03
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「兄さん!ハルは!?」
任務を終わらせたばかりのリナリーが医務室へ飛び込んでくる。僕は安心させるように笑ってみせた。
「大丈夫だよ。外傷はないし、眠ってるだけだ。」
「…そう」
ホッとするリナリーはベッドのとなりに座ると、そこで眠る少女の顔をのぞきこんだ。
一昨日の夕方。突然ラビ君から連絡が入った。任務先でAKUMAが現れ、ハルちゃんが意識を失った、って。
必死に説明するラビ君はとても真剣で、けど僕はその内容に動揺しちゃって対応をリーバー君に代わってもらうほど…。
任務中のラビ君だったけど、ブックマンに連絡を取ってハルちゃんを連れて帰ってもらえば、顔を真っ青にした彼女が運ばれてきたんだ。
二日たった今も顔色は治ってきたけど、一向に目を覚まさない。
まさかあの場所にAKUMAが出るなんて思わなかった。ラビ君がいたからよかったものの、もしハルちゃんだけだったら…。
なんて考える度にぞくっとする。本当にラビ君が一緒でよかった。
もう丸二日ハルは目を覚まさない。
あの時、AKUMAはハルに触れていなかった。だから外傷はない。けど、確実にあの日のことを思い出したのは確かだ。
「くっそ…」
自分でも自覚している。オレの口から出てくる言葉はここ二日、後悔を含むものしかない。
後悔したってどうしようもないことも事実。
コムイやリーバーはハルが無傷だと知ってほっとしていた。リナリーだってそうだ。
誰もオレを責めたりなんてしない。
だからオレはハルの手を握り、この二日間で初めて彼女に声をかけた。
「早く目ェ、覚ませよ…っ」
『……っ…』
「ハル!!」
ゆっくり開かれる桃色の瞳。握る手に力を込めれば、彼女の焦点ははっきりとオレへと定まった。
『きゃあぁあ!?』
「へ?ハル?」
とたん悲鳴をあげるハルにオレは慌てて手を離した。
「ど、どうしたんさ?もう大丈夫だって」
『……や…』
ハルは素早くばふっと毛布に潜り込む。さっきの悲鳴を聞き付けてか、コムイやリナリー、リーバーが医務室へ駆け込んできた。
「ハルちゃん、起きたのかい!?」
「またラビがなんかしたの!?」
「ハル!!」
コムイたちが来ても依然として顔を出さないハル。出てくるどころか、逆に縮こまったように見える。
「ハルちゃん、心配ない。ここはもう教団の医務室だよ。」
「心配したわ。怪我がなくて本当によかった…」
胸を撫で下ろす兄妹。リーバーだけは訝しげに眉をしかめていた。
「おい…ハル、どうした…?」
リーバーの声にもそもそと目許から上だけ毛布から出すと、あの震える声で小さく言ったんだ。
『ど…ど、どちらさまですかぁ…』
黒く、深く、あいた穴