04
「…何でもないわ。」
そう告げるロビン。彼女の足元には袋に身体を覆われ身動きが取れないハルが、転がされていた。
「舞姫はまだ意識が戻らないのか。まあ、覚めても手錠のおかげて力は入らねえだろうがな。」
豪快に笑う役人は足をあげると、転がる少女を蹴り飛ばそうとする。
「やめて。」
「ああ?」
「このまま目が覚めることなく、いつの間にかエニエス・ロビーで刑が執行されていた方が、彼女のためだわ。」
目を伏せたまま眈々と言い切る彼女に、役人もげらげらと笑いながら同意する。
「そうだな。これでも貴様の仲間だった女だったな。」
『……っ。』
強い風が吹く中、海列車の屋根に立つ少女の姿。
それはロビンと共に連行されているはずのハルだった。
『そげキング…。』
そう、今ハルの身代わりにあの袋に入っているのはそげキング。突然の来訪者に窓から投げ出されたハルは、こうしてあの場から逃げ出すことに成功していた。
『…あたし、どーしたら。』
ふと顔をあげれば、いくつか後部の車両の屋根上で争う二つの影。
<この列車内で今、サンジくんとフランキーというチンピラが暴れている。>
『……フランキー…っ!』
無意識のうちにイノセンスを発動するも、ぐっとその場で腰をおろす。
<ハルくん!彼は今ロビンくんや君のために戦ってくれているんだ!>
そげキングの言葉が蘇る。大きく息を吸い込み、呼吸を落ち着かせると、イノセンスの発動を解いた。
そげキングの言いようによれば、フランキーはチンピラのようだから、今好戦している方が彼なのだろう。
今にも決着が着きそうな二人に、ハルは黙って見守ることにした。
『けど…』
<そんなくだらねえ駆け引きに乗る前に、本当は一番に話して欲しかったんだっ!!>
『…またあたしだけ、知らないのか。』
ぽつりとこぼれる本音。それにかぶせて、大きな音が辺りに響く。
見ればそこにいたはずのフランキーたちはおらず、車両の屋根には巨大な穴が空いていた。
『…勝った、のか?』
ほっと息をつくのも束の間。先ほどのそげキングの言葉を思い出す。
<さっき窓の外からここへ来る時に覗いたんだが、この車両の後ろにいる四人組…正直ヤバいやつらだ。>
『あの車両は…。』
そげキングの言葉から、何となく想像がついていた。
その車両にあの時自分を捕らえた男がいるということに。
『CP9…ってことは9人あんなやつがいるのか?』
この世界(ここ)の知識に疎いハルは、懸命に頭をひねらせる。
『あんなやつがあそこに4人も…。』
屋根を蹴り飛び出すハルの耳に、新たな音が飛び込んでくる。
徐々に離れていく三号車。連結部から漏れるのは謎の煙。
突然のことに何事かとブレーキをかけるも、煙幕の中から聞こえてきた声に耳をすませた。
「いるんだろ!!来い!ハル!!」
『……っ!!』
確かに聞こえたのは、ここにいるはずのない彼の声。しかしハルは、力強いその彼の声に、迷うことなく三号車へと飛び込んだ。
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