03
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「どうしてすぐに連絡してくれなかったんですか!?」
廊下を歩く僕の後ろを苦笑しながらついてくるリーバーさん。
僕はハルの緊急事態にのうのうと列車に乗っていた。何も気づかずに。
「外傷はないんだ。死に至るわけでもない…、だから帰ってからでいいと思ってな。悪かった。」
「…記憶が、ないなら、似たようなものでしょう…っ」
ぐっと両手を握りしめるも現状は変わらない。今の僕には何も出来ないんだ。
「会っても…大丈夫なんですか?」
彼女の部屋の前で立ち止まる。ノブへ手を伸ばすことに戸惑いがある。
「…最初は多少の混乱はあったが、皮肉にも俺たちのことを"全く覚えてない"ことが幸いしてな…。話しかけたら出会った当初みたいに、小さな声で答えてくれる。」
「………」
僕にそう告げるリーバーさんの表情は今にも泣き出しそうで、大の大人がたった一人の少女のことでここまで脆くなってしまうことに驚きが隠せない。
「俺は会えないから。」と震える声で続けると、彼は背を向けて歩いていく。その背中はいつになく小さなものだ。
もう一度扉へと向き合う。深呼吸の後、ゆっくりと手を伸ばす。
―――コン…コン…
『……は、はい!』
「すみません、話がしたいんです…。今、大丈夫ですか?」
『え…えと、今は…』
「……アレン君。」
ハルの変わらないおどおどした声に、助けを乞うようなリナリーの声が続く。
思わずノブへ手を伸ばすと、それより先に扉が開いた。
「…リナリー?」
目を真っ赤に腫らしたリナリーは、綺麗に笑うと僕を奥へといざなう。
「私のことはいいから。今のハルはもっと多くの人と話をした方がいいと思うの…。」
「……ハルは?」
体を傾けたリナリーの奥に見えた琥珀色の頭。隠れるようにこちらをうかがうその姿は、初めて出会ったあの時を思い出す。
「それじゃ、私は行くわね…」
『り、リナリーさん…っ』
慌てた声に振り向くと差し出された手紙。
『これ…リナリーさんのですよね?』
「……っ…」
リナリーは手紙から目をそらすと、まっすぐに目の前の少女を見下ろした。
「確かに私宛の手紙みたいだけど、誰からかわからないでしょう?その手紙を勝手に私が持っていったら、差出人が困ってしまうわ。」
『…そ、そうです…ね。』
「だから今は受け取れないわ…。」
寂しげな笑みを残したあと、リナリーは部屋を出ていく。
残された僕らは目が合うと、同時に彼女にそらされた。
僕が「お話、いいですか?」と尋ねたけど、盛大に鳴った腹の虫にハルは目をまるくする。
「すみません…、食堂でお願いできますか?」
遠慮がちな僕の要求に、彼女は小さく笑いながらうなずいてくれた。