光に導かれて | ナノ

04







『……っ、…?』



ゆっくりと目を開くハルの前に立つのは、四角いけれどウソップのように長い鼻を持つ男。彼は一瞬目を細めるも、すぐに気やすく話しかけてきた。


「あんたもこの船の船員か?」

『……誰。』

相手の問いには答えることなく、空色の瞳を向ける。そよそよとそよぐ風に、亜麻色の綺麗な髪がなびいた。



「ハル…」

『……ゾロ?』

見れば彼のそばにはゾロが何とも言えない表情で、起きたばかりの少女を見下ろしている。ハルには何がどうなっているのか、さっぱりわからない。






「わしはガレーラカンパニーの船大工じゃ。主らの仲間に頼まれてこの船の査定にきたんじゃ…。」

『船大工…』

「この男には言ったんじゃが、……」


ハルの真っ直ぐな瞳に名も知らぬ大工は、言葉を止めメインマストを見上げた。眉をしかめる少女に対し、ゾロが前に出る。



『……。』

「メリー号はもう走れない…」








『………え…』

仲間の残酷な一言。だんだんと開かれていく空色の瞳に、ゾロの表情は変わらない。


『どうゆう…こと……』

「どういうことも何もそのままの意味じゃ。この船にもうこの先、航海する力はない。」

『だから…なんで…っ!』

「…随分と豪快な航海をしてきたんじゃろう。ここまで来れたことに驚きじゃ。」



何も言わないまま、ハルはメリー号を見渡す。メインマストは鉄板で無理やり繋ぎとめられ、甲板には幾つもの継ぎ接ぎ。ワポルに食べられたという側面も、ウソップによってガタガタに修理してある。

男を見上げ、震える声で訴えた。



『見てのとおりメリーはぼろぼろだ…。けど…っ、だから造船所の船大工に治してもらおうと思ってここに来たんだ…。』

「その船大工が無理じゃと言っとる。」

『なんで…?お金なら払うよ…いくらでも!ナミたちが換金したお金で足りなきゃ、ちゃんと稼いでくるから…っ』

「修理費以前の問題じゃ。」


立ち上がるハルは動じることのない相手の服を掴む。

『だから、どうゆうことだ!』

「…竜骨と呼ばれる部位がやられとる。船はそこを軸に作り上げとる。新しい竜骨を添えるということは、船を解体せにゃならん。そうすればもうその船はおまえたちの船じゃない。

どんなに見た目が一緒でも、同じ船は二度と作れん。何よりそう強く感じてしまうのは、お主らじゃ。」


するっとほどける小さな手。ゾロは見えない少女の表情に不安を抱える。



『……メリーは、走れないの?』

「ああ。」

間髪いれずに答える船大工。ぎゅっと握りしめられるその手は、拠り所さえ見つからない。


「……わしは主らの仲間にもこの結果を伝えに行かねばならん。それじゃあの。」

甲板を踏み切りあっという間に去って行く。残されたのはもともと船に残っていたハルとゾロの二人のみ。



うつむくハルは身動きもしない。見かねたゾロが少女の肩へと、そっと手をかけようとする。

『…メリーが言ってた。』

「……メリーが?」


彼女の絞り出すような声に、その手を止めて耳をかたむける。



『"もう少しみんなを運んであげる"…って……。空島で…聞いたんだ。このマストを、治したのも…きっとメリー自身だよ…っ。』

「……。」


信じられない言葉にゾロはゆっくりと手をおろした。信じられない言葉だが、彼女の声色に疑心は打ち消されていく。



『ほんとに…っ、走れないんだね。空島から…ここまで、もう限界は超えてたんだ…っ。』

「ハル…」

ゆっくりと顔を上げる少女は無理に貼り付けられた笑顔。


『あたしなんかよりずっとメリーと一緒だったゾロの方が辛いのに…ごめん。』




ゾロの筋肉質な腕は笑う彼女を無理やり包み込んだ。

『…ゾロ?』



「こういうのは…、一緒にいた時間じゃねえだろ。」


『………うん…。』



ゾロの腕に手を添えるも、ハルは泣くことはなく、ただ黙ってうつむいていた。







悪夢の始まり






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