05
視界にぼんやりと映るナミの表情は、この最悪の状況に歪み、必死に訴えていた。
その瞬間、どくんと波打つ鼓動。
ハルの体が紅く光を帯びる。突然の変化に、エネルは目を見開き、ナミも傷だらけの少女を見つめた。
「な、なんだ…、この光は…」
「……何?」
唖然とする二人を前にハルは、ふわりと笑ってみせる。
『……もうナミの前でやられたりしない。あんな思い、二度とさせたくない…っ』
「何を…」
ジャリっと地を踏みしめると、まっすぐにエネルを睨んだ。心綱(マントラ)が聞こえないハルに、次の手が読めない。
ハルから目をそらさないエネルだが、その視界から一瞬にして少女の姿は消えた。
「どこに……なっ!?」
―――ゴッ
鈍い音の後、エネルの体は強く遺跡へとめり込む。一瞬の出来事にナミは目を見開き、エネルは突然の衝撃に全く避けることが出来なかった。
「…カハッ」
『……ハァ…ハァ』
さっきまでエネルが立っていた場所には息を切らしたハルが、うつむきがちにだがなんとか立っている。
「…ハル……?」
何も言わず立ち尽くすハルに近づこうとすれば、ゆっくりとあげられた手に遮られた。
『ハァ…見ない、で…。』
「……え?」
ふらふらと今にも倒れそうな姿。にも関わらず、ハルはエネルに向き合うと再び地を蹴り、動揺する彼の懐へ飛び込んだ。
「何故、小娘の攻撃が当たる…っ!?」
『…だぁあ!!』
「ぐ…っ」
腹部へ入る蹴りにエネルの体は、くの字に曲がる。両手を組むとその手を容赦なく彼の首へと落とした。
「…かはっ」
「……ハルなら、勝てる…?」
僅かな希望にナミが笑みを浮かべた瞬間。
―――ゴロゴロ
「調子に…っ、乗るな!小娘がァ!!」
声を張り上げるエネルに後退るナミ。強い光が射すなか、最後に見たのは目を細めふわりとしたハルの笑みだった。
―――ドゴォオオ…ッ
……見ないで…
ナミの前で倒れたくない
見ないで。
あんな辛い思い
もうしてほしくないから
……なのに
…ごめんね。
「…ハルーーーっっ!!!」
あなたの過去を
prev | next