03
「ヤハハハ…、この私に消えろと?……ヤハハハ、ヤハハハ!!」
「やばいのよ、そいつは!」
ゲラゲラと笑うエネルを見てナミが冷や汗を流しながら呟く。そんな彼女を横目にハルは瓦礫の影から、ゾロたちの様子をうかがった。
「スカイピアの幸福を望む老いぼれに…、ひたすらに故郷を望む戦士。黄金を狙う青海の盗賊ども。悩み多きこの世だ!子羊が何を望もうとかまわん…が、この国にはそもそもの間違いがある」
「……っ、くだらぬことを言っている暇があったら神隊の居場所を答えろ!」
ジャベリンをエネルに向けるガンフォールだが、向けられた本人は顔色を変えず平然と彼を見下ろしている。
チョッパーをその場に寝かせたハルは、ちらっと大蛇に目をやった。依然として巨体を横たえる大蛇。
『(……ルフィ)』
静かに立ち上がりエネルから見えないよう移動を始めた。向かう先はもちろん大蛇のもと。
「ちょ…っ!?」
その動きに気づいたナミが声をかけようとするも、背後に感じた光によって言葉を詰まらせる。
『……っ…!』
「変な騎士…!!」
倒れこむガンフォール。今この状況で彼を倒すのは、一人しかいない。
直前に感じた光からも、エネルの仕業だとはっきりわかる。
『………』
全員の意識がガンフォールに向いている隙に、ハルは大蛇のもとへ駆け出した。口を開けたまま倒れている大蛇はピクリとも動かない。
大蛇を目の前に考え込む。口から入ってしまえば簡単なことだが、そんな考えを戸惑わせる言葉が彼女を引き留めていた。
<ハル!やめろ!!>
ナミが食べられてすぐ自分から大蛇の口に飛び込もうとしたハルに言ったゾロのたった一言が、彼女の行動に制限をかけていた。
『(……どうしよう)』
そっと大蛇に手を伸ばせば、一瞬のうちに辺りは真っ暗になる。
<あの蛇に孫までいたのか…>
<…カルガラ>
<おまえも好きなのか、この鐘の音が!>
<ノーランド!>
<ノラ!>
……ノラ?
――――………
「ロビーン!!?」
『……っ…』
ナミの声に意識を取り戻した。大蛇から手を離し、乱れる息を立て直そうと呼吸を繰り返す。
見ればロビンは倒れゾロがエネルに顔を踏まれていた。
『……なんで』
一瞬でも意識を手放してしまった自分に舌打ちをしながらも、エネルの隙をうかがう。が、飛び出したワイパーによってタイミングを失う。
「おまえを道ずれに出来るなら…俺の命ひとつ、安いもんだ」
脱力するエネルの隙をついて脱するゾロにほっとしながらも、次の展開を待つハル。いつもより冷静な判断をしているのは、先ほど使った例の力のおかげだった。
走り回ったわけでも、戦ったわけでもないのに乱れる呼吸。自分の意思に反して見えてしまう他人の過去。おかげで一瞬にして身体は重くなり、動きがとりづらい。
「排撃貝(リジェクト)!!」
―――カチッ…ガゥーン
大きな爆発音と共に、動けなかった体は徐々にもとの軽さを取り戻す。
『……嘘』
ワイパーの足元に倒れるエネルに、ハルは空色の瞳を見開いたのだった。
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