05
『……け、とう?』
「そーなの!ハルからもなんか言ってやってよ!!」
リビングに集まる船員は、神妙な面持ちでハルに目をやっていた。まさかこんなことになっているとは思いもよらなかった少女は、目を見開いたまま辺りを見回す。
確かにその場にいるはずのウソップの姿はない。おまけにルフィも男部屋にて休んでいるらしくその場にいなかった。
『ウソップが…言ったの?』
「そうよ。ルフィがメリー号とはここでお別れだって言ったら…、予想はしてたんだけど……こんなことになるなんて…っ。」
頭を抱えるナミにハルは何も言わずにうつむいた。
「ハルちゃんにもどうすることも出来ねえよ。これはあいつが決めたことだ。」
『わかってる…。』
サンジの優しい声色が、今は胸を締めつける。どうしたって彼らを止めることは出来ない。
「ハル!」
『だめだよ…。あたしが言うのはズルいもん。』
「えっ…」
情けなさそうに零れる笑み。眉を下げて笑う少女に、ナミは言葉を失った。
『苦しむウソップが見たくなかった。だからあの場に居合わせなかったんだ。…お金のことも、メリーのことも。ウソップが傷つくってわかってて、…あたしは逃げたんだ。』
「ハルちゃん…」
『そんなやつが今さら"決闘なんてやめて"だなんて、…勝手すぎるに決まってる。』
空色の瞳が揺れる。それに気がついた男は黙ってうつむいた。
『ごめんね…。』
「な、何よ!ハルが謝ることじゃないじゃない!!」
『……ごめん。』
もう一度謝ると、そのまま部屋を出ていく。その背中に声をかけることも出来ず、ナミは大きく息をついた。
「あの子、前はもっと気強い子だったわよね…。」
自身の腕についたリングに手を添える。
「…今朝までの楽しかった時間が嘘みたいね…。このうえさらにロビンの身に何か起きてたら、何だかこの一味がバラバラになっていくみたい……。」
ナミの声は震え、サンジもゾロも黙ったままに聞いていた。
『10時…か。』
ウソップがルフィへと告げた時間は夜の10時。今はまだその時間ではない。
ハルはメリー号の船首に背を預け、その場に座り込む。
『………ねえ、メリー?』
暗闇の中、聞こえるのはやはり波の音だけ。
『…ほんとにウソップは、一味をやめちゃうのか?』
もちろんメリー号からの返事はない。
『ウソップがやめて…ロビンが帰ってこなくて…、メリーともお別れなんて……っ、今のあたしに耐えられるかな…。』
笑いながら言ってはいるが、その声はまっすぐではない。弱々しいその声色に、思わず苦笑する。
『……強くならなきゃ。』
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