03
ルフィの声に、急に慌ただしくなる周囲。ハルは気にすることなく、手錠の具合をがちゃがちゃと確かめていた。
「…顔をあげろ、ニコ・ロビン。」
そんな少女を横目で見ながら、フランキーは堂々と言い放つ。ロビンはあげるどころか、考え込むようにうつむいた。
「あいつら、とうとうこんなとこまで来やがった。」
「……。」
「オイ、こりゃとんでもねえことだぞ?」
がちゃがちゃと手錠をいじるハルも、フランキーの言葉にみみをかたむける。
「おまえが仲間たちのために、政府から出された条件をのんで連行されたことはわかった。だが、その協定も…さっきあの馬鹿長官にあっさり破られたはずだ。」
『……。』
「おめーが大人しく捕まってるからといって、この先誰が助かるわけでもねえ。もうあいつらの助けに応じて、ここを脱出するしか道はねえはずだ。」
フランキーの言葉にも、ロビンは顔をしかめ、何やらひとりで思い悩んでいる。ハルがじっと彼女を見上げると、戸惑いながらも少女を見下ろした。
『あたし…ロビンが怯えてるバスターコールってのがどんなものなのかなんてわからない。』
「……。」
『でもね、どんなものからでもあたしが守ってあげる!』
へらっと笑う少女にロビンの瞳は見開かれる。
『あたしはみんなと航海するのが好きだ。ロビンのちょっと毒舌なところも、物知りなところも、みんなを見て楽しそうに笑ってるところも大好きなんだ。』
「…っ。」
『もう、ロビンがいない航海なんて考えられないよっ。』
すくっと立ち上がる少女に、弾かれるように顔をあげる。ハルはそれを満足そうに見下ろすと、二人の身体を拘束する鎖を引きちぎった。
「なっ、なんつーパワーしてんだ!?」
『ルフィたちはもうそこまで来てる!一緒に帰ろう!ロビン!!』
―――ドゴォオオ
「ん?」
盛大な音を立てて崩れた壁から、大きな影が飛び出して来た。裁判所の屋上からそれを確認するルフィは、背伸びをしながら様子を見る。
「いってぇだろォが!!クソガキ!!」
ぎゃあぎゃあ吠えるフランキーは、ルフィに背を向け文句を連ねる。
『いいじゃん。助けてやったんだから。』
じゃらじゃらと身体に巻きつく鎖を引きずりながら、歩いて来るハルは悪意なく笑った。
フランキーにロビンを抱えさせ、彼の尻を蹴り飛ばしたハル。その威力に廊下からバルコニーまでの壁は、すべて破壊されていた。
あれだけの音をたてたのだ。すぐに衛兵たちが集まって来る。
「ハルーーーーっ!!!」
『ルフィ!!…ってひとりだけ?』
バルコニーから裁判所を見下ろせば、そこには元気よく手を振る船長の姿。裁判所の屋上では、ルフィにやられたブルーノが伸びているのが確認できる。
『あたしがやりたかったのに…。』
ぽつりと呟くハルの隣から、ロビンもルフィを見下ろす。ルフィはこちらへ飛び移ろうと、距離を測り始めた。
『あたしたちが飛んだ方が早…』
「待って!!!」
ロビンの声に言葉を止めるハルと、立ち止まるルフィ。その様子を見て、意を決して続ける。
「何度も言ったわ。私は…貴方たちの元へは戻らない!帰って!私はもう、貴方たちの顔も見たくないのに…っ!どうして助けに来たりするの!!?」
『……。』
「どうして助けに来たりするの…。私はそんなこと、望んでなんていない。私がいつ…そうしてと頼んだの!!」
呼吸を乱しながらも訴えるロビン。隣に立つハルでなくても、彼女が精一杯の無理をしていることは、見て取れた。
かかって来る衛兵の相手をするフランキーも、彼女たちの様子に目を向ける。
「私はもう死にたいのよっ!!」
「何言ってんだ!あいつらはおまえらのために、命を懸けてここまで来たんだぞ!?」
ロビンの悲痛な叫びに、食ってかかるのはフランキー。しかし、彼女は「頼んでいないわ。」と一言で片付ける。
「おまえなァ!!」
「邪魔じゃ。」
背後からカクに蹴り飛ばされ、言葉を詰まらせるフランキー。ゲラゲラと笑う男が続くと、バルコニーにぞろぞろとCP9のメンバーが勢ぞろいする。
「まぁ待て、おまえら!今麦わらの一味が内部崩壊し始めたところだ!」
スパンダムは面白そうに声をあげて笑い、彼らの動向を楽しんでいる。
「命を懸けて助けに来た仲間に、最後の最後で助けを断られる船長。どんな顔をしてるのか見たくないかァ?」
ハルは黙ったまま、スパンダムを睨みつける。しかし、彼女が動こうとすれば、ルッチが今にも飛びかかってきそうなため、スパンダムを殴ることは出来ない。
「死にたいなんて、何言ってんだァおまえ。」
「…っ。」
鼻をほじりながら告げるルフィに、ハルはぷっと吹き出した。
「あのなァ、ロビン。おれたち、もうここまで来ちまったから。」
ルフィの言葉と同時に、彼の背後の床が盛り上がったかと思うと、一気に空へと舞い上がる。
叫び声とともに現れたのは、残る他の仲間たち。
「とにかくハル共々、助けるからよォ。」
『うん!』
大きくうなずくハルに、ルフィはにっと笑って続けた。
「そんでなァ、それでもおめー死にたかったら、そしたらそん時死ね。」
ロビンは何も言えずにただ彼らを見つめる。
「とにかく頼むからよォ、ロビン。死ぬとか何とか、何言ってもかまわねェからよォ。そういうことはおまえ!おれたちの側で言え!!」
「…っ!」
『みんな…無事でよかった。』
ぽつりと漏れるハルの本音に、フランキーがわしゃわしゃと少女の頭を撫で回した。
ルフィたちから目をそらすことなく、ハルはロビンへと話しかける。
『みんなの側なら、そんなこと言わないよねっ。』
ぽろっとこぼれる一筋の涙。初めて見るそれに、仲間たちは大きくうなずいた。
「後はおれたちに任せろっ!!」
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