06
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「……チッ…」
小せぇからなかなか見つからねぇ。アイツのことだ。あまり遠くには行ってねぇはずだ。
何も考えず歩き続けてふと振り返ってみれば、アイツの姿はもうなかった。これだけの人混み、はぐれてもおかしくないことぐらい分かっていたのに。
「……めんどくせぇ…」
あまりの人の多さに屋根へ登るとそこから下を見下ろし探す。あの琥珀色の頭が目立たないはずはない。
「あの子、大丈夫かな?」
「……ほっとけよ」
一組の男女の声に視線を向けると、マンションから出てきた二人がおどおどと路地を見ていた。女は心配そうに、男はめんどくさそうに。
「……琥珀色の頭した小せぇ女か」
「え…?…そう…ですけど、貴方は?」
「…そいつはどこに行った」
屋根から飛び降りてきた俺を見て目をまるくする女の前に、男が眉をしかめながら立ちはだかる。
「二人組の男に連れてかれたぜ」
「……そうか…」
踵を返すと路地を行く。そんな俺の背中を男が呼び止めた。振り向けば心底呆れたような表情で、じっと俺を見る。
「おまえ、大事な女すら守れねぇのかよ」
「………」
俺は何も言わずにその場を後にした。
路地を走る。なんで俺がアイツのために走ってるのかわからない。第一アイツがはぐれるのが悪い。
けど
走るうちに視界に入った琥珀色の頭。腕を抑える男とアイツの首もとに顔を埋める男。見た瞬間、カッとなった。
―――ガッ
「…ぶはっ!?」
「……何してやがる…」
腕を抑えていた男の頭を力の限り蹴り飛ばす。自由になったアイツはカタカタと震える体を両手でおさえた。
俺を見た男が逃げ出すも俺が逃がすはずもなく、醜い叫び声をあげる男を殺った。
目を閉じ震えるアイツに手を伸ばせば触れた瞬間、払われてしまう。おそるおそる開く瞳に、俺を写すと弱々しい声で俺を呼んだ。
「ハル……、なっ…!?」
思わずアイツの名前を呼ぶと勢いよく抱きついてくる。何とか抱き止めるも腕のなかで泣くアイツにぎょっとする。
『絶対離れるな……って、…言うなら…置いて…ないで……くださいよぉ…!任務でも…いいから…っ、その間だけで…もいいから……っ、私を…ちゃんと見ててください……!!』
「……っ…」
『…ヒック……ぅっ…』
"恐かった"、そう言ってぽろぽろと涙を流すアイツはまるで子供のようで、そんなアイツに愛しさを感じた俺は腕を回して抱きしめる。
そうすれば一層嗚咽を漏らしながら泣くアイツに、俺はただ黙って抱きしめていた。
座り込むアイツは恥ずかしそうに俺を見上げる。手を差し出すと、戸惑いながらもその手を掴み立ち上がる。
『か…神田さ…』
「黙って歩け」
『は…い……』
<大事な女すら守れねぇのかよ>
守ってやるよ。俺はこの手をもう離さねぇ。もうあんな思いはさせてたまるか。
『…ありがとう、ございます』
アイツはそう呟くと繋いだ俺の手をしっかりと握る。それに返すように握る力を強めれば、アイツは嬉しそうにふわりと笑った。
"大事な女"
それがコイツに当てはまるのかはわからねぇが、ただこの笑顔が守れればいい。
これがはじめの一歩