03
―――ベキッ…ガッ
大きな揺れに目を覚ます。
『…っ……。』
目の前に見えるのは見慣れた天井。間違いない、メリー号の女部屋だ。何とか動く腕で身体中を探る。多少痛みはあるものの、大きな傷は無い様子。
『我ながら…バケモノみたい……。』
一人静かに嘲笑する。それはもちろん自分自身へ向けたものだ。
何やら甲板が騒がしい。それは間違いなく船長のもので、ハルはゆっくりと起き上がる。
ズキズキと痛む頭。何故自分は気を失っていたのか、どうしてここに横になっているのか、あの後どうなったのか。知りたいことは多くあるものの、彼女の身体は自由に動くことがない。
『傷は治しても動けないんじゃ意味ないし…。』
ぐっと手を握りしめるハルは、どさっと再びその場へ横になった。随分と伸びた髪の毛がふわりと揺れる。血やら何やらで汚れたそれを、洗いたいと思いながらも身体は動くことはない。
あれからどれだけ経ったのか…。
自身の調子からそれほど時間が経っていないことがわかる。まだ身体がうまく動かせないのが、その証拠となった。
いつの間にか静まり返った甲板。
ゆっくりと起き上がると、重たい体を奮起して甲板へと向かう。
「ハル!!身体は大丈夫か?もう動けるのか!?」
いち早く駆け寄ってくるのはチョッパー。壁にもたれる彼女の身体を心配するように見上げる。もちろん『大丈夫。』と答えるハルだが、チョッパーもそればっかりは信用できないとでも言うように、歩こうとする彼女の行動を制止した。
ハルの状態を喜びつつも、複雑な表情をみせる仲間たち。その理由を求めるべく、ナミへと視線を向ける。
「……ハル。」
『何…、どーした?』
先を促すも彼女の口はそれ以上何も言わない、言えない。
「覚悟出来てたことだ。」
『…ゾロ。』
よく周りを見ると、メリー号の目の前にはガレーラカンパニーの船。そして、それに乗っているのはもちろんガレーラの大工たち。
さらに、船首付近の甲板が激しく損傷したメリー号。船体は割れ、大きな溝が出来てしまっている。
『……メリー…?』
「ハル。」
ルフィに名前を呼ばれ振り向くと、そこには意を決した表情の船長。
「メリーとはここでお別れだ。」
『…………。』
何も言わない少女に、仲間たちは息をのむ。
「メリーはもう治せねえ。アイスのおっさんが言うんだ。決めたのはおれだ。」
空色の瞳はまっすぐに船長を見ていた。そらすことのない両者の視線。
『…わかった。』
ただ一言だけ発したハル。
それ以上何も言わない少女に、仲間たちも口を噤んだ。
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