する前のことを思い出したビビは、ぼろぼろと涙をこぼしながら大声で訴えた。
ぐっと涙を堪えるハルが視界に海軍の船をとらえる。
「当たり前…っ!?」
「答えちゃだめ!海軍が気づきはじめてる…、あたしたちとの関わりを残したらビビが罪人になっちゃう…。黙って別れましょう」
叫ぼうとするルフィの口を抑えるナミ。その言葉に一味は何も言わず背を向けた。
「…うっ……っ…」
その姿を見てさらにぼろぼろと涙をこぼすビビの顔はもはやぐちゃぐちゃだった。
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