06
約束の時間がやって来た。
船員たちは皆、甲板にて観戦。船から降りるのはルフィのみ。
『…ウソップ。』
「………。」
小さく名前を呼ぶ声に、ゾロがちらりと視線をやった。それに気づくことはなく、少女は黙って彼らを見守る。
戦況は巧みな技と武器を用いて戦うウソップの有利に見える。打撃の効かないルフィに対して、確実な戦術をとっていた。
それに加えて、ガスの力を借りた大爆発。
さすがのルフィも逃げ場のなかったそれを、もろにくらってしまっている。
『……っ。』
しかし
「ゴムゴムのォ…ブレッド!!」
ルフィの渾身の一撃がウソップを捉えた。目を背けることなく見守っていたハルは、悲痛な面持ちで歯を食いしばる。
「勝負あったな。」
ゾロの一言にチョッパーは涙を拭う。優しい彼には酷く辛い光景だっただろう。しかし、彼もまたハルと同様、目をそらすことなく観ていた。
自分の足でしっかりと立ち尽くすルフィは、倒れるウソップに向かって大声で叫んだ。
「ばっかやろう!!!おまえがおれに、勝てるわけねえだろうがぁ!!!」
ウソップは起き上がることも出来ず、彼の声にも答えない。思わず涙するナミは口元を抑えた。
ウソップに背を向けるルフィは、麦わら帽子をかぶりながら告げる。
「メリー号はおまえの好きにしろよ。新しい船を手にいれてこの先の海へおれたちは進む。
じゃあな、ウソップ。今まで楽しかった。」
うつむいたままにメリー号へと歩んでくるルフィ。
仲間の勝利を喜べないのは、その相手も大切な仲間"だった"から。
何とも言えない重い空気が彼らを襲う。
「おい、行くな!チョッパー!」
ウソップの元へと向かおうとするチョッパーをサンジが呼び止めた。
「なんでだよ!ただでさえボロボロの身体なのにあんな目にあって…っ!」
「ケンカやゲームじゃねぇんだ!」
「だからなんだ!おれは医者だ!治療くらいさせろ!!」
人型に変身し制止を振り切ろうとするチョッパー。サンジはタバコを噛み締め、力づくにチョッパーを押さえつけた。
「決闘に負けて、そのうえ同情された男がどれだけ惨めな気持ちになるか考えろ!不用意な優しさが、どれだけ敗者を苦しめるかを考えろ!!あいつはこうなることを覚悟の上で決闘を挑んだんだ!!!」
涙を流しながら言葉を受け止めるチョッパー。ゾロは黙って彼らを見守る。ナミもまた流れる涙を拭っていた。
ハルは黙ったままうつむくルフィを見つめる。
麦わら帽子を手で抑えるルフィの頬を、ぼろぼろと流れ落ちる雫。船長の涙にハルは何も言わず瞳を閉じた。
「……重い…っ!!」
「それがキャプテンだろ。」
ルフィの言葉に返ってきた一言。今まで黙って見守っていたゾロから放たれたものだった。
「迷うな!
おまえがふらふらしてやがったら、おれたちは誰を信じればいいんだよ。」
依然として涙するルフィ。ゾロは揺らぐことなく彼を見据える。
「船を開け渡そう。おれたちはもう、この船には戻れねぇから…。」
ゾロの言葉は静まり返った船上には、十分すぎるほどに響いた。
最悪のシナリオ
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