03
「…っ、ここは!?」
「シャンドラの遺跡内である。」
目を覚ましたワイパーはその声の主に、きっと視線を向ける。起き上がろうとすればまた違う声に止められた。
「ガンフォール…っ」
「あ、まだ動いちゃ…」
「貴様…っ、空の者!…っ」
横になったまま視線だけを動かせば、近くにシャンディアの長である酉長が立っていることに気がついた。
「安静にしていろ…」
「長!我らは空の者どもに捕まってしまったのか!?」
『違うよ』
ワイパーの問いに答えたのは、コニスの隣に座るハルだった。
「女!おまえまで…っ」
『チョッパーに感謝しなよ?その治療、うちの優秀な船医がしたんだから』
ジョッキを両手で抱えるハルの言葉に、自身の体を確認する。
―――ドンドドン…ドンドドン
不意に聴こえた太鼓の音に、ワイパーは今度こそ起き上がった。
「これは戦いを知らせる太鼓の音…っ、遺跡に炎も!?」
ハルはぷっと笑いながら立ち上がると、ワイパーへそっと手を差し出す。
『ほら、立ちなよ』
「…何を」
『分かんないなら実際見てみればいい。』
退くことのないその小さな手を、ワイパーが半信半疑のまま掴むと、ハルは勢いよく彼を引き起こした。
『あんたたち、シャンディアがやってきたことも、コニスたちスカイピアがやってきたことも、あたしは間違ってるとは思わない。』
肩に手をかければ、それはひどく細いもので、以前自分を押さえつけたものとは到底思えないほど。
『この大地を取り戻すための、400年間は無駄じゃない。』
「…おまえに何がわかる…っ」
『……ノーランドは最後まで黄金都市の存在を嘘だとは言わなかった。』
ハルの言葉にぐっと息をのむ。
『カルガラ』
「何故おまえがその名を…っ!?」
ワイパーの反応にふわりと笑うハルは続けた。
『カルガラもそうなんじゃないかな?突然空へと打ち上げられて、ノーランドに居場所を教えるため…、必死に黄金の鐘を鳴らそうとした。それをあんたたちは受け継いできたんでしょ?』
<シャンドラの灯をともせ!>
「……っ…」
『もういいよ?カルガラの想いは、あんたたちの想いはちゃんとノーランドに、栗頭のおじさんに伝わった…。』
目の前の布へ手をかけると、ゆっくりと外へと出た。
『もう、戦わなくていいんだ。"ワイパー"もみんなも。』
見れば遺跡では麦わらの一味はもちろんのこと、スカイピアの住民、シャンドラの戦士たち、空に住む者たちみんなが大きな火を囲み、楽しそうに躍り騒いでいた。
騒ぐ者はみんな笑顔で、今朝まで戦っていたのが嘘のようで。
にっと笑うハルにワイパーも、安心したかのように笑みを浮かべたのだった。
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