04
「す、すまねぇ…」
いまだ整わない呼吸を繰り返すウソップが悔しげに謝る。ナミやロビンも同様に苦しそうにしていた。
「さぁ、我らがオヤビンが選ぶ戦利品は一体?」
『………』
麦わらの一味は負けてしまったため、フォクシーの言われるがままに、船員を一人渡さなければならなかった。
「ん〜。舞姫の強さがまだいまいちわからんが…、次の試合は確か出場するはずだったな…」
「あいつ、ハルちゃんを選ぶつもりか!?」
「懸賞金からしても妥当な判断ね」
「ロビン!てめぇっ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐウソップたちを横目に、ハルは黙って前へ出る。
『あたしを選んでも二回戦目、そっちの敗けは変わらない。』
「なんだと…」
『あたしがいなくても、ゾロとサンジくんが絶対勝つもん』
平然と言ってのける少女に、海賊が黙っているはずもない。
「そこまで言われちゃ退けねぇなァ。貴様を含めた万全の状態で、負かして野郎じゃねぇか!」
『……ちょろい』
「「(悪魔だ…)」」
フォクシーは再び一味を見渡し、にやりと笑う。ハルが選ばれないとしても誰か一人が、一度は敵側へと回ることは確かだった。
「おれが選ぶのは…
船医、トニートニー・チョッパー!」
『…………』
その瞬間、ハルの表情が変わる。有無を言わせず連れていかれたチョッパーは、椅子に座らされた後、フォクシー海賊団特有のマスクを付けられていた。
次で取り返すとはいえ、大事な仲間が獲られたことに一味はチョッパーに向かって叫ぶ。
「すまねぇ、チョッパー!」
「あたしたちが敗けたばっかりに…」
「チョッパー!」
「みんなァ〜!ハル〜っ!!」
チョッパーがハルの名前を呼ぶも、本人は唇を噛み何も答えない。それでもチョッパーは大粒の涙を流しながら必死に訴えた。
「ハル、みんな…っ。おれは!おまえたちとだから海に出たんだ!ヤダ…、おれヤダぁ!」
悲痛な声にウソップたちは悔しげにうつむく。ルフィの表情からは何も読み取れず、ゾロは酒瓶を片手に背を向けていた。
「ルフィ、ルフィが誘ってくれたから、おれ海に出たんだぞ!おれ、こんなやつらと一緒なんて……ヤダーっ!!おれは麦わら海賊団の船医、トニートニー・チョッパーなんだ!イヤダーっ!!」
『……っ…』
―――ダンッ
顔を上げた瞬間、頭をぐっと押さえられる。再びうつむく形になったハルの目に写るのは、草の生えた地面とそこにめりこむ酒瓶。
「ガタガタ抜かすな、チョッパー!見苦しいぞ!」
ゾロの声に辺りはしんと静まり返る。全員の視線がその背中に注がれていた。
「おまえが海に出たのは、おまえの責任。どこでどうくたばろうがおまえの責任。誰にも非はねぇ。ゲームは受けちまってるんだ、ウソップたちもおまえも全力でやっただろ。海賊の世界でそんな涙に誰が同情するんだ?」
「……ヒック…」
振り向くそのまっすぐな瞳に、チョッパーはぐっと息を飲んだ。
「男ならふんどし締めて勝負を黙って見届けろ!」
その言葉に涙を拭うと、堂々と椅子に座り込む。
「煮るなり焼くなり好きにしろいっ!」
両者の男気に盛り上がる会場。そのチョッパーの強い意志を受け取り、麦わらの一味は二回戦へと挑むこととなった。
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