04
「海底は暗くて、淋しいからな。おれ達が見届ける!!」
海に浮かぶメリー号。少し離れたところから見守る仲間たち。小舟でメリー号へ近づくルフィの手には、明々と燃え上がる松明。
「ウソップは…いなくてよかったかもな…。あいつがこんなの…たえられるわけがねェ。」
ハルは黙って周りを見渡す。
「どう思う?」
隣に立つゾロが何故かそげキングへそう問う。
「そんな事ないさ……。決別の時は来る、男の別れだ。涙の一つもあってはいけない。彼にも覚悟はできてる。」
『………。』
ルフィの手からメリー号へ火が放たれる。パチパチと音を立てながら燃える炎は、あっという間に広がっていく。
「長い間…おれ達を乗せてくれて、ありがとう。メリー号。」
ルフィ達の仲間になって、ハルにとってはこの世界にできた大切な家であり仲間だった。それはもちろん、彼らにとっても…。
その時、冷たい何かが頬に落ちる。
「雪…。」
隣のナミがそう呟いて、初めてそれが雪だとわかった。
その雪がこの世界に来て、初めて見た雪を思い出させる。初めて海賊船に乗り、初めて長期間の船旅をして、初めて新たな島へ上陸する喜びを知った。
数々の思い出には必ずメリー号がいて、みんな笑っていて…。
<大丈夫、もう少しみんなを運んであげる…。>
『……っ。』
ふいにあの声を思い出した。
あの声は…あの夢はやっぱり……。
《ごめんね。》
「え」
『…っ!』
聞こえてくる声にぐっと唇を噛む。
《もっとみんなを遠くまで、運んであげたかった…。
……ごめんね、ずっと一緒に冒険したかった…。
だけどぼくは。》
「ごめんっつーならおれ達の方だぞ、メリー!!!」
おれ"舵ヘタだからよー!!お前を氷山にぶつけたりよーー!!帆も破ったことあるしよー!!ゾロもサンジもアホだから"…色んなモン壊すしよ!!そのたんびウソップが直すんだけど、ヘタクソでよォ!!!ごめんっつーなら……」
《だけど
ぼくは幸せだった。》
『……っ…。』
ぽろっと溢れ出る涙が、雪で冷えた頬を温める。チョッパーが泣きながらメリーの名を呼ぶのが聞こえる。隣で座り込むナミ。溢れる涙が止まらない。
ぽんっと頭に置かれる大きな手は、まるで我慢はさせないとでもいうように優しい。
『…っ、メリー……っ。』
大きな音を立てて崩れる船体。
《…今まで大切にしてくれて
どうもありがとう。
ぼくは
本当に
幸せだった。》
「メリーーーーーー!!!」
鉛色の空に悲しみの声が響き渡った。
冷たい雪と温かい涙
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